My Ignition

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 バーベキューは楽しかった。それは間違いない。

 だけど小紅との関係が微妙にぎこちなくなった気がする。俺は彼女のそばにいたいけれど、小紅が俺を避けているような気がする。小学生や中学生の頃に同級生から感じていた、疎まれるような疎外感とは違う。彼女から感じたのは薄ぼんやりとした焦燥と、そして……なんだろう。あの感覚は、宇宙人の俺には表現が難しい。

 ま、それはいいか。

 時間が解決することもあるだろうと、俺は無視を決め込む。

 今日は香奈城とゲーセンに来ていた。

 親友がリズムゲームをするのを、後ろからぼんやりと眺めている。俺はあまり得意ではないし、好きでもない。でも、画面で花火のようなエフェクトが弾けるのは見ていて楽しかった。

 パントマイムをするように、香奈城が両腕をぐるりと回す。画面では光が弾けて、香奈城のスコアが面白いくらいに伸びていく。運動の苦手な彼が、唯一得意としているゲームだった。

「……たぁ! もう、おしまいかぁ」

「よっ、お疲れ。休憩するか?」

「うん。悪いね、僕の趣味に付き合わせて」

「お互い様だろ。それに、お前が躍っているのを見るのは楽しい」

 アイドルのライブを最前線で見ているようなものだ。

 香奈城の後ろ姿しか見えないのが残念ではあるが、正面から彼の笑顔とダンスを向けられて耐えられる女生徒はいないだろう。男の俺ですら、少し眩暈がするほどに、彼は美形なのだから。

 クレジットを使い切ったところで、香奈城と一緒にベンチで休憩することにした。彼の後にやり始めた女の子は、彼よりも少し上手みたいだ。同じ難易度でプレイをしているけれど、画面端に表示されたコンボ数が彼よりも多い。

 ぼんやりと同世代の女の子を眺めていたら、香奈城に声をかけられた。

「浦島もやればいいのに」

「んー、今日は気分じゃないんだよなぁ」

「とか言って、いつもやらないじゃん」

「ははっ、そうかもな。自己表現って奴に、苦手意識があるのかも」

 宇宙人だから、自分の内面を晒すのに抵抗があるのだ。

 嘘だけど。

 それはそれとして、ダンスゲーは苦手だ。体育でダンスをするようになっても、どうにも人前になって踊る行為に慣れることはない。国語の授業で音読をするのとはわけが違うのだ。友人達の視線が自分へと集まって、ダンスの良し悪し、振り付けの是非を採点される。それが、どうにも苦手だった。

 仮面をつければ幾分か改善するかもしれないが、中学時代の先生はそれを許してはくれなった。なんでも、前例がないことはやらせてもらえないらしい。高校でもダンスの授業があるだろうけど、もし仮面が許可されなかったら授業そのものをサボることも視野にいれておこう。

 大丈夫。今年はまだ、授業をフケてないのだから。

「ね、浦島」

「ん?」

 香奈城の声に現実へ還る。

 俺達の後にゲームをしていた女の子は、いつの間にかいなくなっていた。

「相原さんよろしく、勝負してみる? 僕は強いよ」

「得意フィールドで戦おうとするなよ。音ゲーはお前の十八番だろ」

「それじゃ、別のゲーム探そうか?」

「まぁ……それだと俺が有利すぎるけど」

「ちょっと、僕には音ゲーしかないって言いたいの?」

「いや、そうだろ。ずっとつるんでりゃ分かるよ」

 ドンと胸を叩くと、なぜか香奈城は嬉しそうに笑う。

 やはりダンスゲーには自信があるようだ。中学の頃、クラスの女の子とゲームセンターに行ってキャッキャと騒がれていた奴だ。俺はダンスの授業が苦手だったのもあって、綺麗に踊れる香奈城が羨ましい。

 俺達が休憩所のベンチから動かないでいると、先程とは違う女の子が筐体の前に立った。難易度は並の選択だったが、楽しそうにゲームをしている。彼女がパーフェクトコンボを達成したのを見届けつつアイスをかじった。クレジットを使い切って、さっぱりした笑顔と共に台を降りる。帰り際、爽やかな笑みを残して、彼女は俺達にぺこりと頭を下げていった。

 無人になったゲーム機が、青白い光を発している。

 誰かを待っているようだった。

「ね、浦島」

「ん。どうした香奈城」

「最近、付き合い悪いね。前は毎週のように遊んでいたけど」

「高校生になったら、なんか忙しくなったんだよな……」

「アルバイトも始めたんだろ。しかも相原さんのいる”紅や”で。浦島、相原さんとどんどん仲良くなるよね。正直僕は、羨ましいよ」

「香奈城も仲良くなりたいのか?」

「そうだなぁ。……うん。仲良くなりたいよ」

 立ち上がって、香奈城は再びリズムゲームに向かった。彼がクレジットを入れる横で、俺もセカンドプレイヤーとしてゲーム機の横に立った。背伸びと屈伸、そして足の腱を伸ばす運動だけはやっておこう。

 準備運動を済ませて、俺は臨戦態勢を整える。

 気合も十分だ。

「お、やるんだ。珍しい」

「あぁ。競争しようぜ。俺が負けたら飯をおごるからさ。その代わりに、香奈城に頼みたいことがあるんだ」

「なんだよ、勝ち負け関係なく頼めばいいだろ」

「……俺が勝ったら、でいいよ」

 覚悟が欲しいのだ、俺は。

 勝ちたいと思うほど、本気になれることを確かめたい。

 財布から取り出した百円玉を二枚、コイン投入口から飲み込ませる。

 慣れた動きで楽曲を決める香奈城に頼み事の続きを話した。

「俺が勝ったら、デートのいろはを伝授してくれ」

「……は? デート?」

「あぁ。俺にも、追いかけたい相手がいるってことだ」

「そっか。それじゃ、負けられないな」

 にこやかに笑う香奈城が、歯を見せて笑う。

 やっぱりコイツはイケメンだなぁと、その顔をみて溜め息を吐いた。

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