第10話 揺れる心

原田との関係になってから二ヶ月が過ぎようとしていた。


二人が会うのは夜の個室居酒屋。


カラオケ。


人目につかぬように。


普通とは違う。そんなことは当たり前だった。それが二人の選んだものなのだから。


連絡はほとんど取らない。


会社で平日は毎日会えるのが救いだと京子は思っていた。


あくまで上司と部下として。



こんな関係続けていくことに意味などあるのだろうか。


原田の奥さんへの罪悪感に襲われる。


つばさへの気持ちはとっくに薄れていた。


この頃の京子は本当の意味で何も分かってはいなかった。



自分自身を蝕むことになることも。


京子の気持ちは乱れることが多くなっていた。



不安、自分への苛立ち。

嘘をつきながら誰にも話す事のできない過ち、京子たちは恋をしているのだった。


いっそのこと何もかも終わらせてしまいたい。勝手に京子が足を踏み入れたものなのに終わらせたいと思うようになっていた。


いつだって人は勝手だ。自分の気持ちばかりを優先してしまう。


原田とも喧嘩が増えた。


「結局あなたは、結婚している。」

「奥さんがいる限り無理なことは分かっているわ。」「なにもかも無理なこと。」


「俺が好きなのは松下さんなんだよ。」


「俺が悪いんだ。今の奥さんとは結婚するつもりはなかった。ただ相手は歳上でその頃結婚をせかされて勢いでしてしまったんだよ。」


あの頃俺は25歳で若かった。


「本当に好きな人ではなかったんだ。でも君と出会ってそれがよく分かった。」


「奥さんには悪い事をしたと思っている。」


「心から好きだとおもえたんだよ。松下さんのこと。この人の笑顔をもっとそばで見ていたいって。」


「俺の人生かけるよ。」


「人生すべてあげるよ。松下さんに全部あげる。」


原田はそんな事を言っていた。


そんな事言ってほしかったわけでも京子はなかった。



「なら離婚して。」


ぽつりと一言そう京子は言って居酒屋を後にした。


それから原田とは一切会社の外で会うことはなかった。


一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月と月日はあっという間に過ぎ季節がまた変わった。



原田は社長のデスクの前にやってきた。


「実は先月私事ですが離婚しまして、手続きを行ってほしいのですが。」



社長は目を丸くして驚いていた。


「あぁ、そうか、分かったよ。」

「扶養だったよね。手続きしてもらうように頼んどくよと。」


原田は結婚10年という節目を迎える事なく終わらせたのだった。


静かな社内がいっそう静まりかえった。


京子は心の中で心臓が裂けるくらいに驚いてた。本当に離婚するなんて。


まさか原田が本当に離婚するとは思っていなかったのだ。



嬉しいというよりは驚きと戸惑いのが大きかった。



そして、京子はほんとうに原田純という一人の人間の人生を奪ってしまったのだ。



京子は幼に頃から望んだことは全て叶ってしまう方だと思っていた。


あのぬいぐるみがほしい。あのくまさんがほしいの。


翌日ぬいぐるみが枕元に置いてあったのを思い出していた。



京子が願うと叶うことが多かった。


また私が望んでしまったからだと考えていた。


良いことも悪いことも望むと叶えてしまう。そんな力が自分にはある気がした。





これで本当に良かったのだろうか。









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