2度目の人生がはじまった

 さっき礼拝堂でジークハルト様に斬り捨てられ、私は死んだはず。


 死んでから救いの神と話をしたような気がする。そして、私は救いの神から離れ、女神スパリーナの神子になったはずだ。

 そういえば女神スパリーナは魔法で誰かが時を巻き戻すと言っていた。私が生まれた頃に巻き戻すと。


 聞き覚えのある女性の話し声が聞こえてきた。

「フローラおめでとう。身体の調子はどう?」

「アゼリア、来てくれたのね。身体は大丈夫よ。ただ……」

「ただ……?」

 

 フローラは私の母だわ。アゼリアはジークハルト様のお母様のアゼリアおば様かしら。

 母は少し残念そうに俯きながら口を開いた。

「女の子なのよ」

「あら、別にいいじゃない。婿入りしてもらえば」

 母は明るいアゼリアおば様の言葉に少し気持ちが楽になったようだ。アゼリアおば様は言葉を続ける。

「それに次は男の子が生まれるかもしれないしね。この子の名前は何」

「レティシアよ」

 アゼリアおば様に名前を伝えてから、母は誰かを手招きした。

「ジーク、こちらに来て顔を見てあげて」

 ジーク? まさかジークハルト様なの?


 母の言葉に、ジークハルト様は私の顔を覗き込み耳元で囁いた。

「レティ、愛してるよ」

 えっ? どういうこと?


 私は自分の手や足を見た。

 小さい! 本当に女神スパリーナが言ったとおり生まれた頃に時が戻っているのか。

 

 ジークハルト様が急に母に向かって言った。


「フローラおばさま、レティシア嬢を僕のお嫁さんに下さい。このジークハルト・ヴァンヒューレット、我が身の全てを捧げレティシア嬢を愛し守ります」

 私の前で片膝をつき右手を心臓に当てている。騎士が忠誠を誓うポーズだろうか。

 

 その姿にアゼリアおば様は呆れた顔をした。

「ジーク、あなた重いわ。我が身の全てを捧げてなんて、レティシアちゃん引いてるわよ」

 赤ん坊相手に忠誠を誓うなんて確かに引く。


 ジークハルト様の申し込みに母は微笑みながら答える。

「ありがとう。旦那様に話してみるわ。でも、まだこの子は生まれたばかりなのにそんなこと言って大丈夫なの?」

 母の問いにジークハルト様はにこやかに答える。

「今、求婚しておかないと、誰かに先越されては一生の不覚になります」

 一生の不覚って何よ?


 そしてベビーベッドで横になっている私の頬に手を当て囁く。

「愛してるよレティ。今度は命をかけて守るからね」

 今度はって、前は殺したくせに何を言ってるのかしら?


「我が息子ながら重すぎますわ。誰に似たのかしらね」

 アゼリアおば様は呆れた顔をし、失笑している。


  ちょっと待って、私達は家が決めた婚約じゃなかったの? しかも婚約したのは私が5歳の時のはず。それまで会ったこともなかったのに。

 どうしてこんなに早く出会ったの? しかもジーク様の希望で婚約? 何だかおかしい。


 前の人生と違っている。

過去を勝手に変えてもいいの?


 まだ何も喋れない私はただことの成り行きを見守るしかなかった。

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