第232話 10月後半の状況
森林鉄道・軽便鉄道パッケージは、
○ 各領主家等が主体となって鉄道を建設・運営する
事を
○ 北部大洋鉄道商会が助言・援助する
という商品だ。
だから工事そのものは商会ではなく各領主家が手配した業者が行うし、線路等の資材も本来は領主家持ち。
規格も車両も本当は
軌間だって762ミリや610ミリ大いに結構。
車両だってカスタムOKだ。
しかし実際のところレールをはじめとする資材は
地方のディーゼル私鉄が最近どこもかしこもNDCだらけで面白くないのと同じような現象だ。
しかしまあ、経営的な視点で見ると正しいのだろう。
そう鉄な自分を納得させている。
ただおかげでシックルード領は一段と好景気。
一方それ以外の鉄道、ディルツァイト南線と仮称がついたローチルド領へ続く路線や
ローチルド領側はまだ地盤がまともだしほぼ整地済だからそこまで面倒では無い。
土木課に建築担当、現地製作担当、補助その他で10名いれば路線建設は可能。
しかし
エドモント先生とミロス課長、更には地質学研究室スタッフ2人の他、土木担当だの建設担当だの総勢30名のスタッフが必要という計算。
そして工場では高速車両や騎士団車両を鋭意増産中。
更にはモーファット領やバーリガー領の森林鉄道用車両、ディルツァイト南線営業準備用の車両なんてのも準備している状態。
更に通信事業課も通信量増大であちこちで回線増強をやっている始末。
結果、技術部は本来研究側の部員を含め、多忙で身動きがとれない。
魔法を使える分、21世紀日本より人員も工期も遙かに少なく短くて済むのだけれど、それでも限度がある。
「研究担当も含めて手一杯です。あと一ヶ月は新規案件をとらないよう営業部にお願いしています。
商会長の方も宜しくお願いします」
朝の幹部会議でエルリッヒ技術部長にそう釘を刺されてしまう状態だ。
なお営業部もそれぞれの現場に派遣しているので本部はがらんとした状態。
ただし開店休業なんて優雅な状態ではない。
「出先の部員から資材の注文だの見積もり依頼だの応援要請だのが通信で届いて、残った人員はその対応で手一杯です。通常の荷受営業の方からも人を出して何とかしているのが現状です」
幹部会議でハルトマン営業部長がそう訴えているし。
僕の元にも大量の決裁や報告書がやってくる。
この作業だけで半日は潰れる状態だ。
それ以外にも自席にいると報告だの何だのが飛んでくる。
そんな訳で午後2の鐘過ぎ、仕事が切れた隙に商会長室から脱出。
せめて何か楽しい事がありそうな観光推進部へ顔を出してみる。
いつも通り観光推進部の扉をノック。
「リチャードだ。今入って大丈夫か?」
「どうぞ」
今回扉を開けてくれたのはノーマン主任だった。
そして入ってみると、残っているのはゴードン部長とノーマン主任だけ。
部屋の金庫番兼正規化担当のアリシア課長以下がごっそりいない。
「珍しいな、このパターンは」
「ガナーヴィン駅隣接の出張温泉施設が出来たので、アリシア課長を中心に女子全員で施設実査に行っています。今回は全設備確認や施設運用時のコスト最終確認が目的なので、アリシア課長中心に作業をしている状態です」
ゴードン部長がそう説明しているが、今までの状態を鑑みると……
「此処で帳尻あわせに四苦八苦している皆さんが爆発したんだろ。いつも此処で書類や数字と戦っているこっちの苦労を考えろと」
「そんなところですね。ですので出張件数が多い部長と僕がお留守番という訳です」
ノーマン主任、あっさりと白状した。
「まあそれはそれとしてだな。出張温泉の完成は今聞いたが、他の施設はどんな感じだ?」
「出張温泉は今日の実査で問題無ければ、予定通り11月1日から営業を開始します。各領の出張所も同じです。現在ウィラード領、スティルマン領、シックルード領、ブローダス領、ダーリントン領がブースを出す事になっています。
ウィラード領サルマンドの温泉施設は第二期工事がまもなく終わり、12月1日に営業を開始する予定です。こちらが施設概要と料金表になります」
ノーマン主任がささっと書類を俺に渡す。
どれどれ。
新たな宿泊施設は温泉部分は日帰り用と共用で部屋はトイレと寝室のみ。
2名用の部屋が
食事代は別で夕食バイキングが1名
なお今までの宿泊施設は宿泊棟の居室を改修した他、食堂、会議や催し物が可能な大部屋、小部屋等がある会議室棟を増設している。
宿泊料金は食事付きで1室
また今までの施設の方に貸切プランを設定したようだ。
その場合は1泊20名まで
「貸切プランなんてのも作ったのか」
「ええ、実はそういった要望がいくつかありまして。ですので今まであった高級タイプの宿泊棟、専用露天風呂、レストラン、そして新設の会議室棟をまるごと貸切りにするプランも新たに設定しました」
なるほど。
ローラやパトリシアの同窓会に僕がやったのと同じような事を考えている人がいるようだ。
確かにこの料金なら中規模の商会や一代貴族でも貸し切りが出来るだろう。
なかなか面白いと思う。
あとは新しく作った施設と今までの施設の料金で、少し気になる事がある。
「新施設と今までの施設、結構な料金差があるけれどそんなものなのかな」
「高い方は専用の温泉に個室露天風呂付で部屋も広いですから。食堂も別ですし内容も高い方と安い方で一部変えます。こうすればある程度の安全対策もとれるかと。
第三期工事ではさらに高い特別室棟も考えています。部屋に5種類くらいの温泉をつけ、食事は専用レストランか部屋へ運ぶ形式という形で。
こちらは基本的に一棟貸しで、人数は一棟2名から30名程度まで。1泊
「お忍びの貴族用って感じか」
「ええ。そういう用途を考えています。今の計画では3棟の予定ですが、建設は貸切要望がどれくらいあるかを見てから決めたいと思っています」
こうやってだんだん宿も高級方向や廉価方向それぞれに広く発展していく訳か。
そんな事を思う。
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