第134話 電報サービス類似品

「これは文字を送るのに魔力を使っているのでしょうか」


 ローラの問いに僕は頷く。


「ああ。魔力導線を伝わる魔力の高い低いの組み合わせで情報を送っている」


「なら魔石を入れた魔力増強回路を使ったりしてより遠くへ送ったりとかは出来ないのでしょうか」


 僕もそう思ってキットに尋ねてみたのだ。


「残念だけれど魔力が大きければ大きいほど、距離による減衰が大きくなるそうだ。だから魔力を増強しても伝達距離は変わらないらしい」


「なら途中に魔力から別のもの、例えば押したり引いたりする力や温度の高低に変換して、また魔力に変換して送るなんて事は出来ないのでしょうか」


 どうやらローラは僕より賢いようだ。

 僕はそうやって中継する方法を、キットに説明されるまで気づかなかった。

 つまり僕は答をキットから聞いて知っている。


「ああ。一度棒を上下させる装置を通して繋ぐ事は出来る。ただそうすると時間あたりに送れる文字数がかなり少なくなると聞いた。


 この中継装置無しの場合、100半時間36秒に最大720文字を送る事が出来る。しかし中継装置を使用すると同じ100半時間36秒でも72文字送るのがやっとらしい。


 勿論もっと速く送る事が出来る中継装置を研究中だ。でも今はこれが限界との事だ」


 これはキットが言った事ほぼそのままだ。

 ちなみにこの国の単語1つあたり概ね5~10文字程度。

 だから100半時間36秒で単語7つ~14つしか送れない。


「でもタイプライターを打つ速度を考えたら、そう遅くないのではないでしょうか?」


 そうだ、その事を忘れていた。


「説明を忘れてた。普段はあらかじめ専用の装置で送信する文章を打って、紙に記録しておくんだ。この記録した紙を送信装置に通せば、高速で読み込んで送れるようになっている」


 前世のパンチカードみたいなものだ。

 というかキットが開発した装置も紙に穴を開ける方式だったりする。

 僕がパンチカードという概念を教えた訳では無い。

 同じ目的で開発した結果、同じようなものになってしまっただけだろう。


「なるほど、そうする事によって短時間で多くの情報を伝えられるように工夫している訳なんですね」


「ああ。1本の魔力導線で多くの列車に情報を伝えられるようにそういう運用を考えている」


 回線容量の確保は大事。

 なんてこの国で言っても転生者以外はわからないだろうけれど。


「鉄道用には速い方が必要なのかもしれません。でも遅い方でも国の何処に対しても即座に送れるなら使えると思うんです。少ない文字数でもいいからできるだけ早く伝えたい。そういう需要はきっとあると思います。


 速い伝達用の魔力導線と遅いかわりに遠くまで届かせる為の魔力導線、2本を設置する事は出来るのでしょうか」


 この質問も残念ながら答えられる。


「魔力導線を2本設置して、それぞれ別の速度で動かすのは今のところ出来ないそうだ。情報が混線して解読できなくなると言っていた」


 あ、でも待てよ。

 ひょっとしたら1本の魔力導線で2種類の情報を送る事が可能かもしれない。

 縦波と横波とか、周波数違いの電波というように、別の種類の魔力を使って送受信するなんて事が出来れば。


 更に短い文章を送るなんてサービスが前世にあった事も思い出してしまった。

 電報だ。


 僕自身は電報なんて使った事は無い。

 しかし知識として一応は知っている。


  ① 電話局に行って

  ② 電報用にあらかじめ用意された例文の中から、もしくは余分にお金はかかるけれど文章を自分で作って

  ③ 宛先を伝えてお金を払えば

  ④ 申し込んだ電話局から相手先管轄の電話局に文章と宛先を送って

  ⑤ 電話局で紙に文章を打ち出して、宛先へと配達する


 そんなスマホでSNSやメールを使える時代には使い道が無さそうな方法論で情報を送るシステムだ。

 なお①の部分は電話で申し込む事も出来たらしい。

 知っているだけでやった事は無いけれど。

 祝電や弔電なんて慣習は僕の周囲ではほぼ絶滅していたから。


 そうか、確かに電報と同じ方法にすればこの国でも使える。

 これはキットに話しておいた方がいいだろう。

 新たにお金を稼げる業務が出来るかもしれない。


「ありがとうローラ。ちょっと面白いサービスを思いついた。これからこの装置を開発している責任者のところに行くから、付き合ってくれないか」


「いいですけれど、どんなサービスですか?」


「今ローラが言った事さ。短い文章を素早く相手先に送るサービス。勿論相手先が鉄道の駅から遠いと難しいけれど。

 詳しくは向こうで説明するから」


 電報は鉄道会社のサービスではないよな、とは思う。

 しかし鉄道で使っているインフラを活用出来るならやらない手はない。


「でもそんなサービスをすると、鉄道で必要な情報の伝達まで遅くなってしまいませんか」


「それについても思いついた事がある。うまくいくかどうか分からないけれど」


 魔力探査でキットの現在位置を確認。

 いつもの部屋にいる。

 なら問題無い。


「それじゃこっちだ」


 ローラを連れて、商会本部事務所に通じる階段へ向かう。

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