第26話
「ご飯作って解散する流れでどうにかなると思います?」
私はディアルディさんに言ったつもりなのだが、反応したのはノエル様だった。
「作ってくれるのか」
「やったー! 食える!」
しかも向こうでやり合ってる筈のセアノスさんまでこっち見て叫んでる。
ディアルディさんとノブセンタクさんが揃ってため息を吐いた。
「鳥に関わるとろくなことにならないと言うが、全くその通りだな」
「なんとかなるかと思ってたが、まさかこっちの嬢ちゃんが引き起こすとはな……」
諦めた感満載のノブセンタクさんが、戦闘を続ける残り三人から離れこちらにやってきた。
まるで私がやらかしたみたいに見られるのは……客観的に関係者に見られても仕方ないとは思っているが、私が引き起こしたことではない……のだけど。言ったところで意味はないし時間の無駄なんだろうな………
「……とにかく、今は腹を満たせば解散とい事でさっさとやってしまいましょう。皆さんも時間が惜しい筈です。ノブセンタクさんは他の班員さんが彷徨ってないか確認してもらえませんか? こんな事で点数落とすとか気の毒すぎますから」
そうお願いすればノブセンタクさんは束の間沈黙してから、まぁなと頭をかいて夜の暗い森へと入っていった。理性的な人で良かった……怒りの矛先をこちらに向けられたらどうしようかと。
「セアノスさんも班員の方を連れてきてください」
「ええ? 来たきゃそのうち勝手にくるだろ?」
「独断行動で迷惑かけているのはセアノスさんです。連れてこなければ食べさせません」
「連れてくる!」
一瞬で前言撤回して飛んでった。
「ノエル様もですよ」
「…………仕方ない」
そんな難問を前に渋々譲歩するみたいな顔をされても……全く仕方がなくないどころか、ノエル様がここにいるなら今頃残るもう一人の学問科は取り残されて泣いてるんじゃないか?
「バルトさんもそのままガラナさんと手合わせしてたら食べられませんよ」
ノエル様が行ったのを確認して、いまだにガラナさんとじゃれてるバルトさんに声をかければ、え!?という顔に。
「ガラナさんも迷惑を掛けたお詫びという事でよければ食べて行ってください。なるべく早く準備しますから。その方がセアノスさんも素直に演習に戻ると思います」
「はあ?」
「バルトさんとやってたらご飯作るのが遅くなります。余波でご飯ダメになるかもですし」
「ガラナ、一時休戦だ」
「なっ!?」
真顔で即座に休戦を宣言したバルトさんに、でっかい声でガラナさんが反応した。
「大将がガラナとやって休戦なんて生まれて初めてだからな……そりゃ驚くだろうよ」
疲れた声音でディアルディさんが反応の意味を教えてくれるが、戦いをやめてくれるのならもうなんでもいいです。さっさとご飯作ってお帰りいただいて、それで明日狩りしてゴールしてお終いだ。そうしたい。何でこんなことになってんだ。もう一度言う。何でこんなことになってんだ! 声を大にして言いたいけど、お前が言うなって言われそうだから言えない!
