第131話 強襲の理由
僕の屋敷は普段は門番を置いていない。
来客が来る事が滅多に無いからだ。
ただ現在は御嬢様方が来ているので、領騎士団の兵士が交代で配置についている。
領騎士団を私的に使っている訳では無い。
僕は領主家の一員で、御嬢様方の接待は公務だから。
そして領騎士団の騎士団員なら領主家のゴーレム車が来たら、当然門扉を開いて中へと通す。
おかげで領主代行2名を門で待たせる事は無くて済んだ。
ゴーレム車が玄関前の馬車停めの所で停止し、2人が降りてきた所へ何とか駆けつける。
「いらっしゃいませ。お久しぶりです」
「すみません、連絡なしで急にお邪魔しまして」
「出来るだけ早くまとめたい話があってさ。さて、とりあえず御嬢様方に挨拶して、リチャードを借りる旨話しておこうか」
「そうですね」
ウィリアム兄はこの屋敷を知っているし、魔力探知を使えば御嬢様方の居場所なんてすぐわかる。
でも一応形式上、案内をしておこう。
「こちらです」
ガーデンパーティ実施中の庭へ。
「昼食中失礼致します。リチャードの兄でシックルード領の領主代行を務めておりますウィリアムです。
こちらは皆さんご存じと思いますが、ローラさんの御兄様でスティルマン領の領主代行をしておりますジェームスです」
「お兄様方、どうされたのでしょうか? リチャードお兄様の予定はご存じだと思いますけれど」
これはパトリシアだ。
「申し訳ありません。北部大洋鉄道商会の商会長であるリチャード殿に急ぎの用が出来まして、休暇中で昼食中でありますがこうして伺った訳です」
ウィリアム兄も他家の御嬢様がいるので丁寧な口調だ。
そして北部大洋鉄道商会の商会長であるリチャード殿に急ぎの用、という事は御嬢様方の件では無いのだろう。
僕はちょっとだけほっとする。
「お兄様も同じ用件でしょうか?」
こちらはローラだ。
「ええそうです。出来る限り急いだ方がいい案件だと判断しましたので、こうして直接お邪魔しました」
「何か事件が起きたとか、そういった件でしょうか?」
「いえ、事件も事案も発生していませんからご安心下さい。今後の鉄道の件について先日、リチャードさんから提案がありましたので、それに関する御相談です」
このジェームス氏の言葉で内容がやっとわかった。
昨日出した手紙の件だ。
「申し訳ありませんが本日の午後、リチャードをお借りします」
「明日には予定が入っていますから、それまでに返して下さいね」
おい待てパトリシア、何の予定を入れるつもりだ。
ひととおりイベントはやった筈だぞ。
そう思いつつ僕はドナドナされていく。
「接待中に悪いねリチャード」
「いえ、とりあえず応接室で話をしましょう」
幸い今はメイドさんもいつもより多い。
おかげで急な来訪にもかかわらず、既に応接室の用意が出来ていた。
ヒフミがお茶とケーキを出す。
今回はスティックケーキ、イチゴタルト風とオレンジタルト風の2種類がそれぞれの皿に出ている。
ヒフミが退出した後、ウィリアム兄が口を開いた。
「話というのは昨日の手紙の件さ。『
なら僕の出した手紙とは大分内容が変わるだろう。
むしろオリジナルの『超特急列車、東京 - 大阪間3時間への可能性』講演会に近い形式になる。
確か本家の『超特急列車、東京 - 大阪間3時間への可能性』講演会では、
『技研創立記念講演会の開催に当たって』
『車両について』
『線路について』
『乗り心地と安全について』
『信号保安について』
の講演5本と映画2本だったよな、内容は。
映画は発明されていないから無理だけれども。
ただその辺は現場に確認しないとわからない。
準備期間についてもだ。
「内容は技術についての講演会になると思われます。タイトルは『
ただ具体的な内容や実施可能な時期については商会の技術部に確認する必要があります」
「もうマルキスから報告したと思うけれどさ、現在
ダーリントン伯爵家、ハドソン伯爵家、ブローダス子爵家、ハンティントン子爵家、モーファット子爵家、スティルマン伯爵家、ウィラード伯爵家、それに
「ただどのような経路で路線を敷設するか、費用分担はどうするかで揉めているんです。ここ1ヶ月の間、話はほとんど進んでいないですね。
ですから起爆剤になるものが欲しかったのです。それにはこの催し物は最適だと思いまして」
「領主家だけでなく、一般民衆や領主家以外の貴族にも鉄道の意義が伝わるからね。勿論こちらとあまり仲良くしたくない商会にも情報が伝わってしまうけれどさ。それでも利点は多いと思うよ」
「実験線や博覧会の件は勿論了解です。ですが国内の世論を動かすなら、
講演会も商会単独でなく、
スティルマン伯爵家の後援という形にするのか。
確かにそうする事のメリットは大きい。
ただ他の領主家はどうするのだろうか。
その辺りが気になる。
「講演会については、シックルード伯爵家は表に出ないつもりだよ。
出来れば
場所を借りるにしても、宣伝をするにしてもやりやすくなる。
邪魔も入りにくくなるし、講演会の内容そのものも後ろ盾がない場合と比べて受け止めて貰いやすくなる。
共催ではなく後援、それも商会が話を持って行ったという形にするのは第二街道沿いの他の領主家の手前という事だろう。
北部大洋鉄道商会はガナーヴィン周辺で大々的に営業している。
そして今回の公演内容は『
だからガナーヴィンの領主であるスティルマン伯爵家に話を持っていくのはごく自然な話だ。
なるほど、ウィリアム兄の言っている意味は理解した。
ならばこちらももう一歩踏み出すとしよう。
「わかりました。これから商会の事務所へ行って、どれくらいの内容で、何時出来るかを早急に検討します」
「僕達も行くよ。出来るだけ早く答を知りたいからさ」
どうやらウィリアム兄もジェームス氏も本気のようだ。
踏み出すだけでなく覚悟を決める必要もある様だ。
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