第32章 想定外の一日
第129話 朝の市場散策
翌朝、6半の鐘の時間からスウォンジー北門にある自由市場を散策。
「露店でもこれだけ並んでいると壮観ですね。これは農家の方が直接自分の畑で採れたものを売っているのでしょうか」
「そのようです。農家に限らず猟師や小規模の業者等も店を出しています」
御嬢様方は今朝も元気だ。
僕としてはその元気を少し分けて貰いたい。
そう思いながら一緒に歩いて行く。
春の時と違って今度は総勢7名。
目立つ事を覚悟していたのだけれど、来てみると案外そうでもない。
理由は客がそれなりに多い事と、客に女性が多い事。
御嬢様方も目立たないよう庶民とそう変わらない服で来ているし。
「春に此処で買った
「魔獣肉まで売っているんですか」
「何があるかは見てみないとわかりません。出店予定とかはありませんから」
「その代わり売っている物が新鮮で安いですから。それに思わぬ物があるので見て楽しいですよ」
普段市場等へ行かない御嬢様方にとっては見る物が新鮮なのだろう。
1軒1軒しっかりチェックしながら歩いて行く感じだ。
つまりお店巡りがとにかく進まない。
そして僕が認識していた以上に売っている物が多い。
夏野菜だけでも呆れるほど多種類が出ている。
トマト、キュウリ、枝豆、トウモロコシあたりは想定内。
ピーマン、ズッキーニあたりもまあ言われてみればなるほどと思う。
でもカボチャやタマネギは秋になってからだと思っていた。
それに標高の高いあたりはアーティチョークあたりも今が本場らしい。
更にレタス、キャベツ以外の葉物や瓜の変種辺りはもう僕の知識の外。
野菜だけでもそんな感じなのに、他に肉だの乳製品だの加工食品だの……
珍しい野菜があるとローラとクレア嬢がまず立ち止まる。
クレア嬢の
いや、だからこそ好物なのだろうか。
「楽しいですよね、こういう所でのお買い物は」
「そうですわね。見た事が無いようなお野菜が結構あります」
2人して真紅のビーツだとか同じく赤いルバーブだとか、僕がよく知らない野菜類を買いまくる。
こういった一般的では無い野菜についてもブルーベル、調理法がわかるだろうか。
少しばかり不安だが仕方ない。
パトリシアやハンナ嬢は肉食派。
そういった好みに応える店も結構多い。
塊肉からハム、ソーセージ、パンチェッタ等の加工品まで。
種類も鳥、豚、牛、更にはジビエ系まで豊富だ。
「あの瓶詰めになっているアヒルのリエット、パンに厚塗りすると美味しそうですよね」
「確かにそうですね。でも私はその横にある1匹分のローストダッグをそのままかぶりついてみたいです」
「あ、確かに!」
いや待てパトリシアとハンナ嬢。
そんな食べ方は御嬢様的にアウトだ。
勿論口には出さないけれども。
買いまくるだけでなく、領主家の一員らしい観察もしている。
「これだけの人がこうして直接売りに来る事が出来るのも、鉄道という安価で気軽に使える交通機関のおかげなのでしょうね」
クレア嬢の言葉に俺は頷く。
「ええ。同じ領内なら往復
「市場に鉄道で来るのは人が運べる量まででしょうか?」
「他に領主家が市場への共同出荷事業をやっています。集落の指定場所に農産物等を持っていくと、翌朝までに領内の中央市場まで配送し、競売にかけるという仕組みです。
これもシックルード領・スティルマン領でほぼ同じ政策となっています。更に市場からの配送サービスも展開しているので、ゴーレム車を所有していない業者でも流通に参加することが可能となっています」
「そういった輸送サービスも鉄道を使用しているのでしょうか」
「ええ、うちの商会の事業です。まだ一部の地域ではゴーレム車を使用していますが、これも年内にはほぼ鉄道化出来る見込みとなっています」
クレア嬢、此処でも割と熱心だなと思う。
子爵家を継ぐ予定だから、その分領政的な事も気になるのだろう。
そういった説明をしつつ、御嬢様方が発見した特選品? を購入してお金を払い、アイテムボックスに収納するのが今日の僕のお仕事だ。
なお御嬢様方は特選品? を買うだけではない。
買い食いなんて事もする。
ロト山で食べたのと似たようなお焼きとか、日本の焼き鳥に似た大きさの豚串焼だとか。
食べ物だけでなく、布製品だの敷物なんてものまである。
この自由市場、春の時より一段とカオスになっている感じだ。
「スウォンジーってこんなに活気がある街なんですね」
「この市場が賑やかなだけですよ。所詮は人口4万の田舎町ですから」
「ネイアンは人口だけならもっと多い筈ですけれど、ここまで活気がある市場はありませんわ。これも安価で便利な交通手段おかげなのでしょうね」
リディア嬢の言葉に、確かにそうかもしれないと思う。
この市場にはスウォンジーだけでなく、領内のあちこちから買い付けに来ている人がいるようだから。
「アオカエンも鉄道が通れば少しは賑やかになるのでしょうか。ここまでとは言いませんですけれど」
これはクレア嬢だ。
「アオカエンはオルドスや東方部族との交易もありますし、伸びしろはいくらでもあると思います」
かつてオルドスや東方部族との交易はゼメリング侯爵家の独占だった。
しかし二十数年前、それら部族からの情報を秘匿し国に報告しなかったとして、侯爵家による独占交易権は解除された。
そしてアオカエンはゼメリング侯爵家の領都ディルツァイトより更に北方にあり、オルドスや東方部族の領域に近い。
だから交通さえ便利になれば伸びしろは充分にあると思うのだ。
しかし僕としてはウィラード領内で気になるのはサルマンドの温泉。
出来るだけ早く鉄道を通して観光開発したいところだ。
というか僕自身が温泉を堪能したい。
早くまとまる代わり、鉄道の線形がグチャグチャになるなんてのは勘弁だよな。
なら早く高速列車関連のアピールも始める必要がある。
高速列車の試験線や展示場をハリコフに作るなら、またジェームス氏のお世話になるよな。
なら今日、ここの市場でまたいい肉を探しておこう。
ジェームス氏が喜びそうな出物はあるだろうか。
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