第130話 予想外の来客

 市場散策をなめていた。

 人混みの中を歩いて店を見てなんてやっていると相応に疲れる。

 店をじっくり回ったら、余裕で4時間近くかかったし。


 考えてみれば昨日まで3日連続で出かけたのだ。

 疲れが溜まっていて当然だろう。

 御嬢様方は皆さん元気なようだけれど、僕は正直くたくただ。


 それでも今日はこの後出かける用事は無い。

 昼食を食べたら昼寝でもして休憩しよう。

 そう思いつつ、ランチパーティの準備をする。  

 

 今回は庭にテーブルと椅子を並べて、ガーデンパーティだ。

 メニューはつい今朝、皆で市場に行って購入してきた肉や野菜等。


 準備が出来たら御嬢様方をお呼びして、やり方を実演しながら説明。


「まずは油の温度を適温にします。温度を上げすぎると火を噴いたり、そこまでいかなくても美味しく出来なかったりします。

 温度は42エクルト180℃位が目安です。具体的にはこのパン粉を入れて見て、細かい泡が出てくる位が適温です」


 この国の温度の単位はエクルトという。

 水が凍る温度が0エクルトで、木が自然発火する温度が100エクルト。

 凍結魔法と発火魔法が基準になったと学校では習った。

 魔法が使える世界ならではの単位だなと僕は思っている。


「次に食材に串を刺します。ここで……」


 手で持つ部分まで食材を刺さない事、バッター液とパン粉をつける事、静かに入れてきつね色になるまで揚げる事、油の温度を保つ事を説明。


 この手順、春にローラやパトリシアとやった時より改良してある。

 あの時は相手が勝手知ったる2人だけ。

 鍋も普通の小鍋でやったし、油の温度調整は僕が全部やった。


 しかし自分の分を含めて7人分をやると、僕自身が食べられなくなるおそれがる。

 それに自分で作業するのも楽しいと思うのだ。


 そこで今回は串揚げ用に1人1個ずつ、鍋串を挟む部分をつけた専用鍋を準備してそれぞれの席の前に配置した。

 勿論この鍋はオリジナル。

 午後に工房に行ってたまたま暇そうだったマリオ君に作って貰ったものだ。


 何せ工房には私財を投入している。

 このくらいはして貰っても罰は当たるまい。


 食材は既に下拵えをして、物によっては熱も通してある。

 予想外の食材もあるけれど、全てブルーベルが適切な下拵え済み。

 だから衣をつけて揚げるだけで問題ない。


 バッター液とパン粉もそれぞれの席に準備。


 ソースは串カツ用に作った特製ソースの他、タルタルソースや辛子、岩塩、トマトケチャップ風、ポン酢醤油風スイートチリソース風までと豊富に揃えた。

 この辺は凝り性のブルーベルの仕業だ。

   

 ソースは今回に限り二度漬け三度漬けもOK、なんて説明は勿論しない。

 言っても僕以外には意味がわからないだろうから。

 それにここではソース、残念ながら浸ける形式ではなくかける形式だったりするし。


「後はお好きなソースで食べて下さい。あと食べる際は熱いのでやけどしないように注意をお願いします。以上です。それではいただきましょう」


 串揚げパーティ開始だ。

 御嬢様方、早速思い思いの具を串に刺して揚げ始める。


「何かこうやって自分で料理をするの、楽しいですね」


「好きなものを選んで食べられるのがいいですよね」


 油の温度調整が大丈夫かなと思ったのだけれど、概ね問題無いようだ。

 なら僕も自分の分を作り始めよう。

 まずは無難にアスパラガスあたりから。


 こうやって見ると、やはり肉派と野菜派がいる。

 例えばパトリシアは典型的な肉派。

 自由市場で買った悪突猪オツコト肉や家鴨肉がメインだ。


 逆にローラは完全に野菜派。

 最初は芋、人参、キノコという串を作って揚げている。


 串揚げが揚がるカラカラという音と油の匂い、


「この料理はやはり外国の料理でしょうか?」


「国の南部、ゴッタルドの方にある揚げ物の屋台料理をヒントにした料理です。パーティで出来るよう、かなり簡略化してありますけれど。

 全員が熱魔法をある程度使えないと出来ないので、まだまだ改良点が多いですね」


 全部が全部外国の本の影響というのも何だから、少しは国内のものにも言及しておく。

 実際はまあ、日本の串揚げ以外の何物でもないのだけれど。

 ソース以外は。


 そのうち揚がる音も変わってきて、そろそろ食べごろかなという感じになる。

 取り敢えず取って皿に置き、まずは塩で味見。

 うん、悪くない。


 御嬢様方も食べ始めている。


「揚げるとお野菜も美味しいんですね」


「苦みがあるものでも食べやすくなりますよね」


「でもやっぱりお肉が好きですわ、私は」


 やっぱり食べるものに大幅な偏りがあるようだ。

 別に注意はしないけれども。


 僕も適当にとっては揚げて食べる。

 個人的にはピーマンとかアーティチョークとかの野菜やキノコを揚げたものを塩かポン酢醤油風で食べるのが僕の好み。

 あと予想外だったのがビーツを揚げたもの。

 甘くてもちもちしていて、塩で食べるとなかなかいける。


 うん、悪くない。

 そう思った時だ。


 僕の屋敷の前にゴーレム車が止まった。

 さっと魔力を確認。

 怪しくはない、中にいる2人はよく知っている人物だ。

 しかし何故こんな所まで来たのだろう。


「あれはお兄様ですわ」

「もう1人はウィリアム兄だよね。どうしたのかな」 

 

 そう、ローラとパトリシアの言う通り、ジェームス氏とウィリアム兄だ。

 何故、何の為に来たのだろう。


 別にローラや御嬢様方に妙な事はしていない。

 だから問題は無い筈だ。

 でも何か、もし何か妙な噂でも出て……

 それだとかなり危険な……

 

 悪寒を隠しつつ、取り敢えず御嬢様方に挨拶。


「御客様が来たようなので、少しばかり失礼いたします」


 一礼した後、僕は玄関の方へ向かう。

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