第120話 聞き逃せない話?
「一番高そうな場所に何か立っています。あれは何でしょう」
「行ってみましょうか」
僕は知っているけれど、御嬢様方の自主性に任せてついていく。
階段終了地点からは
立っているのは直径
北側の部分を少し削って平らにしてあり、そこに『ロト山脈第3ピーク 標高
つまり山名標だ。
「なるほど、ここが山頂なのですね」
「結構高い場所まで来たんですね」
山名標の丸太を触って確認したりしている。
この世界にはカメラやスマホが無いので、長居をしたりピリピリしたりしている人がいなくて良い。
さて、休憩する際には椅子にしようか敷物&クッションにしようか。
両方ともアイテムボックスに準備してある。
周囲の観光客の皆さんは敷布派か岩に直に腰掛けているかのどちらかで、椅子派はいないようだ。
下が平坦でない場所がほとんどだし、ここは敷物が正解だろうと判断。
場所はあえて僕から口出しせず、皆さんに決めて貰おう。
「適当なところで休憩にしましょう。敷布を持ってきましたから、適当な場所に広げましょう」
「椅子を使わないのは学校の強歩訓練以来です」
「何か楽しそうですよね」
「何処にしましょうか」
この山頂の北側の方が人が少なめ。
しかし南側、ケーブルカーのある方が明るいし下の見晴らしがいい。
駅側の方が人が多いと言っても広いからそれなりに場所はある。
上野公園の花見みたいな状態ではないから問題無い。
「少し戻った側の右側、あの辺はどうでしょうか? 下が平らですしこちら側の方が見晴らしが良さそうですから」
「確かにこちら側の方が見晴らしがいいですね」
そんな感じで場所決定。
ケーブルカー駅方向へ
「それでお兄、さっき買っていたものは此処で食べるんだよね」
「ああ」
さっき買ったおかず焼と太鼓焼の袋、そして毎度お馴染み飲み物入り汽車土瓶(家から用意してきたもの)が入った袋をアイテムボックスから出して広げて配置。
「白っぽくて大きい方がおかず焼で、茶色くてやや小さいのが太鼓焼きです。おかず焼は2種類、太鼓焼きは3種類入っています。好きなのをどうぞ。
飲み物の方は紅茶と乳清飲料の2種類あります。これも好きな方で」
魔法で中身を見る事くらいは簡単に出来る筈だ。
だからこれ以上の説明は省略のつもりだった。
しかし。
「これって1人何個食べていいの?」
パトリシア……お前な……
大きさと量で一目瞭然だと思うけれど、一応言っておこう。
「おそらく1個ずつでお腹いっぱいになると思います。ただ見た通り数はあるので多めに食べても大丈夫です。余った分はまたアイテムボックスに入れて持ち帰りますから」
「大丈夫、余ったら私のアイテムボックスに入れておくから」
いや、どちらも余るの前提で買ったのだ。
使用人の皆さんの分を考慮に入れて。
特に今は御客様が来ている分、皆さんに苦労をかけている。
お手伝いに実家から来てくれているメイドさんもいるし。
そんな裏の事情はここでは言わないけれど。
それにパトリシア、昨日だって余ったおやつほぼ全部を自分のアイテムボックスに回収している筈。
スティックケーキだのレーズンウィッチもどきだの、シンカンセンスゴイカタイアイスもどきだの……
勿論パトリシアにもそれなりに思惑はあるのだろう。
学校に帰ったら友人等に配るとか。
自分で後で食べる為だけに集めている訳ではあるまい。
しかしブルーベル謹製の異世界おやつも無限にある訳では無いのだ。
大丈夫だろうか。
そんな事を思いつつ、僕は自分用のおかず焼と太鼓焼、乳清飲料を取る。
「それにしても、山で景色がいいだけでもこれだけ楽しめる場所になるんですね。これは勉強不足でした」
「この場所はガナーヴィンから近い分、人を呼びやすいですから。自分の街が一望できるというのはそれなりに面白いかなと思いまして」
これはウィラード子爵家のクレア嬢だよな。
そう確認しつつ返答する。
「大都市に近いという事もまた価値なのですね。近いといっても鉄道という新しいものがあるからこそ行き来が楽に出来るのでしょうけれども。
そう言う意味では実家の領地の参考には出来ないのでしょうね。ウィラード領は北の外れで、距離的には近いディルツァイトとも山を隔てて行き来が難しいですから」
やはりクレア嬢で正しかった。
少し安心しつつ、返答を考える。
「ガナーヴィンとアオカエンの間の距離は、ガナーヴィンとスウォンジーとの間の距離とそう変わりません。ですから交通手段さえ整えて、そして他の場所にない何かがあれば、それだけで何とかなると思います。
例えばこれは外国の本で読んだのですが、遙か東にある国では地面からお湯が出ている場所があるそうです。
お湯の成分が普通の水と違って、浸かるによって健康になったり病気が治るという事で、それだけで人を呼ぶ場所になっているらしいです。
これは勿論特殊な例です。ただそういった何か他と違う事を探し出せれば、面白い事になる可能性が高いと思います」
そう、観光といえばやっぱり温泉街だろう。
残念ながらシックルード領では温泉は無い。
勿論深く深く掘れば出ない事もないかもしれない。
しかし残念ながらそういった技術はこの国には無い。
魔法を使っても出来ない事はあるのだ。
そんな温泉への未練から、つい例として出してしまった。
しかし……
「お湯が地面から湧いている場所なら、ウィラード領にありますけれど」
なんだって!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます