第8話

レンの歩行訓練が本格的に始まった。

3階から…飛び降りた衝撃で腰に傷を負っていた。その後、

手術をしたものの……担当医は、

『本人が、やる気を出せないのなら…強制的にリハビリをやる訳には…いかないだろう?』という判断だった。


そんな何事にも…冷たい態度を取っていた、レンが心を開き始めている……担当医が、


リハビリの様子をたまに見に来ては…カルテにレンの状態を黙々と書き写していた。


じゃあ!よろしく…

と一言残して…院長先生はその場を後にした。


レンはリハビリ担当者の女性と仲良く会話を挟みながら、

また真剣に取り組んで居た。レンが倒れそうになると…

俺は気が気じゃなかった。レンがリハビリ室から俺の様子を見ている。


レンはニコッと笑っていた。

リハビリをこなしていく…レンに対して…

女性の担当者は、こう言っていた。

『三門さん!貴女は素晴らしいわ!どうやったら…そんなに前向きに成れるのかしら?他の患者さんにも…良い影響力だわ!さすがね?三門さん!』


レンは照れながら、

『鈴村君のおかげなんです。私…自分が、一番可哀想って勘違いしてました。だけど……そんな考え方が、間違ってるって。…ふふっ。』


『ふふっ♪鈴村君ね?近頃…三門さんを救ったって評判よ?彼は彼なりに…三門さんの事を気にかけてくれたのね?良かったじゃない!話の合う看護士さんで……。』


その言葉を聞いたレンはニコッと担当者に、笑顔を向けた。

リハビリ担当者の名前は、近藤さんといった。近藤さんいわく…レンと鈴村君は、

とても良いコンビね♪と喜んでいた。


リハビリが一通り終わると…レンは汗をかいていた。近藤さんが、

『三門さん!お疲れ様でした!』と声をかけていた。

レンが近藤さんに…


『またお願いします』

と頭を下げていた。

近藤さんに俺が会釈をすると…手を振って、答えてくれた。


リハビリ室から移動する時は…俺がレンの

車イスを押す係になっていた。


レンは、久し振りに運動したわっ。汗かいちゃった。と…とても

イキイキしていた。


俺が…『良く頑張りました!グッドです。初日から飛ばすなよ?』と話すと……


『え~♪楽しいもんっ。鈴村君ってば、私の親みたいな目で…凄く心配してたでしょ?ふふっ♪』

『怪我したら大変だろ?』

『は~いっ♪』


そんな…他愛もない話が、いつまでも…

続いていた。レンの病室に着くと…双子の兄のしずくが居た。


しずくは俺の顔を見るなり、不思議な顔をしていた。

『あの~…あなたが鈴村さん?』

『!あ……はい!』


しずくがレンの変貌ぶりを見ていた。

『ちょっと……鈴村さん…話が…。』

しずくが俺に手招きをして…個室にレンを置いてきた。


『しずくです。レンの兄なんですが、鈴村さん……もしかしたら…レンに特別な感情を…抱いてませんか? 』


そんな言葉をいきなり、しずくは投げかけてきたので…俺の顔の変化を…しずくは逃さず見ていた。


『やっぱり……。』

としずくは、タメ息をついた。俺が…そんな感情を表に出していたとは…?自分では…

分からなかった。


『2人は、どこまでの仲なんですか?』

しずくはストレートに聞いてきた。


俺は…素直に話した。

『俺の片思いです。』

と下を向いていると…しずくが意外な反応を示した。


『鈴村さん…それは違う。レンもなんだ。』

『!』

え………?

俺が驚いて顔を上げると…しずくは笑っている。レンに良く似た笑顔だった。


しずくは話を続けた。

『アイツ、昨日の消灯後に連絡してきてさ、好きな人が出来たつって……幸せだから、って…いきなり聞いたから…また変な奴だったら、ぶん殴ろうと思ってた。だけど……鈴村さんの顔見たら……帰って安心した。これからもレンを…妹を…支えてやって…?これ俺らだけの秘密ね。…』


『俺らだけの秘密?』


途端に俺は…顔を赤くなっていたのであろう。しずくが、


クックッと口を押さえて笑っていた。

『ありがとう!鈴村さん……。』

と言葉を残して…仕事へと向かって行った。


病室に一人……置き去りにされたレンは、

『鈴村君?鈴村くーん!何処に行ったの…?』


と病室から声が聞こえてきた。


しずくの言葉が耳に…残る。


『いや、アイツもなんだよな?……』


意外にも…両想いだったとは…。


俺は幸せいっぱいな、気持ちになり……


その日を境に……

人の目を盗んでは…

互いに確かめ合うかの様に……



唇を重ねていた。

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