領地でご家族に会いました

 初めて行ったヴァンヒューレット侯爵家の領地は自然に囲まれたのんびりしたところだった。主な産業は農業で、酪農も盛んだそうだ。


「レティ、屋敷に着いたら美味しい果物が沢山あるよ。牛乳も美味しいからミルクティーを淹れてもらおうね」

 ジークハルト様は膝の上に乗せている私の頭を撫でながら楽しそうに話す。領地の屋敷に着くまでずっと膝の上抱っこ状態なのだろうか?

 領地の山では金が採れるみたいで、ヴァンヒューレット家はかなり潤っているようだ。ジークハルト様のおうちはお金持ちなんだなと今更ながら驚いた。


 一日中馬車に揺られ(と言っても私は半分以上寝ていたけど)やっと領地の屋敷に着いた。


 ジークハルト様と私のお供についてきている侍女のリンダと私の3人で乗っていた馬車から、ジークハルト様に抱っこされたまま降りると、隣に停まっている馬車から、クロードおじ様、アゼリアおば様、ジークハルト様の妹達と見られる女の子ふたりと男の子が降りてきた。


「あら、また抱っこしてるの? いい加減に下ろしてあげなさい。そんなに執着していたらレティちゃんに嫌われるわよ」

 ナイスおば様! もっと言ってやって。私は心の中で絶賛した。


「レティは僕のものですからほっといてください」

 ジークハルト様の返事にがっくりした。私は私のものだ。

「じーくはるとさま、おろしてくださいませ。わたくしごあいさつをしたいです」

 ご家族にご挨拶をせねばならない。私は早く下ろしてほしくて、ちょっと可愛く言ってみた。

「可愛い……」

 ジークハルト様が呟く。裏目に出たようだ。


 その後すぐに、クロードおじ様が私をジークハルト様から救出してくださり、やっと地面に降りられた。


「レティシア様、はじめまして。ヴァンヒューレット侯爵家の長女のカトリーヌです。よろしくね」

「おはつにおめにかかります。くろむすこうしゃくけのちょうじょのれてぃしあでごさいます。よろしくおねがいします」

 カトリーヌ様にご挨拶をされたので、私もカーテシーをしてご挨拶をする。

「可愛い!!」

 何故かカトリーヌ様は叫んで私を抱きしめた。このうちの兄妹は抱きしめるのが好きなのか?


「ほんとに可愛い!私も抱っこしたい!!」

 隣にいる小さい方の妹サンドラ様? と双子のアーサー様? も私を抱っこしたいとせがむ。いや、あなた方も十分可愛いです。

「サンドラ、アーサー、ちゃんと挨拶しなさい」

 ジークハルト様がサンドラ様とアーサー様に向かって寒〜くなるほど冷ややかな声で言うと、サンドラ様はペロって舌を出した。

「サンドラです。よろしくね」

 可愛い。私よりずっと可愛いと思う。

「れてぃしあでございます」

 サンドラ様にもご挨拶。

「アーサーです。ほんとに可愛い」

「れてぃしあです」

 今日4回目のカーテシーだ。

アーサー様はジークハルト様から睨まれ凍りつきそうになっていた。


「お兄様が人格変わるのもなんとなくわかるわ。こんなに可愛いんですものね」

カトリーヌ様も誉め殺しか。褒めながら話は続く。

「私達がレティシア様に会いたいと言ってもお兄様は全然会わせてくれなかったの。ほんとに独り占めするつもりだったんだわ」


 サンドラ様とアーサー様も続く。

「ひどいわ。独り占めなんて。私もレティシア様と遊びたい」

「僕も一緒に遊びたい」

 おふたりの言葉を聞いていたら、急に身体がふわりと持ち上げられた。

「レティはお前達には渡さない。構わないでくれ」

 ジークハルト様が私を抱き上げて屋敷に入っていく。


 中に入るとおじい様とおばあ様らしき人が待っていた。

「あら、ジーク。あなたの婚約者?可愛いわね」

「ほんとだ可愛いな」

 おじい様とおばあ様も誉め殺しか?この家族どうなってるんだろう。


「おじい様、おばあ様、お久しぶりです。婚約者のレティシア・クロムス侯爵令嬢です。夏の間お世話になります。よろしくお願いします」

 ジークハルト様が紹介してくれたので、抱っこされたまま挨拶する。

「はじめましてれてぃしあ・くろむすでございます。こんなかっこうでしつれいします。おせわになります。よろしくおねがいします」

「まぁ、小さいのにちゃんとご挨拶できるのね。可愛い上に賢いわ」

 おばあ様、こんな挨拶くらい誰でもできますわ。私はこの家族にちょっとげんなりした。

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