第216話 2日目の夜
その後、今日もバイキングだけれど昨日とはアイテムがかなり違う夕食を頂く。
「共通なのはウィラード領特産の材料くらいのようです。それすら調理方法を変えて別の料理になっていますけれど」
ローラが言う通りだ。
今日のメインは東方国家の料理。
鯉っぽいカポという魚が刺身や揚げ物で出ていたり、湯葉っぽいものがあったり、辛味噌みたいな調味料があったり。
随分と僕が知っているフェリーデの食文化と違う感じだ。
大豆と小麦で作った味噌に近い調味料もあった。
東方諸国から輸入した物だそうだ。
ただし味はかなり甘めで、21世紀日本にあるものでは甜麺醤みたいな感じだろうか。
なお醤油に近い調味料は残念ながら無かった。
魚醤系統はフェリーデにもあるけれど、やっぱり醤油が欲しい。
やはり作らないと手に入らない模様だ。
今日も大量におかず類を取ってきたエリオット氏が溜め息をつく。
「この量では何回か此処に来ないと、全部の料理を確認出来ませんね。昨日の料理と今日の料理、概ね交互に出ている形なのでしょうか」
「他に典型的フェリーデ高級料理が中心のメニューもあって、3パターンが交代で出ているようです。ですので明日まで泊まったとすればまた違う料理が中心になっているでしょう。
しかも一部の料理は日替わりですし、入荷によって変わる部分もあります。それに毎月、メニューは変更しているようです。
ですから毎週来ている私でも、全部の料理は把握出来ていません」
なるほど、これもリピーターを招く工夫なのだろう。
自分の商会の施設ながら感心しつつ、まずは鯉っぽい魚、カポの刺身から頂く。
身の色はアジっぽい感じで、白身の上にやや赤い部分、その上に脂多めの白っぽい部分が背骨のような感じでついている。
味噌っぽい調味料と胡麻をあわせたタレをかけて食べる形だ。
味は口に入れてすぐはアジに似ている感じ。
しかし独特のかみ応えがあり、噛みしめると独特の甘みというか旨みがあって、別の魚だとわかる。
魚臭さは全く無く不思議な感じだ、
カポを揚げてあんかけにしたものも食べてみる。
皮と鱗部分のパリパリさと香ばしさがまず印象的だ。
鱗が美味しいというのは初めて知った感覚。
熱を通した身は鶏のささみとか胸肉が柔らかく旨みが濃くなった感じの味。
甘酸っぱい餡がよくあう。
「このカポという魚はウィラード領でも取れるのですか?」
クレアさんに聞いてみる。
「まだ養殖をはじめたばかりで、領内でとれるようになるのは来年からです。此処に出ているのは東方のカフルミナという国から入ってきています。強い魚なので水なしでも
陸路でも生きたまま輸送できる魚か。
これは日本では無理だ。
そして刺身もあんかけも美味しい。
なおローラは湯葉もどきを気に入ったようだ。
2回目のおかわりでごっそり持ってきた。
ここでの湯葉は山菜を少しだけ入れた塩味の汁に入っている。
お吸い物、ただし湯葉多めという感じで。
「これ、美味しいです。さっぱりしていて、それでいて奥底にしっかり美味しい味が感じられて」
「それも東方の大豆を使う料理ですね。此処で大豆を潰して汁にして作っています」
まさに日本の湯葉と同じものなのだろう、きっと。
◇◇◇
目一杯食べてお腹が膨れて今日は解散。
しかし僕はこれから仕事というか確認事項が待っている。
「それじゃ今日も行ってくる。遅くなるから先に寝ていてくれ」
「わかりました。無理はしないでくださいね」
自室を出て、今日も事務室に陣取らせて貰う。
「商会長、大変ですね。休暇でもこんな仕事があって」
「僕がいなくても動くのだろうけれどさ。一応責任者として確認しておかないとまずいしな」
今日は人数も装備も昨日の倍。
移動距離は昨日より遠く、しかも途中単線区間を通る。
勿論臨時用のダイヤは組まれているから、その通り動けば問題はない筈。
それでも万が一という事がない訳では無い。
夜8の鐘の少し後、同時に通信機が動き始めた。
『
移動開始時間及び予定人員・貨物量、移動区間に変更無し。場所は人員・貨物ともにダラム構内貨物乗降ブース3~6番を提示。到着場所はメッサー海水浴場駅2・3番線を使用予定
使用車両は、
○ クモイ502:9両 2編成
○ クモワ503:1両・モト104:7両・クモワ503:1両 2編成
に決定。
第一便は2編成続行運転でダラム
既存列車のうちフェリーデ北部縦貫線普通2便、ガナーヴィン西線4便のダイヤに軽微な影響あり』
概ね昨日と同じような感じだ。
勿論今回は経路が長く、途中で単線区間を通る為ダイヤ設定も難しかっただろう。
使用列車をかき集めるのだって大変だった筈だ。
夜間という事もあって、そこそこ何とかなったようだけれど。
通常ダイヤにあまり影響を与えなくて済むのは、これくらいが限度だろう。
次回も倍に増やして、という事が無いのを祈りたい。
僕は何もなければ基本的にここで状況を確認しているだけだ。
ただ運輸部はこの臨時の運送でかなりの人間を動かしているだろう。
沿線の各領主も警備対策をしているだろうし、スティルマン領は警備の他に受け入れ場所も作らなければならない。
ジェームス氏もきっと大変だろうなと思う。
時々来る報告を読んで、あとは新聞や号外を見ながら時間を潰して。
2の鐘半くらいの時間に終わりの通信が入った。
いいかげん眠い中、夜番の従業員の皆さんに挨拶して、部屋へと帰る。
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