毎日、日本政府から才能給付のお時間です

ちびまるフォイ

才能成金

ある朝のこと、郵便ポストから小さな白い封筒が送られてきた。

差出人は国の政府機関だったので、なにかしでかしたんではないかと不安になった。


封をあけると、1枚の通知書が入っていた。



『才能給付精度につき、封をあけたあなたに才能をお送りします。


 <サーフィンの才能>


 才能については選択できません。

 あなたに新たな人生の選択肢を。   日本政府』



通知書を読み終わる前に才能が備わったことは実感できた。

まるで誰かに教わったかのように体の動かし方がわかってしまう。


「サーフィンなんてやったことないけど……試してみるか」


インドアの自分がサーフボード持って海へ繰り出す未来なんて想像したことなかった。

才能給付によって、新しい人生の選択肢が開けるかもしれない。


海でサーフィンを始めると、初挑戦であるのにあっという間に波に乗れた。

他では感じられない爽快感がサーフィンにはある。


「おお! す、すごい! 乗れてる! 波に乗れてる!!」


これで異性にモテまくれば、第二の成功者人生の幕開けになるんじゃないか。

才能給付に感謝。


そう思いながら黄色い歓声を上げる集団にウインクをした。


「……ん? あれれ?」


ウインクをした先の集団は自分のことなど見ていなかった。

歓声の先には自分よりずっとサーフィンがうまい人に釘付けになっていた。


「お……俺じゃなかったのか……ははは」


新しい人生など始まることもなくさっさと海からあがって家に帰った。

翌日、また同じ封筒が届いていた。


「さて、今度はなんの才能かな」


封をあけると<フラワーアレンジメントの才能>とある。


「今度こそ。この才能で一発当ててやる!」


才能を余すところなく発揮するために生花教室に入った。

けれど待っていたのはやっぱり主役になれない自分だった。


「くそぅ……なんで俺よりすごい人がいるんだよ……」


才能給付で一定の才能はあるにせよ、世界は広く自分よりも優れた才能がある人はいる。

挑戦しようと飛び込んださきに待っているのはその人達だった。


とってつけた付け焼き刃の才能では歯が立たない。

持って生まれた才能を前に太刀打ちできなかった。



翌日も才能給付の封筒は届いていた。

もう封を開けることはなかった。


「なにが才能給付だ……こんなのクソだ。

 中途半端な才能を与えられて夢を見て……そして、絶望させられる。

 最初から才能なんてないほうがいい」


その翌日も、翌々日も欠かすことなく才能給付は届いたが放置し続けた。



ある日のことだった。

『才能給付 処分 方法』で検索していたときにふと広告に目を奪われた。

広告には給付された才能を買い取るというもの。


「使ってない才能を買い取ります……って買い取りできるのか!?」


調べれば調べるほど、才能を求める人が多いことに驚かされた。

オークションにフリマアプリ、今や才能は金塊以上に価値のある存在として取引されている。


そして振り向けば押入れにぎゅうぎゅうに詰まった才能給付の封筒がある。


「これを売れば……大金持ちも夢じゃないんじゃないか……!?」


もはや迷う選択肢はなく、溜まった才能給付の封筒を高値で売りさばいた。

必死に働くのがばからしくなるほどのお金が秒で手に入る。


「こんな簡単にかせげるなんて! あっはっはっは!!」


この世界ではみんな才能を求めている。

人より優れている自分であろうと必死だ。


でも才能なんかなくってもお金があればずっと豊かな暮らしができる。

財産こそ幸福へのきっぷなんだ。


今まで手が届きそうもない高級車を買って、

一生縁はないと思っていた高層ビルを買い、

セレブの道楽だと思いこんでいたブランドの洋服で身を固める。


そうなると、サーフィンやってても見向きもされなかった自分がモテはじめる。


「○○さんって、男らしいから素敵~~♪」

「ケチくさい男ってありえない。〇〇さんみたいな人がタイプ」

「〇〇さんはこのあと予定ある? 行きたいバーがあるの」



「はっはっは! もちろんもちろん! ぜーんぶ俺にまかせとけ!!」



