第156話 ロマンスカーミュージアムが海老名にあるから

「フェリーデ北部縦貫線の事についてはもうご存知ですか?」


 2人とも頷き、そしてローラが口を開く。


「新聞に大々的に載っていました。ダラムからアオカエンまで鉄道を敷いて、北部と中部を一気に結びつける計画ですね」


 その通りだ。

 学校で新聞チェックまでしているとは、なかなか意識が高いなと思う。

 この場合の意識高いには、日本であったような揶揄的な意味はない。

 素直に評価している方の意味だ。


「ええ。それでアオカエンまで列車が通ります。ガナーヴィンまで1時間以内、ダラムまで最短3時間以内で結ばれる筈です。ダイヤはまだ決定していませんが、直通だけでも最低1日8往復以上、乗り換え便を含めて10往復以上は便を確保する予定です」


 これは本当だ。

 勿論列車によって到達時間に差があるけれど。


 アオカエン発の場合、最短便は、

  アオカエン→エズフィル→ガナーヴィン(ハリコフ地区駅)→ダラム

という最北部速達便が1日1往復設定される予定。

  

 他は、

  アオカエン→エズフィル→ガナーヴィン→アベルタ→ビーシーツ→ヤラハス→ビンシントン→ネイアン→ダラム

という各領代表駅停車パターンとか、更に細かく停車する各駅停車とか、アオカエンからガナーヴィンまでの区間列車とか。

  他にガナーヴィンから南部の区間列車も予定されているけれど、その辺については省略。


「そんなに走るのですか」


 驚くクレア嬢に頷いて、そして僕は続ける。


「鉄道は大量高速輸送機関です。高速かつ大量に輸送してこそ真価を発揮します。ですのでその北側の起点であるアオカエンも、それだけの需要がある街へと発展して欲しいのです」


 これは本音だ。

 採算が取れないと話にならないから。

 勿論線路や駅等の施設は領主家負担だ。

 しかし車両、勤務員、そして安全関係等一部の施設は北部大洋鉄道商会うち負担。


「北部大洋鉄道商会としては新たな産物や交易品の開発に取り組む気はありません。鉄道事業やそれに付随する運送業務、観光開発だけで手一杯です」


 これも本音だ。

 これ以上人を増やすとと採用と人材育成が間に合わない。


「かと言って大手商会等と組むと利益が損なわれかねません。だからアオカエンはウィラード子爵家自身の力で発展して欲しいのです。

 少し調べただけで、発展の材料になりそうなものは数多く見つかりました。この蕎麦はその一部ですね」


 ヒフミとサクラがデザートを運んできた。

 ちょうどいいので、これについても触れておこう。


「このデザートに使った4種類のベリーも北方部族オルドスの名産品です」


 ティラミスの上に茶色い粉ではなく、北方部族オルドス産赤スグリで作ったジュレを載せ、更にその上にベリー3種を載せた逸品。

 某タダシ●ナギのティラミス・フリュイをインスパイアした訳ではない。

 あくまでブルーベルの開発した逸品だ……多分。


 確かに海老名はロマンスカーミュージアムがあるから何回か行った。

 そこでちょっと好みに近そうなケーキ屋があったので、何回か買って帰って食べた。

 もし似ているならきっと、その時の記憶のせいだ。

 多分きっと。


「……やっぱり美味しいですよね、リチャード様のところのおやつは」


王都バンドンでも何回か舞踏会や夕食会に行きましたけれど、此処の料理やデザートが一番美味しい気がします」


 伯爵家でも三男だとそんな催しに顔を出す事は無い。

 だから僕はその辺は全くわからない。

 ただブルーベルが作るケーキは美味しいとは思う。

 間違いなく。


 さて、それではこの後の予定について説明しておこう。

 この後すぐに勉強会をするつもりは無い。 


 今朝、列車で来た後に市場散策なんてしているのだ。

 2人とも疲れているだろう。

 本人達は意識しているかどうかわからないけれど。


 だから今日の午後の予定はこんな感じだ。


「今日は列車で移動して更に市場散策しました。

 ですので食後は少しゆったりと身体を休めて頂こうと思っています。


 今後、温泉や保養施設なんてものの在り方を考える為に、少し実験的なお風呂の施設を作ってみました。使い方は入る前に説明しますので、ゆっくり身体の疲れを取って下さい」


 風呂の効果については確認済みだ。

 異世界の風呂の魅力にどっぷり浸かるがよい!


「夏にお聞きした、温泉という観光施設のものでしょうか?」


 やっぱりクレア嬢、覚えていたか。

 なら話が早い。


「その通りです。勿論観光施設用に比べると小規模ですが、どんな設備なのか使い勝手を確かめるには悪くないかと思います。

 私も使い勝手を確かめましたし使用人にも好評です。ですからそう悪くない出来ではないかと個人的には思っています」


 既に使用人の皆様からは好評頂いている。

 キッチン周辺から滅多に出てこないブルーベルすら、1日1時間は入っているという状態。

 なお一番はまっているのはニーナさんだったりするけれど、その辺はまあ置いておくとして。


※ 海老名はロマンスカーミュージアムがあるから……

  これは今回出て来たケーキのオリジナルと思われるケーキを出していた店が海老名(他に目黒区八雲にも店あり)にあるので、その言い訳。

  リチャード君、前世でもかなりの甘党だった模様。

 

  ロマンスカーミュージアムは歴代ロマンスカー5種類の実物をはじめとした小田急な博物館。小田急・相鉄の海老名駅西口すぐ横に所在。

  なおリチャード君(の前世)がケーキを買ったとおぼしき店は駅の東口側。つまりミュージアムの反対側。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る