第50章 ひとつの季節の終わりに(1)

第217話 今日も休暇ではあるけれど

 今日も朝風呂にさっと入って、朝食は今日こそ麦とろ飯を食べ、再びのんびりお風呂に浸かったらもうチェックアウト時刻。


 なお今日はまだ輸送訓練追加の連絡は入っていない。

 これは無いという事なのだろうか。

 それとも今日はスウォンジーに帰るとわかっているからだろうか。


 クレアさんを含め全員一緒に列車に乗る。

 ローラやエミリーさん、クレアさんの3人が色々話しているのを僕とエリオット氏が見守るという感じでアオカエン駅まで。


 アオカエン駅でクレアさんとお別れ。


「ウィラード領までわざわざきていただいたのに、途中で抜けてしまい失礼しました。この次はもっとゆっくり楽しんでいただこうと思います。もっとここを良くしておきますから」


 クレアさんの台詞にふと思う。

 オーナー商会長は僕なのだけれどと。

 なんて思いつつ、エミリーさん夫妻と領都特急に乗車。


 ガナーヴィンでエミリーさん達と別れ、そしてスウォンジーへ無事帰還。

 しかし帰って一休みという訳にはいかない。

 商会の方でもやりたい事は山ほどあるけれど、まずは領主館へ。

 

「リチャード、お疲れ様。ちょっと今回の休暇はタイミングが悪かったようだね」


 全くもってウィリアム兄の言う通りだ。


「まあ連絡がとれる場所で幸いでしたけれどね。それで状況はどうですか」


「西北での妙な動きは無くなったそうだよ。でもまあ、10月10日までは念の為あそこへ貼り付けらしいね。あと途中で数回、騎士団兵員の交代もするそうだよ。100名規模で、明々後日からこんな感じでやりたいという話だね」


 ウィリアム兄から紙を数枚受け取る。

 タイトルは『騎士団移動・展開訓練実施要領』なんて書いてある。


「それを見ればわかるけれど、メッサーとセルステムの兵を片方ずつ100名程動かしたいようだよ。移動時間はいずれも昨日と同じ夜間だから、昨日の演習よりも人数が少ない分楽なんじゃないかな」


 確かにそうだ。

 100名ならクモイ502の3両編成で何とかなる。

 貨物量も今の3割以下だし、往復で1編成ずつ組めば大丈夫だろう。


「あとこの書類の一部は北部大洋鉄道リチャードの商会にも送ってあるからね。準備はしてくれていると思うよ」


 何と言うか、安堵とため息両方が出てしまう状態だ。


「平穏で済んで良かったと思う事にします」


「皇太子殿下は喜んでおられるようだよ。これからはいざという際の王立騎士団の地方派遣が迅速にできるようになるとね。いざという際の為に騎士団専用の車両をダラムに待機させておく事も検討したいそうだよ」


 僕の知らないうちに更なる仕事が増えている。

 本当になんだかなあと思わざるを得ない。

 でもまあ、それ以上の事態にならなかった事を今は喜ぶとしよう。


 領主館からゴーレム車で今度は商会の本部へ。

 まずはダルトンに僕がいない間の状況を確認だ。


「まさか2晩続けて緊急輸送が入るとは思いませんでした。今回は幸い運送容量的に何とかなる範囲でしたが、次回もそうであるとは限りません。


 騎士団の方からも輸送対策について話し合いをしたいという旨受けました。日程は9月中旬から下旬頃になる予定です」


 ダルトンから今回の件について、各部門から上がってきた報告書を受け取る。

 ざっと斜め読みをして状況を確認。


「それにしても今回は大変だった。おかげで助かった」


「いえ、想定を作っておいて幸いでした。また想定内の人数と貨物量で済んだのも幸いだったと思われます」


 以前父とウイリアム兄に呼ばれ、大規模兵員輸送としか思えない質問をされた後、念の為にある程度の想定と実施要領を作らせておいたのだ。

 

「しかし騎士団の兵員輸送に、騎士団専用車両か。これもある程度考えておいた方がいいかな」


「そのようです。あとは軍務卿や陛下が動かれる為の車両も騎士団に配備したいとありました」


 うーむ、仕方ない。


「なるほど、その辺は技術部に落としておこう」


 あとこの際ついでに、騎士団以外の話もしておこう。

 風呂でマーキス氏と話した件についてだ。


「あとは今回の旅行中、モーファット家関係者から話があった。森林鉄道の敷設計画や運営・管理等に関する委託プランが欲しいという内容だ。


 他にバーリガー家あたりも森林鉄道を開発しようとしているらしい。だが何処もいまのところ上手く行っていないようだ。


 いずれも正式な話ではない。ただ確度が高い話だと感じている。

 だから森林鉄道や、森林鉄道を元にした今のローカル線より更に安価な規格を策定して、売り込めるようにしておきたい」


 企図しているのは森林鉄道だけではない。

 いわゆる軽便鉄道と呼ばれるものだ。

 真面目な提案のように聞こえるかもしれない。

 しかし実際は鉄的邪念ありまくりだったりする。


 かつて日本の軽便鉄道は独特な車両の宝庫だった。

 車両だけで無く運用方法も。

 フェリーデでもそういった独自の鉄文化を広めたい。

 そんな邪念だ。


「確かにそれは売れるかもしれません。今までの鉄道路線よりは輸送量は少ない代わりに安価で、それでもゴーレム車より速く大量に運べるシステム。

 これなら現在鉄道導入に二の足を踏んでいる領主家も心を動かすでしょう」


「それでは明日、いや資料を作るから明後日の幹部会議で商会長提案として出す事にする」


 最初はうちの商会から出した標準的な車両がメインになるだろう。

 しかしある程度運用が進んできたら、そのうち独自の要望だの運用だのが出てくる筈だ。


 その結果、森林鉄道規格の営業路線とか、はたまた狭い場所を無理矢理通す為に馬面電車みたいなものが必要になるとか、急傾斜をどうしても登らなければならない結果アプト式鉄道が出来るとか……


 鉄としては楽しみでならない。

 でもまあそういう鉄の欲望はまあ、此処では見せない事として。


「それでは次はクロッカーの所へ行ってくる。今回は運輸部のおかげで助かったしさ。それにまだまだ10月過ぎまで特別ダイヤを組む必要もありそうだ」


 そんな訳で次は運輸部、そしてその後は技術部へ行く事にしよう。

 本当は観光開発部に問い詰めたい事が結構あるような気がするけれど、急ぎではないので後回しだ。

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