第9話

唇を重ねている時に、気が付いた事…それは…

レンの唇は、とても柔らかかった。最初…

レンは戸惑っていたのだが、

『しずくに何か聞いた?鈴村君…。』

『いや……何も…』


俺は勇気を出して…

『三門さん…。俺、三門さんの事…看護士と患者の関係じゃなくて……』

次の台詞を吐こうとすると…レンは笑う。


『私の気持ち……通じたのね?嬉しい!』

いつの間にか恋に落ちていた事を…


2人きりしか居ない病室で…お互い話をしていた。


俺はある事を思い出す。

『レン……俺、そういえば、夜勤も始まるんだ。それに…休みもある。夜勤明けは休む事になってるんだ。だから……。』

レンが、きょとん…

とした顔をしていた。


『そんな、仕事だもの……寂しいけど…逢えた時は…嬉しいじゃない?それに……。』


『それに……?』


『私が歩けれる様になって…退院したら…普通のカップルみたいに、遊びに行けれるじゃないのぉ……鈴村君て心配しすぎっ♪』


『ははっ。そうだよな?俺、レンの事になると…すんげー心配しちゃう。何でだろ?』


『クスクスっ♪』


レンは学校にまた通いたいとも話していた。

普通の高校2年生だもんな?

仕方ない。でも世間のレンを見る好奇な眼差しとか?


大丈夫だろうか?


(俺が守ってやらなきゃいけない。)

と強く思った。俺は…レンを大切に想い過ぎるが余り、

レンにとって負担に、なる日が来るのではないか?


などと余計な事を、考え出してしまう。


『……くん?鈴村君?お~い?』

『……!』

ハッとすると…レンが俺の顔を覗き込む。


レンはいつ見ても…

可愛い。好きになればなる程に……

俺は…レンのまぶしい笑顔に…幸福感と不安で…


感情が入り交じる。


レンは俺の不安をまるで気にしてない様子で…いつも、

顔を覗き込んでは…

『鈴村君?』

と…誰にも見せない、とびっきりの笑顔を、俺に見せるのだ。


『俺、明日休みだから…。ごめんな?』と話すと、レンは頬っぺたをぷく~と、

膨らませ、つまんないわ!と少々怒った芝居をするので……


『また外に花を見に連れていくから…。』

『え~?今度は缶コーヒーおごって~?』


『分かったよ、美味しいヤツな…?』

『うん!約束だよ?』

とレンは、また笑顔になる。


ナースステーションで仕事が残ってるから…ちょっと席を外すからな……?

とレンの個室を後にすると、レンはまた空を見ていた。


『鈴村圭斗君?』

名前を呼ばれ、振り向くと…院長先生が、そこには立っていた。


院長先生は一つ咳払いをし俺に…こう言った。

『鈴村圭斗君?だよね?君、三門レンとは…どんな関係なんだ?……』


俺は…その言葉を聞いて背筋が凍りつくのが分かった。顔からも、血の気が引いていた。


『あ……!ただの、友達です……。』

『友達?……』院長先生は食い下がる。


『患者と看護士だろ?君、もしかして…?』院長先生は怪訝な顔つきになる。

俺は額に冷や汗が、出ていた。拳を握りしめ、震えていた。


院長先生は、言葉を続けた。その場にいる、ナース達も俺に注目しているのが…分かった。

『君を特別な感情で…見ている。いやお互いにだ!……いつからなんだね?鈴村圭斗君?話の内容によっちゃ……悪いけど、辞めてもらう事になるが、どうなんだ!……』


『……………。』

俺は…何も反論が出来なかった。やはり院長だ。何もかも……

お見通しだったんだ。


俺は肩を落とし、観念した。そして素直に打ち明けた。


『俺は……レンさん…いや、三門レンさんの事を、特別な感情を抱いてます。レンさんに対して…今後…責任を取る気持ちには……代わりありません。』


院長先生は、しばらく考えていた。

ナース達もシーンとしている。


院長先生は続けた。

『患者と特別な仲になるならば、条件を付けて良いかな?……』

『特別な仲になるという事は決して珍しい事ではないんだ。三門レンがあんなに人が…変わるには恋愛感情が、芽生えているんじゃないか?とは……薄々感じてたよ、』


『…………。』


『条件とは…今後…彼女を裏切らない、決して!約束出来るかね?今後の君の人生を左右する事にも、なりかねる。明日……休みだよね?鈴村君……よく考えてくれ……。』


『………………。』

『一時の気の迷い…じゃなければ、それでいいなんて、生易しい考えじゃ、ないよな?』


『……俺、レンさんと居ると…幸せなんです。俺が…間違ってるんですか?』


『大切に想う事が…?間違ってるんですか?……。』


『ちょっと…君は向こう見ずなところが、ないかね?よくよく…冷静に考えてくれ……良いね?中途半端な感情は、彼女には必要ないんだ!…』


俺は……その日の仕事を、こなせなくなる程にショックが

大きかった……。


レンには…当分の間…違う担当者が、


付く事に決まっていた。

俺は…仕事が割り振られても、



患者のお膳を片付ける仕事しか、


与えられなくなった。

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