「「「 きゃーステキ! 」」」


こんな調子でお金をトイレの水より使っていると、

毎日送られてくる才能給付を売って稼いだお金よりも、

日々使ってしまうお金のほうがずっと多くなってしまった。


「まずいな……もう家賃を支払える金もない……。

 かといって、売りさばく才能も手元にない……どうしよう」


あれだけあった給付才能もすっからかん。

どれだけ後悔してもお金は戻ってこない。

けれど自分に気がある異性と約束した高級バッグのプレゼントはゆるぎない。


「今から高級車を売ってお金を工面すれば……いやいやいや。

 高級車に乗ってないことバレたらドン引きされるだろうし。

 ああ、もっと才能が給付されればいいのに!!」


叫んだとき、頭の中でひとつのアイデアが浮かんだ。

選択の余地などない自分はわらにもすがる思いで封筒工場へと突撃した。


「え? 才能給付の封筒のメカニズムをしりたい?

 こんな工場の見学に来るなんて、変わっているなぁ」


工場長は不思議がったが、悪い気はしないようで封筒工場を案内してくれた。


「なるほど! こうすることで才能を封筒に閉じ込められるんですね!」


しっかりメモを取ってから、帰りに茶封筒をいくつも購入した。

家で準備を整えてから封筒に才能を入れる。


「これをこうして……こうすれば、できた!!」


才能が給付されなければ自分の才能を入れてしまえばいい。

今さら自分の才能なんて失ってもお金さえ手に入れば問題ない。

お金があれば才能がなくっても幸せになれるのだから。


「この調子でどんどん才能を……あれ。えいっ、才能出てこい!」


自分に備わっている才能をいくつも封に閉じ込めるつもりだったが、

まさかのひとつで弾切れになるとは思わなかった。


「俺の才能ってひとつだけだったのか……」


みじめな気持ちはありつつも、最後の才能ということで高い金で売った。

まとまったお金が一時的に手に入ったものの、なくなるのは早かった。


「ああ金が……金が消えていく……」


すべての才能を失った自分。

お金を使うことすらしなくなったら、なんの価値もなくなる。


金がみるみる消えていくのを見ながらも、お金を使う手は止められなかった。


気がつけば高級車は売りに出され、

高級マンションからは締め出され、

借金のかたにブランドの服たちはひっぺがされた。


あれだけすり寄ってきた人たちはいなくなり、

人のいない公園でダンボールにくるまったホームレス生活を強いられていた。


「ううう……寒い……どうしてこんな目に……」


あまりの寒さに命の危機を感じたとき、

ひとりの男が近くにやってきた。


「大丈夫ですか?」


「な、なんだあんたは!? 言っとくが金はないぞ!?」


「ちがいますよ。私はお金を渡しに来たんです」


「はぁ!?」


男は自分の前に札束をぽんと置いた。


「そ、そうやって貧乏人に金をあたえて優越感を得たいのか!

 趣味の悪い奴め! こんな金っ……こんな金っ……」


「受け取ってください。優越感を得たいんじゃなく、

 私は少しでもこの世界に恩返ししたいんです」


「恩返し……?」


「最初の私はなんの才能もない人間でした。

 でも、新たに才能を得たことでどん底から這い上がることができました。

 今ではお金もちにはなっていますが、これは私の力じゃないんです」


「……」


その言葉は才能をお金に変えた自分への反面教師のようで心に刺さった。


「私はどこの誰かもわからないですが、

 自分にこの<お金もちの才能>を与えてくれた人に感謝し、

 この才能で得たお金を、才能に恵まれない人へ送る活動をしてるんです」


「ふ、ふん! 人生の成功者さまは言うことが違う!

 あんたはたまたまアタリの才能を引き当てただけじゃないか!」


「……そうかもしれませんね。私は運がよかっただけです。

 だから今でもこうして、いただいた才能の封筒も保管していいるんです。

 才能を与えてくれた人に感謝を忘れないように……」



男は懐から1通の封筒を取り出した。

それはかつて自分が包んだ茶封筒そのものだった。

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