第4話 屋梁落月


 唖の鴉達がカレーライスを食べている頃、山は何やら騒がしい様子。


「神様、電気つけてよ!」

「そうだよ、真っ暗で何も出来ないよ!」


【あのねキミ達、こうやって焚き火を作っただけでも大変な事よ?】


「唖の鴉の願いは叶えられてオレ達の事は無視するの?」


「「「そうだそうだ!!」」」


 動物軍団は御立腹。 

 一度何かを与えると、あれもこれもとなる事は分かりきっている神だが……

 確かに不公平は良くないと思い、一つ提案する。


【じゃあさ、キミ達みんなで意見を出し合って、どれか一つだけ叶えてあげる。いいかい? 多数決と言って、これは人間が── 】


「やっぱアレだよな?」

「いやいやアレしょ?」

「アレでもよくね?」


 神の話など聞くこともなく、動物たち夜の会議。

 どうせ意見など纏まらないと思った神だが、その思惑は外れる事となる。


「決まったよ、神様」


【えっ!? マジで!!?】


 皆の代表である狸が、眼鏡を掛けメモを片手に願いを乞う。

 神は遅すぎた後悔をし、腹を括った。

 

「えー、我々の願いは……65型8K、WiFi対応液晶テレビ(山でも見れる都合のイイヤツ)が欲しい!」


【随分とまぁ最新のヤツだね……キミ達遅れてるんじゃなかったっけ?】


「神様、時代は常にアップデートされてゆくモノなんだよ」


【狸に言われると腹立つわ】


 渋々指を振る神。

 あら不思議、なんと例のテレビが出現したではありませんか。

 動物たちは、子供向け教育番組 “かつて天才だったテレビくん達へ” に釘付け。

 山の奥深く、動物たちが焚き火の横でテレビ観戦する異様な光景。

 ここで栗鼠の一匹が気付く。


「ねぇ神様、これN○Kでしょ? 集金にくるんじゃない?」


【何言ってるんだい。こんな山奥に人間なんて── 】


「こんばんわ、NH○の者ですがちょっとお話を宜しいですか?」


【ファッッッ!!!?】


 ◇  ◇  ◇  ◇


 桜木の部屋では、唖の鴉達もテレビを見ていた。

 ものを知らなすぎる唖の鴉の為か、チャンネルは同じく教育テレビ。

 じっと見つめる唖の鴉。

 カラスは人間で言えば七歳児並の知能があると言われているが、言葉を話せずたった一匹で生きてきた唖の鴉は、他のカラスよりも非常に高い知能を持っている。

 その知能も、人間の身体と相まって急成長中。

 こうしている今も、人間として生きていく為貪欲に学習している。


「アンタ汗かいてるじゃん。上着脱いだ……って分かんないのかな? 白いのがシャツで、その上の厚いやつが上着。こうやって脱ぐんだよ」


 唖の鴉に真似させるよう、桜木は丁寧に説明し、実践させる。

 何度も練習する唖の鴉。

 そこで桜木はあることに気がついた。


「あれ……上着の裏に名前書いてある……?」


 桜木の通う制服のブレザーには、持ち主が判るよう裏地に名前を書くスペースがある。

 

「御子神……咲耶……?」 


 その名前に、ヤマイタチはピンときた。

 神が願いを叶える際に放った言葉。


 “御子神咲耶の名を継ぐ人と成れ”


 神の考えは分からないが……

 御子神咲耶という名前の人間に神がした事は、間違いなさそうである。

 

「唖の鴉、アンタの名前だよ。人間ってのは名前を呼ばれたら手を高く上げるんだ。ホラ、上げな」 

 

 その言葉に頷き、言われた通り手を上げる。

 意味もわからないので、お手々はグー。


「アッハッハ……もー、アンタ面白すぎ。こういう時は…………アンタじゃないよね。咲耶、こうやって手を広げるの」


 桜木と手が触れ合い、咲耶は咄嗟にその手を握った。

 カラス時代に見た、人間達がしていた行為。

 それがどんな意味なのかは分からないが、どんな関係の人間がするのかは知っている。


 憧れていた事、夢見た事。

 それは、人間界ではこのように言う。


 “ともだち”


 咲耶が見つめると、桜木は優しく握り返してこう言った。

 

「…………ふふっ、友達だね」


 誰も彼も聞いてくれなかった。

 見向きもしなかった。


 唯一人、あなたを除いては。


 耳でなくとも聞こえる声、喋れなくても話せる言葉。

 

 うまれてはじめの、ともだち。

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