第7話冒険職の選択
銀狼族の少女アセナが仲間になった。
彼女の身を清め後、サザンの聖教会を目指す。
たしか聖教会は街の中心部にあったはず。そこでアセナの冒険職を選択する。
「これが街か。大きいな」
サザンの大通りを歩いていく。
初めて目にする人族の街の規模に、アセナは驚いている。
銀狼族の里は樹海の奥深くにあり、自然に沿った生活をしていた。だから石造りが中心のサザンの街並みが珍しいのであろう。
「ここは小さい方だ。王都や魔法都市は、ここの十倍以上は大きい」
「ここの十倍。それは楽しみ」
アセナは目を輝かせて、街並みを見ている。
昨日、出会った時は復讐心から、正気を失っていた。だが今は年頃の少女に相応しい笑顔である。
「さて。ここが聖教会だ」
「ここも大きい」
「聖教会は大陸でも有数の組織だからな」
他にも何個か小さな宗教はある。
だが歴史ある聖教会は、圧倒的な信者の数を誇っていた。それ故に大きな権力を持っている。
先日の転移門など古代装置も、聖教会が管理していた。
そのままアセナを連れて教会の中に進んでいく。
「手続きしてくる。ここまで待て」
「うん、分かった」
聖教会の事務室で、職業受諾の手続をする。
本来なら成人者しか、冒険職を受けることはできない。
だが賄賂の金を司祭に渡しておけば誰でもできる。聖教会とはそういう組織なのだ。
「いいぞ、アセナ。こっちだ」
「いよいよか」
ちょうど空いていたので、すぐに職業受諾ができる。オレたちは司祭の案内で、教会の奥に進んでいく。
それほど広くない個室に案内される。
水晶を持った女神像が、部屋の中央に置かれている。
この水晶に手を当てれば、冒険職の啓示を受けることができるのだ。
「アセナ。この水晶に手を置いて念じろ。自分が想う力を。それを受けて職業神の声が聞こえるはずだ」
六年前、オレもこの聖教会で職業受諾をした。
懐かしいな。
あの時は六英雄の助けとなる力をイメージした。それで盗賊という探索系の職業を習得したのだ。
アセナの場合は一体どうなるであろうか。
「なるほど。分かった、ソータ。私は“力”をイメージする。誰にも負けない銀狼。その鋭い牙のような」
「そうか。やってみろ」
真剣な表情でアセナは、水晶に手をかざす。
おそらく彼女は直接武器で戦う、前衛タイプの職業を望んでいるのであろう。
里を滅ぼした敵で魔剣使い。それを自分の手で打ち倒すための力を欲していた。
たしか銀狼族は俊敏性と攻撃力に優れた種族である。
器用さと魔力は低いので、前衛タイプはちょうどいいのかもしれない。
「すごい、ソータ。頭の中に声が聞こえてきた。強そうな職業が何個もある」
どうやら彼女の願い通り、前衛系の職業が選択肢に出てきたらしい。
前衛職といえば戦士や格闘家、槍使いが普通は多い。
「そうか。自分の直感で選んでみろ」
「うん、わかった」
最後の選択は本人に任せることにした。
なぜなら人に強要されるより、自分の意志で選んだ職業の方が、成長していくのが早い傾向にあるという。
それは今まで出会ってきた冒険者から、聞いた経験談である。
「選んだぞ、ソータ」
「そうか。何にした?」
「“幻影剣士(げんえいけんし)”……それにした」
「幻影剣士だと? 凄いな。それはレア職業だ」
一般の冒険職の中には特殊な職業がある。
それがアセナの選べた“レア職”。英雄職ほどではないが、凄い職である。
普通の冒険職には無い特殊なスキルを、習得していけるのだ。
強さの順番でいったら
一位:英雄職
二位:レア冒険職
三位:冒険職
となる。もちろん戦い方の相性や、成長の仕方で多少は違ってくる。
だがレア職で弱い冒険者には出会ったことはない。大当たりである。
「そうなのか、ソータ? それにしても凄い。力が湧いてくる」
「それがアセナの本来の潜在的な力。そして職業補正の力だ」
聖教会の控え室に移動して、興奮する彼女に説明する。
冒険職を得たことにより、人は急激に新しい力を得る。筋力や素早さなどステータスが、一般人よりも向上する。
さらに体力が増えて疲れにくくなり、傷の治りも早くなる。この力があるからこそ、冒険者はモンスターと戦うことが出来るのだ。
「これで私も魔剣使いに勝てるか?」
「そのレア職業でも微妙だな。だが上級職にクラスアップできれば、ワンチャンスはある」
冒険職のレベルを上げていくことで、次の上級職に転職が出来る。ちなみに前回のオレは、盗賊から怪盗にクラスアップしていた。
クラスアップの恩恵は大きい。
まずステータスが爆発的に向上して、新しい特殊なスキルも習得できる。
レア職の幻影剣士はたしか、スピードと攻撃力に特化していたはずである。更にクラスアップ出来れば、魔剣使い相手でもワンチャンスはあるであろう。
「なるほど。ワンチャンス狙う」
「たしか幻影剣士はスピード重視だ。それなら最初の武器はコレにしろ」
職業を得てテンションが高いアセナに、武器を渡す。
魔道袋に収納しておいた、賊の使っていた短剣。質はあまり良くないが、初心者向けにはちょうど形状である。
「これは短剣? 私の持っていた長剣はどうした?」
「アセナはまだ力が弱い。レベルが上がるまで、預かっていよう」
焦る彼女を、落ち着かせるように説明する。
初心者はどうしても、大きくて強そうな武器を買ってしまう。
たしかに大きな武器は威力が高い。
だが技術と体力がない初期では悪手。体力を消費した時の重い武器は、致命的なミスを生み出すのだ。
「そうか。分かった。これで最初は我慢する」
「ああ、お利口さんで助かる。形見の長剣は必ず返すから、安心しろ」
アセナの持っていた長剣は、彼女の父親の形見だという。
武の誉れ高い銀狼族の族長の剣。かなりの業物で魔力も秘められていた。アセナがもう少し成長するまで、魔道袋で待機だ。
「さて、次は冒険者ギルドに行くぞ。そこでアセナを冒険者として登録だ」
「おお、冒険者ギルド! いよいよか!」
アセナは大興奮して狼耳を立てていた。
彼女の最初の目的は冒険者なること。そして剣の腕と心を磨いていくことであった。
モンスターとの命がけの実戦は、どんな訓練にも勝る上達への道。迷宮や遺跡で得られる武器や道具によって、更に強化も可能なのだ。
「あとオレとのパーティー登録もする」
「ソータと同じパーティー。嬉しい!」
今のオレはソロ冒険者としてギルドに登録していた。だから彼女と新しいパーティーを組む必要がある。
「さあ、早くしろ。置いていくぞ」
「おい、待て、ソータ。仲間を置いていくな!」
こうしてアセナは冒険職を手に入れた。次にオレたちは冒険者ギルド向かうのであった。
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