日常の積み重ね、描写の積み重ね、そこから見えてくる感情。文章で構築された小説というメディアの面白さはそこにあると思っていて、この作品には、その小説の面白さが間違いなく存在している。
一人の人間の希望や、絶望や、ほんのわずかな救いを、ここまで深く表現できていることに驚く。社会の中の孤独という、誰しもが抱えているであろうもの。この物語の主人公は、憧れと現実のギャップに苦しみ、それが孤独を生む。主人公が抱える悲しみや孤独は、理解してあげたいが、本当の意味では理解してあげられないのだと思う。けれど、抱える孤独の内容は違っても、質は同じなのだと感じる。それは、この物語がしっかりと孤独という感情を描き出しているからで、物語の中にしっかりと人間が生きているからこそである。
ラストシーンが特に胸に刺さる。どこかおとぎ話のような体験。けれどそれが決して突飛なものというわけでなく、彼の孤独の中から生じた、ほんのわずかな希望であると感じられる。
とても悲しく、けれど、生きていこうと強く思わせてくれる美しい物語だ。おすすめである。
この話にはモデルがいるとのこと。作者もそのために書いたと言っているが、私も同じくエールを送りたいと思う。