第132話 間食と軽い夕食? と

 三公社前にある商会本社事務所に到着。

 領主代行2名には応接室で待ってもらい、ダルトン副商会長の他、幹部を会議室に集めて事前説明。


「なるほど、国中部へ鉄道を通す方法論についての広報を王都バンドンで実施する訳ですか」


 ダルトンの発言に僕は頷く。


「そうだ。それも出来るだけ早くという話になる。何せシックルード領主代行だけでなくスティルマン領主代行まで来ている位だ」


 そこまで言ってから懐中時計を出して時間を確認。

 

「あと半時間30分で1の鐘になる。

 1の鐘ちょうどから、此処でこの件について会議を開こう。今集められる中で必要だと思われる者を地位役職に関係なく集めてくれ。質問もあるだろうから資料持参で。急ぎだから格式や礼式は無視で結構。司会は僕がする」


「わかりました。至急準備します」


 代表でダルトンがそう回答。


「頼む。僕の方は領主代行2名ともう少し話し合った後、1の鐘で此処に案内する」


 軽く頭を下げた後、僕は立ち上がる。

 さて、それでは応接室へ移動だ。

 状況説明と、僕が持っている資料で説明できる分の説明をしておかなければ。


 いや、いっそ高速鉄道試作車を見てもらう方が手っ取り早いかもしれない。

 書類や図面より列車の実物の方が『王都バンドン~ガナーヴィン間2時間の可能性』というものを感じさせるだろう。


 試作車は現在、此処三公社前の車両基地に置いて、夜間に試験走行を行っている。

 だから今なら見学する事が可能だ。


 応接室に到着。

 ノックした後入って、2人に報告する。


「1の鐘から関係者を集めて会議を開催します。ジェームス領主代行、ウィリアム領主代行お二方共に参加して頂けるとありがたいです。

 開催まで半時間30分ありますので、その間に現在試験中の高速鉄道試作車を見ていただこうと思います」


 ◇◇◇


 会議は会議と思えない位に白熱した。

 技術部だけでなく企画営業の方からも面白いというか強烈な意見が出まくったのだ。

 領主代行が2名もいたというのに。


 2時間程で結論が出たので、司会兼商会長として僕がまとめる。


「それでは最後に確認する。


 会場はまだ未定だが、王都バンドン所在で500人程度収容可能で、最大1腕2m×1腕半3m×4半3腕1.5mの展示物と、半腕1m×1腕2mのパネル3枚を展示できるのが条件。

 

 講演内容は、

 ○ 本講演について

 ○ 高速車両の構造について

 ○ 高速車両を走らせるための線路について

 ○ 高速車両を走らせる上での台車構造について

 ○ 高速車両を走らせる為の安全保安装置について

 ○ 仮の路線案と経済性について

の6項目で、同一の内容で2日間に渡って実施。


 展示物は、

 ○ 高速時における車輪・台車振動の試験装置

 ○ 高速対応の線路と列車の模型

 ○ 鉄道を敷設した事による移動人口の増加のパネル

 ○ 講演で取り上げた仮路線案のパネル


 なお講演内容は全員配布の抄録の他、冊子形式の論文集にして当日希望者に有償配布。

 更に現在の北部大洋鉄道商会の路線、車両を紹介する柔らかめの本として、夏イベントで配った『北部大洋鉄道商会・全車両一覧』も希望者に有償配布。


 これらの資料を8月29日までに揃えて、王都バンドンへ移動可能な状態とする。

 担当者は今回挙げられた者を中心として他の業務に優先して行う。これによる人事上の調整は総務担当副長を長として行う。


 以上だ。本日は急遽集まって貰ったにも関わらず、大変有意義な決定を行う事が出来た。僕としても此処にいる全員に感謝している」


 こんな感じで会議は終了。

 出た意見のメモや裏付け資料をまとめて複写し、両領主代行へと渡して商会本社内でのお仕事は終了だ。


 ゴーレム車に3人で乗り込んで、出発。

 ジェームス氏が口を開く。


「何と言うか、此処の商会は人材の宝庫ですね。技術の方だけでなく営業や運営の方も。この会議だけでもいい話を聞けたと感じますから」


「皆、遠慮が無くて済みません」


 北部大洋鉄道商会もその元になった鉱山も、貴族だの身分関係だのを気にしないというか、遠慮なく言いたい事は言うという空気がある。


 その分率直な意見が聞けるし議論も遠慮無く戦わせる事が可能だ。

 しかし貴族2名を招く場としてふさわしいかどうかは、まあ……


「ジムの言う通り商会としてはこれで正しいんだと思うよ。これなら9月早々にやる講演会も楽しみだね」


 ウィリアム兄もそう言ってくれた。

 少しだけ安心する。


「会場の方はこちらで手配します。出来る限り早く連絡しますから」


「お願いします」


 スティルマン伯爵家なら王都バンドンのそういった施設にも顔が利くのだろう。

 

