第2話 いつまで誤魔化せる?

 ただし、問題は多かった。


 俺は、女の子を装っても、所詮、ただの成長期の男。

 喉仏は出るし、声変わりもするし、体はごつくなるし、背も伸びる。

 それらは、どうあがいても化粧や衣服で誤魔化せない。

 どこまで、こんな女装と小細工で通用するか。


 救いが有るとしたら、祖母が、わりと高齢という事。

 70歳は超えていて、視力も聴力も衰えてるから誤魔化しが効く。


「薫ちゃん、今日も可愛らしいわ!ちょっと見ないうちに、また背伸びたわね!」


 祖母宅に着くなり、毎回、頭を撫でられるのだが、最近は、祖母の手が届き難い。

 高齢だから、体が硬いのも有るが......


「こんにちは、おばあちゃん!お元気そうですね」


 行儀良く、祖母に御辞儀した。


「多栄子に似て顔が可愛いのはもちろんだけど、こんな細くて背が高かったら、モデルになれそうね!」


 祖母は、毎回、俺を見てチヤホヤする。

 俺が父親似でなくて良かった。

 

「今時のは、成長が早くて、私も追い抜かれたわ」


 を強調して言った母。


「でもクラスには、もっと大きい子がいっぱいいるの。私なんて、まだ小さい方」

 

 嘘も方便、背の高さから祖母の関心を逸らそうとした。


「それより、もう暑いのに、首を覆う服装は、薫ちゃん、辛くない?」


 首を露出したら、喉仏が出ているのがバレてしまう。

 こんなに頑張って声を裏返らせるのも、無駄になる。


「薫は、日光と接触性のアレルギーが有るから、よく首回りの皮膚に湿疹が出来てしまうの。それで、暑くても首回りは覆っておかないとならないのよ」


 適当に理由付けた母。


「そうなの、医療が発達しても、アトピーや敏感肌とか悩みを抱えている人は多いものね。薫ちゃん、こんなに美肌なのに、肌が弱いなんて可哀想」


「もう慣れましたから、大丈夫です、おばあちゃん」


 明るく笑った俺。


「けなげね~。頑張っている薫ちゃんには、もっと、お小遣い弾んであげないと」


 金庫から、帯札付きの札束を持って来た祖母。


 今までの倍、100万円だ!

 俺の苦労が報われる瞬間!


「おばあちゃん、ありがとう!」


「毎週日曜日の度に、わざわざ会いに来てくれるんだから、当然だよ」


「いつも、ありがとうございます、お母さん」


 母も、大金に口元が緩みながらも、目元を潤ませていた。


「また来週、待っているよ!元気でね」


「おばあちゃんも、お元気で!さようなら!」


 かなり心は高揚し闊歩したいくらいだったが堪え、歩幅を狭めて上品に歩きながら、祖母宅を後にした。


 

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