「メルシーさんとシュプリさんはこれをお願いします。もう一度火を通して、これを千切って中に居れて火が通れば出来上がりですから。ディアルディさんとバルトさんとで食べててください」
直接渡したら熱いので平なところに置いて、その上に準備していた団子の元を入れていたカップを置き、後ろにいた二人にお願いする。まだ体調が悪いだろう二人にお願いするのは申し訳ないが、不機嫌マックスのディアルディさんにお願いするのも気が引けて……
「仕方がないわね、貴女はさっさとやる事をやりなさい」
「メルシー?」
「シュプリももう平気でしょ、少しは働かないと減点されるかもしれないわよ」
班内の点数はよほどなことがない限り同じ点数が割り振られると聞いた。なのでメルシーさんが言っている事は嘘だとすぐにわかる。
だけどシュプリさんは小さく笑った。
「そうだね。それは困る。ニーナさん、こっちは大丈夫だから彼らの方を頑張って」
背中を押されるような言葉をもらい、はいと頷いてすぐに取り掛かる。そうしないと受け入れてもらえたことが嬉しくて崩れる顔を隠せそうになかった。そんな顔を見られたらまたメルシーさんが怒りそうだ。
二人のおかげで随分気持ちが楽になった。
ノエル様が持ってきた鳥とセアノスさんが持ってきた猪豚を確認し、血抜きが終わっていたので鳥の羽からむしる。
毎回鳥の羽ををむしるときに思うのだが、鳥族が鳥の羽をむしるってすごい光景ではないだろうか。これを言ったら牛族とか豚族とか鹿族とか兎族もなんだけど、基本的にあちらは肉をあんまり食べないらしいのでやっぱり頻度としては鳥族が鳥の羽をむしる行為が一番目につくのではないかと思う。
もちろんただの鳥と鳥族は全くの別種で同族みたいな感覚はないのだが、元ヒト族としては変な気分になるというか。
風下の少し離れたところで穴を掘りそこで手早く捌いていくと、ガラナさんがやってきて眺めだした。
「手先が器用だな」
「器用と言うか、昔からやってますから慣れです」
謙遜でもなんでもなく何百回とやってればこれぐらいは普通だと思う。
「そのナイフやけに切れ味がいいな」
黒い刀身のナイフが気になるのか、顔を近づけてくるガラナさん。危ないし邪魔なんだが。
「それ……まさか、アダルガルマンか?」
あだ?
「何かは知りませんが昔父が討伐した魔物の素材で作ったそうです」
切れ味が全く鈍らないから重宝しているのだ。欲しいと言ったら普通にくれた。
肉を切り分けて塩と手持ちのハーブをもみ込み、作った木の棒に刺していく。
「これを焚き火から少し離して地面に突き刺してもらえますか?」
「……え? あ、あぁ」
ナイフを食い入るように見ていたガラナさんは反応が遅れたが、お願いは聞いてくれた。
「ついでにそちらの焚き火からもう二つ焚き火を作っておいてくれませんか? いっきに焼いた方が早いので」
「…………」
ガラナさんは何か言いたげな顔をしてきたが、口を開いてから暫くして閉じると、言う通り焚き火を作ってくれた。
鳥が終わったので猪豚を木に吊るし、皮を剥いでどんどん捌く。粗方解体が終わって肉を木の棒に刺す段階にはぞろぞろと人が集まり出した。
ノブセンタクさんとセアノスさんに連れてこられた学問科の二人は三班合同でご飯を食べることに唖然として、そしてノエル様に連れてこられた二人も何がどうなっているのだと立ち尽くしていた。
「後は焼くだけですから。班ごとにわかれていればまだ気も楽でしょう」
どうぞどうぞと場所をセッティングして座ってもらい、バイキング形式の焼肉と同じで自分たちで肉を焼いてもらうようにする。
それでようやく私も一息ついた。
メルシーさんが水を出してくれたのでありがたく手を洗い、それからバルトさんが最初に作ってくれた焚き火でやっとご飯にありつける。
スープは、団子がふやけてしまってぐにゃぐにゃだったが味はまぁまぁ。何より暖かいのがいい。ほっと息を吐くと、目の前に串を差し出された。
渡してくれたのは意外にも仏頂面のディアルディさんで、戸惑いつつもありがたく頂戴する。たぶん、そこまで私に対して怒っていないという意思表明ではないかと思うが……思いたいが……
聞きたいけど聞くのもあれで、誤魔化すように齧り付くとジューシーな兎肉にハーブのピリッとした辛味が効いていて食欲をそそる。味自体は塩が主体だが、それなりに美味しいと思う。
「ヒナちゃん、俺のもうまいよ」
「それは良かったです。どうぞそちらで食べててください」
何故かこちらに焼けた肉を持ってくるセアノスさん。
「味は私の方がいいはずだ」
対抗してなのか、鶏肉を持ってくるノエル様。
「どっちもおいしいお肉ですから、どうぞそれぞれ食べてください。そして静かに食べさせてください」
精神的に疲れてきて言えば、右にセアノスさん左にノエル様が座って無言で左右から肉を出された。
……違う、そうじゃない。食べさせてくれって事じゃないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます