第155話 ちょっとした意図がある昼食
おにぎりを食べ、自由市場を一通り見て、更に開場した市場をひととおり回る。
ローラとクレア嬢の好みや回り方は基本的に同じ。
食べ物は野菜・芋系が好きで、それ以外も出ている種類や売れ筋をひととおり確認するという感じ。
何気なく物価の確認なんて事もしている。
「
「値段が全国であまり変わらないと言われる穀物も1割は安いですよね」
クレア嬢もローラもよく見ている。
その通り、他領と比べて結構安い。
今年初めから流通システムを改善した結果が、秋以降明らかになってきたのだ。
「スウォンジーだけでなく他のシックルード領やスティルマン領でもこれくらいの値段だと思います。これは流通が変わった影響ですね。
スティルマン領もですが、生産地で集荷した後、市場で競りにかけるまでの運送その他は領主家が安価に手配しています。まとめて運ぶので輸送費が安く済む。中間での搾取が減る。その結果です。
農家そのものの利益はむしろ向上しています。仲買業者や小売店の大部分もです」
鉄道が出来て、輸送に専念する商会(
減ったのは今まで農家から市場までの間を担っていた大手商会の取り分だけだ。
「中部から北部までをつなぐ鉄道によって、この波が一気にウィラード領から
「それを領主が望むなら、ですけれどね」
クレア嬢の言葉に軽くそう付け加える。
流通改革は
あくまで領主の施策だから。
12の鐘で市場からゴーレム車で僕の家へ。
お昼はキノコおろし蕎麦を用意した。
蕎麦はシックルード領ではトレバノスやラングランドの高地で、ジャガイモの後作として作られている。
気候がほぼ同じバーリガー領、ウィラード領の山間部でも同じように作られているようだ。
全国区どころかシックルード領でさえもメジャーな穀物ではない。
スウォンジーに入るようになったのもごく最近だ。
でもクレア嬢なら知っていそうだし、ローラも味的に好きそうだからいいかなと思って用意した。
実は他の思惑もあるのだけれど、それはそれで……
「これは……はじめての麺ですね」
「この色と香りは蕎麦ですわ。この細い麺ははじめてですけれど。シックルード領にもあるのですね」
ローラははじめて、クレア嬢はやはり知っていたようだ。
「ええ。外が寒いので暖かい料理にしてみました。キノコは秋に採って冷凍していたもので、汁はうちのオリジナルです。まずは食べてみて下さい」
醤油と魚出汁、海藻出汁を使ったそばつゆは勿論ブルーベルのオリジナル。
日本のなめこおろし蕎麦と鴨南蛮をイメージして、大根おろしとキノコ数種類、鴨肉が入っている。
僕としては自信があるのだけれどどうだろう。
「美味しいです。キノコもお肉もこの麺とすごくあっています」
「蕎麦の料理はウィラード領でもあるのですが、これは初めてです。特にこの汁、今まで食べた事が無い味ですがとても美味しいです」
2人とも気に入ってくれたようで嬉しい。
「ウィラード領でもこの蕎麦というものを食べるのですか?」
「向こうでは粉をジャガイモと混ぜて団子にしたり、蕎麦粉を練って薄くのばしてクレープ状にしたりします。蕎麦粉と小麦粉とを混ぜて練って麺にもしますけれど、もう少し太くて短いです。
あと汁は鶏出汁の塩味が普通です。ただこの汁は美味しいです。細くて長い麺もあわせて、蕎麦によくあっていると思います」
「はじめて食べたけれど美味しいですね」
「小麦が出来ない土地で、夏収穫のジャガイモを作った後でも栽培できるので作られているんです。
小麦が出来ない場所で仕方なく作っているというイメージでしたが、こんなに美味しく食べられるんですね」
なるほど、そうやって蕎麦を食べるのか。
2人の会話を聞いて改めて知る。
何せ僕も前世の記憶が戻って調べるまで、シックルード領で栽培されている事を知らなかった位。
それだけマイナーな産物なのだ。
「これは絶対、上手く作れば名物料理になります。これだけ美味しいのですから間違い無いです」
ローラ、相当に気に入ったようだ。
まあ気に入ると思って用意したのだけれども。
さて、それでは種明かしというか、この蕎麦を用意した理由その2を明らかにしよう。
「この蕎麦の汁は、
汁の出汁の材料に使った大豆は東方諸国家で大量に作られている産物で、汁の出汁に使った海藻は
蕎麦も東方諸国家の一部では大々的に作られているようですね。
勿論他に
昆布に似たケルプという海藻、それも乾燥させて表面にアミノ酸の白い粉がついた物。
これはごく少量だがゼメリング領経由で
大豆も
蕎麦も同じで、東方のうち冷涼で乾燥した地域で大々的に栽培されているようだ。
単位面積当たり収量が少ないという欠点を大規模な粗放農業で補っている模様。
魚出汁は今回、うちで作った鰹節もどきを使った。
原材料の魚は残念ながらメッサーから仕入れた鰹っぽい魚。
でもまあ、これくらいは北方東方関係なくてもいいだろう。
「つまり
「本で知った料理を実際に食べてみたいという好奇心が最初ですね。
ただ
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