第9話 もう戻れない
その時は一瞬だった。
人は恋をしようと思っても心一つ動かない。いつのまにかその人の事を想い考え目で追い、戸惑い不安になる。それでもその人の事を考えることをやめられない。
京子にとっても原田がそんな存在になったのは初めて二人で過ごした大衆居酒屋の日から秋になろうとしていた頃だった。
それは原田も同じことだったのだろう。
惹かれ合う男女がそんな関係になるのには時間はかからなかった。
二人での飲み会のあと誘ってきたのは原田の方からだった。
男は単純だ。女も単純なのだ。
二人はタクシーに乗り近くの廃れたホテル街へと向かった。
ホテルにつくと、
二人は初めてのキスをした。
「んっ原田さん。ずっとこうしたかったです。」
「俺も。」
無機質なこのどこにでもあるホテルが京子にとってはなんだか生々しく余計に興奮させた。
薄暗い部屋で二人は繋がった。
原田には奥さんがいる。
京子には彼氏がいた。
こんな関係はどんなことが起きても自分には無縁だと勝手に京子は思っていた。
京子は無邪気な子供でもなかったし、これといって夢などあった学生時代でもない。
あっという間に歳だけ重ねている気がどこかでしていた。
人生なんて冗談だろうと思う事の連続だと思う。
人生一度きりしかないと分かっていても、行動に移す人間はどのくらいいるのだろう。
理性とはなんなのだろか。
この人意外いない、そんな風に思って過ごしているカップル、夫婦はこの世の中この世界でどれくらいいるのだろうか。
何億万人との人の中で互いに惹かれ合うなんて確率はどれくらいなのだろうか。
京子にとって人生の分岐点だったのかもしれない。
歯車が狂い始めてしまったのかも知らない。
何かを求めることは、なにかを犠牲にすることにすぎなかった。
誰かが笑っている間に誰かが泣いているように。
矛盾と現実と誰もがその狭間でもがきながら生きているのだろう。
そうやって
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