婚約しました
程なくして、ジークハルト様と私の婚約が整った。
ジークハルト様のヴァンヒューレット家と我がクロムス家は共に侯爵家で身分も釣り合うし、両親達は王立学校の同級生でとても仲が良い。
「もし、レティシアに弟ができなければジークハルトが婿入りし、弟のアーサーが後を継げばいいんじゃないか」
ジークハルト様の父、クロードおじ様の一声であっという間に婚約の運びとなった。
クロードおじ様は王家の近衛騎士団の団長をしている。前の人生では、ジークハルト様も騎士をしていた。今の人生でも毎日騎士団に剣の稽古に通っているようだ。
「大丈夫だ。絶対次は男だから安心してくれ。産み分けの仕方を学んだんだ」
私の父のリチャードがクロードおじ様に向かって自信満々に言っている。本当にそんな事学んだのかしら?
でも、まぁ、父の宣言どおり、来年には弟が生まれるはず。前の人生には弟がいたから、この人生でも産まれてくると思う。
婚約が決まってから、ジークハルト様は剣の稽古の後、毎日私の元に通うのが日課になっていた。
今日もそろそろ来る時間だ。
「いらっしゃいませ、ジークハルト様」
家令のアルバートが出迎える。
きっとアルバートは〈こいつ毎日毎日飽きもせず赤ん坊の顔を見によく通ってくるものだ〉と呆れているのだろう。
「レティ、愛してるよ。今日も元気だったか?」
私を抱きしめながら耳元で囁く。
前の人生のジークハルト様はこんなこと言う人じゃなかったのに。私は眉根をひそめてしまう。前の人生で愛してるなんて一度も言われたことない。
前の人生のジークハルト様と今の人生のジークハルト様は同じ人なのに別人のようだ。
「どうしたの?ご機嫌悪いのかな?」ジークハルト様は怪訝な顔をしている私の頬にチュッと口付ける。
赤ちゃんだと思ってやりたい放題だなぁ。私は小さくため息をついた。
前の人生のジークハルト様は口数が少なく不器用だが誠実で優しい人だった気がする。年に何度か家同士の集まりや誕生日のパーティーなどで会うくらいだったが、手紙やプレゼントをくれたり、会えば優しい態度で私を大切にしてくれていた。
しかし、シャロン様が現れてからジークハルト様の態度は一変した。
私はジークハルト様にシャロン様から離れてほしいと何度も懇願したが、ジークハルト様はそれを疎ましく思い避けるようになった。それでもしつこく言い続ける私に対して嫌悪感をあらわにしだす。そしてあの日に繋がった。
今はこんなに溺愛していてもきっとまた、シャロン様が現れたら態度を変えるはずだ。
今の人生では殺される前にスパリーナ国に逃げよう。きっと女神スパリーナが呼び寄せてくれるはずだ
喋れるようになったら婚約を解消してもらい、それまでは領地でひっそり暮らそう。
1歳になったばかりの私はそう心に誓った。
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