第237話 洒落にならない結婚式?
「リチャードのところも参加かい。うちも参加だよ。父も僕もセリーナも参加するからさ」
全員か。
ならこれも聞いておこう。
「サルマンドへは専用車両を仕立てた方がいいですか」
「そうだね。警備要員を含めて10名程になるから、そうした方が安全だろうね」
うちに専用車両を回して他の領主家は大丈夫だろうか。
一般貴族用の貴賓車は2両しか作っていない。
かといって何両も必要な車両ではない。
そして北部に領主家は9家、プラス、ダーリントン伯爵家。
ローチルド家とウィラード家を除いても7家分の車両をどうするか。
いや、その検討は今しなければならないものではない。
いまするべきなのは情報収集だ。
でも話の続きでこう聞いてみよう。
「参加されるのは北部領主家とダーリントン伯ですか? 専用車両を仕立てる可能性があるかどうか、知っておきたいですから」
「大人数になるのは
結婚式の招待客は領主家がスティルマン伯爵夫妻、バーリガー伯爵夫妻、うちの父、ウィラード子爵夫妻、ハンティントン子爵夫妻、マルケット子爵夫妻、モーファット子爵夫妻。
そして騎士団関係という事でフェーライナ伯爵夫妻。
新郎新婦友人枠でダーリントン伯爵夫妻、僕とセリーナ、ジェームスとコリンヌさん、リチャードとローラ。
あと同じく友人枠だけれど来賓扱いがアルガスト皇太子殿下とアメラ皇太子妃、エッティルー第二王子殿下とアイシャ妃。
確か招待したのはこれだけの筈だよ。それ以外の友人枠の披露宴は別日程でやるみたいだからね」
ウィリアム兄、やはり概要を知っていた。
そしてこれも予想通りだけれど皇太子殿下と第二王子殿下も参加か。
さて、それでは情報収集を続けよう。
「いつ頃から決まっていたんですか。そして何故ウィラード領サルマンドなんですか。
あの施設を抑えたのはウィリアムお兄様ですよね」
ストレートに聞いてみる。
ウィリアム兄はあっさり頷いた。
「ああ、押さえたのは僕だよ。
さて、ここからは秘密というか他の人に言えない話だけれどね。今回の会場は元々仲間内のパーティ用と言う事で押さえたんだ。
2年くらいの間、ちょっとしたプロジェクトをやっていてさ。取り敢えずそれが一段落ついたから、それを知っている皆さんで祝おうという話だった訳だ。
あの温泉施設を使いたいという希望を出したのはアルガスト殿下さ。9月頭の訓練で鉄道を使えば迅速に部隊ごと移動できるのを確認出来たからね。リチャードが温泉から帰ってくる前にそういう話が出て、それで僕が予約の話を持って行った訳だ」
ちょっとしたプロジェクトか。
今回の招待客は北部領主家と新郎新婦の友人枠。
という事はプロジェクトに加わっていたのは僕以外の友人枠の皆さんだろう。
両殿下を含めて。
となるとなかなか恐ろしい想像になってしまう。
『ゼメリング家を退場させ、ローチルド家を後釜にして、更にその後釜を公爵職にしてエッティルー殿下をつけ、最後に今までの癌だったチューネリ―公を引退させる』
プロジェクトとはその事ではないかと思えてくるのだ。
流石にそうなのか、ストレートに聞くのはこの場であろうとはばかられる。
だから軽く、この程度で。
「なら僕とローラはお邪魔虫ですね、どちらかというと」
「いや、今回のプロジェクトが始まったのも成功したのもリチャードのおかげだからね。功労者枠みたいなものさ」
疑惑は深まった! もう真っ黒だ!
僕の精神衛生の為にこれ以上つつかない方が正解と言う気がしてきた。
ウィリアム兄の説明はさらに続く。
「そういうお祝いをやろうという所で、ついにイザベラが御結婚という事になった。友人一同やっとくっついたかと思っているけれどさ。せっかくだからここは盛大に祝うべきだろう。そう思った訳だ。
しかし結婚式を大々的にやるつもりはない。新ローチルド領の立て直し中だから。
そうイザベラやローチルド家が言うからさ。ならこっちで企画してしまおう。という事でこの会にそのまま組み入れた。
仲間内だけというのも何だから北部領主夫妻を全員招いてさ。それなりにしっかりした式にもしようとね。
だから王国教会から祭司職を連れて行ったりもするそうだよ」
何と言うか、関わる人間が人間だけに大ごとになってしまった訳か。
折角の温泉なのに参加しても落ち着けそうにない気がする。
ウィリアム兄の説明はまだまだ続く。
「他にも第一騎士団の輸送・展開訓練や警備実施訓練。更には新しい時代が来つつある事に気づいていない一部貴族の皆さんへのデモンストレーション、更にはちょっとした膿出しなんて目的を詰め込んでいるようだけれどね」
理解した、もう沢山だ。
政治的過ぎてお腹いっぱい。
洒落にならな過ぎる。
「当日及び移動日の警備は沿線領主家におろすことになっている。第一騎士団も訓練を兼ねて動員するそうだ。だから安全面での心配はしなくていいだろう。僕はシックルード領内分の警備計画を立てる必要があるけれどさ。
さて、他に質問はあるかい? ついでだから話せる部分は話しておくよ。向こうへ行って困ってもいけないしね」
◇◇◇
家に帰った後ローラに聞いたところ、ジェームス氏からも概ね同じような話を聞いたとの事だ。
「アルガスト殿下、エッティルー殿下。それにローチルド領主代行、ダーリントン伯、ウィリアム御義兄様、ジェームスお兄様は学年が近い事もあって、学生時代からそれなりの交流があったそうです」
「つまりあの改革はその枠組みで実行した訳か」
「もちろん他にも協力者は大勢いるでしょう。ですが基本的な計画を立案して動かしたのはどうもそのようです」
はあ、何と言うかため息が出てしまう。
僕はこの手の話は苦手なのだ。
でもまあ、やっぱりウィリアム兄が噛んでいた訳か。
ある意味納得はしているのだけれど。
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