第54章 陰謀と答合わせの結婚式(1)

第234話 実はその予約は……

 12月1日。

 ディルツァイト南線は試験運行という名の実質的営業を開始した。

 現在はガナーヴィン⇔ディルツァイトの直通が、

  ○ リヴーニ経由が1日5往復。

   (うち急行3本)

  ○ エルシアル経由が1日3往復

というダイヤになっている。


 乗客はまだ少なめ。

 しかし貨物取扱量はそこそこ多いので赤字にはならない見込みだ。


 果たして乗客数が増えて本数が増えるだろうか。

 まあカールがいるなら心配はいらないだろう。

 そう僕は思っているけれど。


 第一騎士団からの軍務専用線も整備完了して、騎士団専用車両も2編成+予備車両が無事完成した。

 なおウィリアム兄からこんな情報が入っている。

 

「今月早々に訓練をするつもりのようだよ。殿下がそう仰っているようだから」


 訓練か。

 前例がある事だし不安しかない。

 あとウィリアム兄、こんな事も言っていた。


「リチャードもローラも12月の26日から27日は予定を空けておいて欲しい。行事が入る可能性が高いからさ」


 何の行事だろう。

 その辺への言及がないのが不安だ。

 たまらず聞いてみた。


「どのような行事があるのでしょうか? 話せる範囲でいいから教えていただけると助かるのですけれど」


「残念ながらんだ。ただ悪い事ではない事は保証しよう。だからまあ、予定だけ空けてあとは待っていて欲しいところだね」


 何を企んでいるのだろう。

 なぜ教える事ができないのだろう。

 本当に不安しかない。


 こういう秘密主義は出来ればやめて欲しい所だ。

 心臓に悪い。


 ◇◇◇


 ガナーヴィンに新設した出張温泉施設や各領地の案内所も今日で開業1ヶ月となった。

 ゴードンの報告によるとこんな感じだ。


「あまり入れる人数が多すぎると出張温泉施設のイメージ低下に繋がります。ですので定員制にした結果、何度来ても入れないという苦情が多く寄せられました。

 ですので3時間の時間制とするとともに、男女ともに定員の3割までを予約可能としました」


 何と言うか、この国の人々は新しもの好きだなと心から思う。

 温泉なんてここの文化に無かったものなのに、ここまで人が集まってしまうのだから。

 大体出張温泉については事前から微妙に不安だった。

 だからある策をとったのだ。


「出張温泉は途中から宣伝を中止したんだろう、確か」


「ええ。人が殺到しそうな悪寒がしましたもので。ですが残念ながら手遅れだったようです。

 ただこれで温浴の良さを知った客が、サルマンド温泉施設にも興味を持ってくれるのではないかと思われます」


 なかなか目出度くて宜しい。

 だがそうなると資金源となった方について、少し気になる。


「一緒に開業した各領地の広報施設の方はどうだろう」


「自分のいる場所以外の情報を見るという機会が今までありませんでした。ですので平日でもそれなりに人が集まっています。何処の領地というより全部をじっくり見ていく感じの客が多いようです。


 中でも一番人気はウィラード領です。出張温泉効果もありますし、物販もかなり充実していますから。

 あとはブローダス領のブースも人気です。ここは高級食品の試食やお試し販売があって、それが人を集めている形です。


 ただ移住の一番人気は間違いなくシックルード領でしょう。理由は一にも二にも給与の高さではないかと。北部大洋鉄道商会うちや森林公社の募集も順調です。


 ダーリントン領のブースは商談が多い感じですね。北部のこの付近と産物がかなり違います。例えばナッツ類はこの辺ではあまり作っていません。そういったこの辺にない物が新たに動くきっかけになっているようです。


 スティルマン領は身近な分、客の反応もいい感じです。人気はメッサーの朝獲れ海産物と週替わり地元食堂ですが、未開発の西南部海岸開拓計画なんてブースにも結構人が集まっています」


 うーむ、なるほど。

 だが今の説明、少しばかり気になる事がある。


「各ブースの状況までよく見ているな」


「係員を交代で貼り付けて様子を確認しました。2時間ずつ2交代で空いている時間は出張温泉を自由に使える事にした結果、アリシア班全員が喜んで協力してくれましたので」


 何と言うか部下の使い方が上手いなと思う。

 他の部から苦情が来そうだけれど。


「ならそれぞれの領主家が撤退する事はないと思っていいな」


「ええ、あのブースの効果は何処も充分実感していると思います。今は4階の半分しか使っていませんが、このまま推移すればいずれ増床の声も出てくるでしょう」


「なるほど、わかった」 


 そしてそう言えばと思い出す。


「サルマンドの施設も今日、工事が終わって再開業だな」


「ええ」


 ゴードンは頷いて続ける。


「既に予約がかなり入っております。新しい一般用の施設も、以前からある高級施設側もです。高級施設側は施設全体の貸切予約も何日か入っています」


 施設貸し切りは高級施設側の風呂、食堂、宿泊棟を全部貸切るといるもの。

 以前僕がローラやパトリシアの同窓会にやったのと同じだ。


「施設貸し切りもそれなりに需要がある訳か」


「そのようです。12月中だけでも1泊2日が1回、2泊3日が1回程入っています。この辺りの状況次第で第三期工事の増設計画を少し変えるかもしれません」


 確かに全貸し切りだけで1月に5日もあるというのはなかなかだと思う。


「よく他の予約にぶつからずに全貸し切りなんてのが出来たな」


「どちらも9月頃から相談をうけておりました。ですので最優先で取りした訳です」


「何処かの商会か貴族家が保養代わりにでも使うのかな」


「そのような形ではないかと思われます」


 貸し切りでも1泊20名まで正金貨1枚50万円だからそう馬鹿高くはない。

 21世紀日本の高級宿にくらべたら全然だ。

 だから中規模の商会や一代貴族家あたりでも問題なく使えるだろう。


 僕はそう思っていた。

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