第235話 予想外の要素

 ウィリアム兄が予告した12月の26日から27日の予定。

 それは僅か数日後に明らかになった。


「領主館から旦那様親展で書状が届いております。御返答は2~3日中にという事だそうです」


 帰宅した僕はニーナさんから封筒を受け取った。

 それほど分厚くないしそこそこ急ぎのようなので、その場で開封して中を見てみる。


 中にはウィリアム兄の筆跡の手紙と書状の複写。

 複写は招待状で結婚式、それもカールとイザベラ・ローチルド領主代行のもので挨拶文、式詳細、会場案内の3枚組。

 

 式日時は12月26日から27日。

 そして会場はウィラード領サルマンドの温泉施設。

 改装が終わって営業開始したばかりの北部大洋鉄道商会うちの施設となっているのだ。


 この結婚式、かなりの部分で異例尽くしだ。

 まずは日付、招待状が来るのが遅すぎる。

 3ヶ月くらい前に来るのが普通だが、書かれている日程は20日ちょい後。


 しかしこの日付に心当たりがある。

 ウィリアム兄が予定を空けておけと言った日程だ。


 あとは場所。

 貴族の婚姻なら通常は王都バンドンの王国教会大聖堂で行われる。

 しかも結婚式が行われる会場は僕の商会の施設。

 なおかつ僕はその事を聞いていない。


 ここはローラに相談すべきだろう。

 ちょうど声をかければ届く場所に居るし。


「ローラ、ちょっと相談いいか?」


「ええ、どうぞ」


「これについてどう思う?」


 実家からの書状をそのまま渡す。

 僕が下手な説明をするよりローラ自身が読んだ方が早いから。


 ひととおり読んだ後、ローラは首を傾げる。


「これは……難しいです。何から何まで異例の事が多く感じます。リチャードもそう思ったからこそ私に相談したのでしょう」


 その通りだ。

 僕が頷くのを見てローラは続ける。


「参加で返答するべきなのは間違いないと思います。北部における最上位領主家からの招待ですし、リチャードあなたとカールさんとの関係も周知のところですから。

 リチャードあなたもそう判断していると思います。ですから相談内容はこの結婚式が何故この日程で、この場所で行われるかという事に対する疑義ですね」


「ああ」


 僕は頷く。

 ローラ、察しがよくて大変助かる。

 下手な説明をしなくていいので非常に楽でいい。


「アンブロシア様は上級貴族の嫡子ですし、カール様も元々は侯爵家の一員です。ですから婚姻そのものには問題はありません。


 ただ日程が急で、かつ場所が王都バンドンの王国教会大聖堂ではない。それどころか王都バンドンでもローチルド領でもない一民間施設というのは不自然です。少なくとも貴族の皆さんはそう考えたと思います。


 そしてリチャードあなたが私にこうやって相談してくると言う事は、リチャードあなたはこの話を関知していないという事ですよね」


「ああ、その通りだ」


 僕は頷いて、そしてある事を思い出して付け加える。


「ただ宿の貸切予約そのものは9月頃から相談をうけていたらしい。商会の観光開発部でそんな話を聞いた。まさかローチルド家の結婚式だとは思わなかったから相談者や貸切者、内容まで確認しなかったけれど」


「一応もっともらしい理由は手紙に書いてあります。急遽決まった事なので日程が急で申し訳ない。また領地立て直し中のため王都バンドンで盛大にやる余裕が無い、相手が現時点では貴族籍では無い為に内々でやりたい。

 ですがこの辺りは間違いなく言い訳でしょう」


 その通りだろうと僕も思う。

 現に日程は9月には決まっていたようだし。


「民間施設で貴族の行事を行う理由としては、施設の持ち主である商会が貴族家との関係を誇示する為という例がほとんどです。ですが商会長であるリチャードあなたは知らない。つまり商会側が持ちかけた話で無いのは明らかです」


「ああ、それは間違いない」


 そこは断言できるので僕は頷く。

 

「でしたらサルマンドの温泉施設にしたのは、王都バンドン以外かつローチルド領外で行った方がいい理由があったから。そう考えるのが一番自然です。


 現ローチルド領には未だ旧ゼメリング家に連なる勢力がいてもおかしくありません。ですから体制固めとなる結婚式を妨害される虞がある。来賓を呼ぶのにはふさわしくない。

 そして王都バンドンにもゼメリング家の残党が残っています。


 ですから危険を避けるためにもこれらの場所を避けた。これは現状を鑑みてありうるところです」


 なるほど、確かにそうだ。

 僕は頷く。


「確かにそれはわかりやすい理由だな。急な日程なのも敵に準備させる期間を与えない為ととれるから」


「ただ昨今の情勢からそれだけではない、という可能性も高い気がします。

 ですので明日、ガナーヴィンに行ってジェームスお兄様に話を聞いてこようと思います。ジェームスお兄様はアンブロシア様と学生時代に同級生かつ同サークルで仲が良かったと伺っていますから」


 それは有り難い。

 なら僕も調べておこう。


「ありがとう。なら僕も明日、商会で予約者が誰か確認して、あとは領主館へも行ってウィリアム兄に話を聞いて置こう」


「出来れば他の招待客が誰か、わかる範囲でいいので聞ければ嬉しいです。北部の領主家は呼ぶとして、それ以外に誰が呼ばれるか。その辺りにこの件の真意が隠されているような気がします」


 ローラに言われて確かにそうだなと僕も思う。 

 

「わかった。色々ありがとう。早速明日、調べてみる」


「御願いします。何か何処かに予想外の要素があるような気がするのです」


 予想外の要素か。

 僕は考える。

 いったい何だろう、それはと。

 わからないから予想外なのだけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る