第233話 国内各所の動向

 11月1日、チューネリー公爵が代替わりした。


「公爵位を継承したのは前チューネリー公の甥、弟の長男であるメセラー氏です。前チューネリー公シャルル氏は成人済みの息子が3名、娘が2名いた筈ですが、いずれも相続を許されなかったようです。


 メセラー新チューネリー公は今まで政務院参事を勤めていました。今までの政務院での言動及び業務から問題が少なくそこそこ仕事も出来る人物だと評価されています。


 また前チューネリー公のシャルル氏は役職等につく事もなくそのまま引退だそうです。ですので当分の間は財務卿絡みで問題が起きる可能性は低いと思われます」


 例によってローラ情報だ。

 ローラは週に1度は王都バンドンに出向いて、お茶会なり食事会なり舞踏会なりに参加している。


 シックルード家はクララベルが謹慎中でセリーナさんが妊娠中。

 だからヘンリー兄の奥様であるリリアさんとローラが父と共に貴族外交を行うしか無い。 

 結果、ローラ情報がより充実する訳である。


「なるほど。どういう形で処理を行ったんだ?」


「文部卿が国王陛下に上奏した調査結果を基に、国王陛下と皇太子殿下により直接的な聴取が行われたそうです。2日間の聴取の後、チューネリー公爵の代替わりが決まったそうです」


 文部卿が就任して僅か1ヶ月でこうなった訳か。


「随分と早いな」


「ええ。文部卿が上奏した内容は明らかにされていません。ですが噂では財務卿権限で変更した幾つかの予算について、対費用効果、予算配分の正当性、予算の使用先、金額の妥当性等について問われたらしいと噂されています。


 またこの件を受け、レウベルグ公も危ういのではないかという噂です。問題を上奏される前に自ら引退して長子に家督を継がせるのではないかと」


 確かにレウベルグ公も色々とやらかしている。


「レウベルグ宰相だと幾つかの法案とあとは人事関係かな」


「ええ、その辺りではないかと言われています。なおこの件についてレウベルグ公を守ろうとする動きは特にないようです。

 これは下手に動いた場合、自らの家も降爵あるいは棄爵となる可能性があるからだと見られています。ゼメリング家が一代貴族へと降爵された影響は大きいようです」


 なるほど、国政の正常化は順調な模様だ。


「あとはスコネヴァー領等で建設中のリゼルへの鉄道、来年4月までには営業を開始する計画だそうです。その鉄道から親衛騎士団クラナシ演習場まで連絡線を引くという噂が出ています」


 何だって。


「それは初耳だ」


 クラナシ地区は王都バンドン直轄領南西部所在。

 親衛騎士団本部は王宮外宮にあるが、比較的手狭なので部隊の大半はクラナシの演習場に駐屯している。

 つまり親衛騎士団の実質的本拠地といっていい。


北部大洋鉄道商会うちの第一騎士団への鉄道建設と対抗するような動きだな」


 厳密に言うとうちの鉄道が通るエイダン港よりクラナシ演習場の方が半離1km程度王都バンドン中心部に近い。

 ただし人口が多く賑やかなのはエイダン港がある街の北側。

 一般の旅客や運輸を取り扱わないからあまり関係は無いだろうけれど。


「その通りでしょう。他にマリウム商会の鉄道への箔付けといった意味合いもあるのではないかと。


 あとはマルケット領内でマリウム商会による開発が始まっているようです。

 鉄道をマルケット領内全体に張り巡らせ、農業や林業を一気に進めるようです。路線の一部はまもなく完成する模様です。またドロイディア郊外に製紙工場も作っていると聞いています」


「知らなかったな。鉄道を伸ばしているというのは」


 少なくとも新聞等には載っていなかったと思う。

 これでも全国紙や北部の主要紙は毎日確認しているのだけれど。


「私も今回初めて知った情報になります。おそらく情報を公開せず、ある程度秘密裏に進めていたのでしょう。

 ある程度完成したので情報を解禁したようです。何故今までそうやって秘密にしていたのかはわかりませんが」


 なるほど。

 ただ方法論としてはなかなか有効だ。

 鉄道で運輸をを改善する効果は、シックルード領やスティルマン領、ダーリントン領で実証しているとおり。


 そして製紙工場というのも悪くない気がする。

 木材と水があれば出来るし、需要もそれなりに高い。

 材料である木材を鉄道で集積することが出来れば文句ない。


 そして紙は梱包さえしっかりしてあれば運送時間がかかっても問題無い。

 つまり船運でも構わない特産品が出来るという事だ。


 現在紙は需要が多い都市近郊で作られていることが多い。

 ただし原料となる木材を運ぶより製品である紙を運んだ方が無駄がない分、輸送費が安く上がる。


 しかしわからない点もある。


「鉄道も製紙業も領主家がやる領内経済対策としては悪くない方法だと思う。ただマリウム商会がやるというのが今ひとつ僕にはわからない」


 ローラは頷く。


「私もそう思います。マルケット領の生き残り策というならわかります。しかしこの動きの主体はマルケット家では無く、あくまでマリウム商会らしいのです」


 うーん、わからない。


「確かにマルケット領が発展すればいずれはマリウム商会も儲かるかもしれない。ただ投資の元をとるには結構かかるだろうと思う。

 何かマルケット領を発展させなければならない理由でもあるのだろうか」


「マールヴァイス商会は旧ゼメリング領を失い、またスティルマン領でも影響力を失いました。ですから北部への窓口として、マルケット領の地位を高めようとしているのかもしれません。


 あとは領地を発展させる実験というかモデルケースなのかもしれません。これで成功すれば他の領地にこの方法論を売り出そうという」


 うーん、難しい。

 ただ今言えることとやるべき事は簡単だ。


「とりあえずマルケット領の動向に注意しておく必要がある訳か。実際ローラにこの話を聞くまで知らなかったし」


「そうですね。私の方も新たな情報が無いか気をつけますから」

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