「それで少しばかり御願いがあるんだけれど、いいかな」


 何だろう。

 ウィリアム兄の御願いというのは時に洒落にならない。


「何でしょうか」


「勿論昼食は事前に食べてきたんだけれどさ。ちょっと早めに食べたからそろそろお腹が空いてきてさ。

 領主館うちで間食を食べてもいいんだけれどさ、どう考えてもリチャードのところで食べる方が美味しそうな気がするからさ。勿論ジムも一緒だ。今日は領主館うちへ泊る予定だからさ」


「そう言えばローラ達が食べていた料理、あれも見た事がありませんが、美味しそうでした。何という料理でしょうか?」


 パトリシアだけでなく、ウィリアム兄まで飯をたかる様になってしまったか。

 ジェームス氏まで一緒に。


 幸い本格的な夕食ではなく間食相当。

 なら御嬢様方用に作った串揚げセットがまだ少しは残っているだろう。

 何なら肉串を少し追加してやればいい。

 肉食のお兄様方にはデザートよりその方がいい筈だ。


「わかりました。昼の串揚げと同じもので良ければ用意いたしましょう」


 ブルーベルには申し訳ないが仕方ない。

 大量に買ったし絶対足りない事が無いように準備したから、材料は余っている筈だ。

 まさか御嬢様方が昼食で消費し尽くしているなんて事は……

 無いよな、きっと、多分。


 ◇◇◇


 思ったより食材が減っていたけれど、肉串を追加すれば何とかなる程度には在庫があった。

 なので見かけからして大食いな領主代行と、見かけによらず大食いな領主代行の2名と一緒に3名で串揚げ間食会を実施。


 ついでに本来はジェームス氏宛てのお土産のつもりで買った魑照鹿チーデジカの背ロースブロックをたたきにして投入。


 何とか満足して帰って貰った。

 しかしおかげで僕はその後の夕食、満足に食べられなかった。

 昼食がランチパーティだったので夕食は(貴族的には)簡単な料理だったのだけれど。


 その料理とはブルーベル謹製、久留米国道系風豚骨ラーメン・餃子・焼き飯セット。


ハドソン領うちのアブロ鍋に似て濃厚ですけれど、嫌な臭いは無いですし、こちらの方が上品で美味しいですわ」


「私ははじめてです。このスープの味、癖になりそうです」


「これってリディアの話を聞いてから作ったの?」


 パトリシアの質問に頷いて答える。


「そうです。リディアさんの領地にあるアブロ鍋の話を聞いて思い出しまして。

 昨日帰った後、記憶にあるレシピとともにうちのコックに説明して、作らせた訳です。昨日の今日で完成しているとは思いませんでしたけれど」


 しかも餃子と焼き飯までつけてくるとは思わなかった。

 勿論これらについても昨晩説明はしたのだけれども。


 ブルーベル、大丈夫だろうか。

 作りたいものがあると飲食睡眠全て忘れて研究する癖があるし。


 あとで様子を確認しておこう。

 何なら明日はブルーベルだけ休みにしてもいい。

 料理はその気になれば仕出しなり何なりで出来るから。

 朝食と昼食は外で買って食べればいいし。


「そういえばお兄、皆と相談したんだけれどさ。明日、もう一回海に行きたいなって」


 海か……

 疲れそうだが仕方ない。

 ブルーベルを休ませるにも丁度いいだろう。

 朝は駅弁サンドイッチ、昼は向こうで焼きそばを食べればいいし。


「いいですよ。それでは明日、8の鐘の時間に出る急行で行きましょう」 


 僕の体力は正直限界。

 でも仕方ないから治療回復魔法で誤魔化すことにしよう。

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