8歳 ロード辺境伯⑩


翌日、トーマスさんが選定していた場所に温泉を掘りに行く。


我ら温泉発掘隊にとっては朝飯前の仕事である。


祭りの準備をしていた領民達は温泉が湧くのを見て大騒ぎで喜び始める。排水施設などの作業は手の空いている工兵部隊達が引き継いでくれた。ここも皆に愛される温泉になってくれるだろう。


城内の訓練施設エリアにも作ると兵士達が歓喜の声を上げる。辺境伯領は最前線エリアのためか訓練も相当厳しいようで•••疲れを癒す温泉は日々の疲労を回復してくれると泣きながら喜んでいる兵達もいる。しかし、訓練所に温泉ができたことで疲労回復が早まり、結果的に訓練がさらに厳しくなったと風の噂で聞いた•••


城内の居住スペースの浴場にも温泉を発掘した。アメリー嬢たっての希望である。ディーとオリビアに温泉と美容について語っていたようで…


作業が終わり、冒険者ギルドへダンジョンの報告へと向かう。


中に入ると私を見つけると大歓声で迎えられる。スタンピードの際に思ったより目立っていたようで…恥ずかしい。


祭りのためか、スタンピードの後処理が終わったためなのか冒険者たちは昼から豪快に酒を飲んでいる。


「賢者様のおかげでたっぷり稼がせてもらったぜ〜!ありがとうな〜!」

「賢者様、私を家臣団の一員に〜」

「私を愛人に〜」


受付でダンジョンについての情報を提供する。10階のボス部屋については濁してある。


ダンジョンの戦利品を買取に出しギルドを後にする。街の観光をしながら時間を費やす。


いつの間にか祝賀会の準備が進み、日が落ちかけそうな頃に街に明かりが灯る。

ロード家の家臣に呼び出され祝賀会場へと私達は向かう。


会場は突貫作業とは思えないくらいしっかり作られている。来賓席が私とディーに用意されていた。


”スタンピード終息 & ロード領温泉発掘記念 祝賀会”と看板がデカデカと見える…悪い予感しかしない。しばらくすると人が集まり始める。フロイ卿が壇上にあがりスピーチを始まり拍手喝采が飛ぶ。


フロイが右手を上げ、領民を静まらせる。


「ロード領都の民よ、この度はモンスターの襲来という領都初の出来事が起きた。しかし、皆の協力により重傷者もなく、この苦難を乗り越えることができた!!」


「フロイ様!万歳!!」

皆が一斉に万歳三唱を始める。フロイ卿の人気の高さをうかがい知る。


「今日は、城から酒と料理長自慢の料理を用意した。空にするまで飲んで良いぞ!!」


「フロイ様、太っ腹!!」「ご馳走様です!フロイ様!!」


「今回のスタンピードで活躍した者たちに金一封を与える。まずは第2騎士団長、工兵部隊長、両名前に出よ。寡兵で良くモンスターの襲撃に対応した。さすがは我がロード領が誇る兵士である!」


「団長かっこいいぞー!」「早く彼女つくれー!」 領民にいじられ始める2人の団長、顔を赤くしながら手を降っている。


「次に急な依頼を引き受けてくれた冒険者達。彼らの活躍がなければスタンピードの被害は拡大されていた。代表して冒険者ギルド長、前に出よ」


「よぉ!ギルド長!!!」「緊張してんじゃないのかー!」冒険者たちから野次が飛び始める。


苦笑いをしているギルド長。壇上から降りる際に冒険者達に向かってガッツポーズをしている。普段の信頼関係が見て取れる良い光景だ。


「次に、タイミング良くこの地へ訪問をしていたリゼル男爵家一行。見ていたものは多数いると思う、賢者の魔法で巨大なモンスターを葬り、この度の戦いの勝因を作った。賢者リゼルよ前に出よ!」


「あれが噂の賢者様だ…」「美少年だよ、お母さん」「ありがたや…ありがたや…」


遠目から魔法を見ていた人には空に浮か魔法使いに見え、城内に逃げ込んでいた年頃の子たちはリゼルのイケメン度合いにやられ、老人たちは拝み始める。


フロイ卿が右手を上げ、皆を静まらせる。


「知らぬものもいるので皆に伝える。賢者リゼルは迫りくる巨大で醜悪なモンスターの群れを前に聖獣グリフォンに跨り、共に空へと舞い上がり、大精霊フェンリルの力を借り氷の魔法を用いてモンスターどもを粉砕した!その後、原因であるダンジョンへ家臣団と共に乗り込みスタンピードの元凶であるモンスターと対峙し、そのモンスターを駆逐させた! 二代目賢者の名に相応しい活躍である。次に見ていたものも居たと思うが領都で皆が利用できるようにと温泉を発掘してくれた。領都の温泉は皆が自由に使えるよう無料で使用可能とする。二重の功績である。よって我が家の家宝の1つ、龍の革で作られたマントを贈呈する」


「フロイ様万歳!賢者様万歳!!」

この日一番の万雷の拍手、大声援である。


祝賀会は朝日が登るまで領都で酒宴が行われるのであった。


”私の物語に龍のマントが加わる”

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