第236話 陰謀? 発覚

 翌日、商会で貸切の相談者及び予約者を調べて、僕は思った。

 やられた! と。


 1泊2日の方はブローダス子爵領立農業公社の予約となっている。

 何となくパトリシアの影を感じるがそれは別にいい。


 問題は2泊3日の方だ。

 こちらの日程は25、26、27日で、相談者と予約者がシックルード家となっている。

 勿論僕が相談した訳では無い。


 これは間違いなくウィリアム兄の仕業だろう。

 しかしそうなると……


 関係者について、もう嫌な予感しかしない。

 僕が思い出したのはフェリーデ北部縦貫線の開通記念式典だ。

 あの時僕とカールが案内した相手は、アンブロシア領主代行、ダーリントン伯、そしてアルガスト皇太子殿下。

 

 よく考えるとあの場、今回の結婚式の主役が2人ともいたのだった。

 あれもウィリアム兄経由で来た話だったのだ。

 気付くのが遅すぎた。

 そう思ってももう遅い。


 それに施設の予約確保に動いたのが9月上旬。

 そもそも結婚式当事者の片方であるカールがローチルド行きを決める前後という時点だ。


 そこまで考えて、やっと僕は思い出した。

 カールが北部大洋鉄道商会うちを去ることを最終的に決めた日の、カールとキットのやりとりを。


『もしも内示の内容が僕が言ったとおりの人事になっているなら。誰がこの内示を作ったのか先輩にはわかる筈です。違いますか?』


『殿下か』


『両殿下でしょう。それならこの人事でカールがお嬢様とくっつくところまでが想定内の筈です。違いますか』

 

 そう、その時点で既に全ては仕組まれていた訳だ。

 ならこの陰謀には間違いなく両殿下、おそらくアルガスト皇太子殿下とエッティルー第二王子殿下が関わっている。

 そこにウィリアム兄も絡んでいる訳で……


 はあ、王族相手か。

 なんて思っている所にとどめの報告が来た。

 運輸部長のクロッカーからだ。


「軍務庁から専用列車を動かしたいという連絡がありました」


 ああ、きっとこの件絡みだろう。

 そう思いつつ僕は尋ねる。


「わかった。概要は?」


「日程は12月25日、26日、27日、28日。目的地はウィラード領サルマンド及びローチルド領ディルツァイトとなっております。

 なお使用するのは第一編成と第二編成両方です。また第二編成も002車両を1両外し000車両を入れ、第一編成と同じ仕様にするそうです」


 騎士団の000車両とは貴賓車で002車両とは貨物車両。

 つまり両編成とも偉い人用車両を入れた仕様にするという事だ。


「25日は第二編成を使用し、王都バンドン・エイダン港軍務庁施設からサルマンドで、到着が午後2の鐘14:00以降の出来るだけ早い時間。

 なお第二編成は出来れば当日そのままサルマンドで待機させて欲しいとの事です。


 26日は第一編成がエイダンからサルマンドで、こちらの到着は午後3の鐘15:00前後。


 27日は第一編成がサルマンドからディルツァイトへ、サルマンド発朝10の鐘10:00の後出来るだけ早い時間。

 第二編成がサルマンドから王都バンドンまで、サルマンド発朝11の鐘以降出来るだけ早い時間。


 28日が第一編成をエイダンまで、ディルツァイト発朝11の鐘の後出来るだけ早い時間。


 なお全ての場合においてエイダン~ダラム間は騎士団側人員で運行し、ダラム駅8番ホームで運行乗務員交代をする予定です。

 詳細はこちらの通りとなっています」


 謎は全て解けた!

 なんて言ってももう遅いけれども。


「わかった、ありがとう」


「対策室はどうされますか?」


「12月26日と27日、僕は不在予定だ。一応北部大洋鉄道商会うちの通信が届く場所にはいるつもりだが。

 それだけ考慮した上で、対策を頼む」

 

 騎士団が動く時は何故か僕も移動先だな、なんて事を思う。

 偶然なのか仕組まれているのか。

 仕組まれているという方が正しい気がしているけれど。


 あ、そうだ。

 忘れずに付け加えておこう。


「あと12月26日と27日に関しては、北部領主家から貴賓車両の独自運用依頼が多発する可能性がある。

 区間はそれぞれの領都からサルマンド。26日は領都からサルマンドでサルマンド着が午後2の鐘以降のできるだけ早い時間。27日は逆順でサルマンド発が騎士団車両の出た後出来るだけ早い時間。

 あくまで可能性だが、一応頭に入れておいてくれ」


「わかりました」


 クロッカーが出た後、書類と手紙を拡げて確認する。

 間違いない、この騎士団車両運行とこの結婚式の招待状、状況が一致しすぎている。


 1日前の25日から施設の予約が入っていること。

 そして騎士団車両も25日に動くこと。

 これは前日警戒用の兵員輸送だろう。


 そして26日に動く騎士団車両。

 これでおそらく両殿下が動くのだろう。


 ただ両殿下が一緒に動かない可能性もある。

 万が一何かがあると王家の次代が揃って失われてしまう可能性があるからだ。


 結婚式の後ディルツァイトに向かうのは新生第三騎士団への巡視か何かだろう。

 ならこれは軍務卿であるアルガスト殿下だ。

 概ね予定はこんな所に違いない。 


 それにしても何と言うか、面倒くさい事態になっている気がする。

 以前ならこういう時はカールやキットに相談していた。

 2人とも知識、思考力ともに頼りになるし、相談しても情報が漏れる心配はしなくていい。

 どんな場合もそれなりに納得のいく方向性を示してくれた。


 しかし今はもう2人ともいない。

 ウィリアム兄と話をする際に出来るだけ情報を引き出すように試みて、その後家でローラに相談するとしよう。

 

 ウィリアム兄と話し合いの予定は午後4の鐘。

 本日はその後、直帰の予定だ。


 さて、ウィリアム兄はどれだけ情報公開してくれるだろう。

 既に疑惑が幾つか出てきているのだけれども。

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