第119話 ロト山登山
店を見ているうちに9の鐘が鳴り始めた。
「行きましょうか」
店を出てケーブルカーの駅へ。
あちこちの店から人が駅へと向かっているのが見える。
どうやら俺達と同じように、鐘が鳴ったら並ぼうと思っていた人たちが多かったようだ。
それでも前から数えて7人目に位置どる事に成功。
さっと並んだ数を確認。
今のところ40名くらいだ。
確かこのケーブルカー、座席定員は52名。
座れる人数分になるように切符を発券しているのだろう。
「車内のどの辺に座った方がいいとかある?」
パトリシアが聞いてきた。
「中は階段状になっているからどの席からも下方向は見えます。ただ狙うなら下の奥の方ですね。下の手前側は車掌が座りますから」
「下方向を見るんですか?」
これはウィラード子爵家のクレア嬢だったかな。
微妙に自信が無い。
昨日の今日なので完全に顔と名前を一致させたわけではないから。
「ええ。このケーブルカーは全部の座席が下方向を向いています。登っていくにつれて見える景色が広がっていく事が最大の見所です」
「そう言えば2年前に乗せて頂いたあの山に登る乗り物もそうだったですね」
「私はあの時いなかったので、楽しみなんです」
先程の質問はクレア嬢でよかったようだ。
2年前に来ていないのはこの中では彼女だけだから。
「近づいてきました」
ケーブルカーの赤い車体が大分下まで降りて来た。
下りはそれほど人が乗っていないようだ。
8半の鐘から運行開始の筈だし当たり前か。
「まだ中には入れないんですね」
「着いた後、乗っている人が降りてからだと思うよ。さっきはそんな感じだったから」
何気にパトリシア、よく観察している。
係員が改札口というか出入口のところへやってきた。
「まもなくケーブルカーが参ります。乗っていた方が全員降り、ケーブルカーのこちら側の扉が開いた時点でここの入口を開け、列ごとケーブルカー入口へご案内いたします。
あらかじめ時間指定の乗車券を持った人以外はこの入口で魔法的に弾かれますので御了承願います。
車両には全員分の席がございます。ですので必ず座る事が出来ます。ケーブルカーの入口まで列ごと移動しますので、それまでお待ちください。
繰り返します。まもなく……」
こうやって毎回口頭説明している訳か。
駅員さんも大変だなと他人事のように思う。
◇◇◇
「あっという間でしたね」
「あのままずっと乗っていたいくらいでした」
「あの景色が広がっていく感覚、あれは癖になりそうです」
「何度も乗って往復したくなりますね」
ケーブルカーは大変好評だった。
確かにこれはなかなか楽しいと乗車3回目の僕も思う。
さて、山へ登る前に買い物だ。
御嬢様方を引き連れて2階売店へ。
大丈夫、そこそこ並んでいるけれど買えそうだ。
あと、取り敢えず今日は店に本部の連中はいない模様。
「これから山の上で食べるものを買ってきます。帰りにもよりますから、お土産はまだ買いません。お店の中や向こう側の窓から景色を見て待っていてください」
御嬢様方を列に並ばせるのは申し訳ないから、買い出しは僕1人で。
パトリシアに余分な注文をされない為の対策というのもある。
順番が回ってきたので店員のお姉さんに注文。
「太鼓焼き、ダブルクリーム7個、チーズ7個、甘豆クリーム7個。おかず焼はベーコン青菜炒めチーズ入り7個、肉キノコ根菜チーズ7個」
「わかりました、少々お待ちください」
7人いて好みが色々という事で大量注文になってしまった。
甘い物は別腹らしいから種類多めに。
おかず焼を2種類にしたのはローラの好みが肉キノコ根菜チーズかなと思ったから。
余っても構わない。
使用人の皆さんへのお土産になる。
こういった地元にない物、割と皆さん喜んでくれるのだ。
お金を払って重い紙袋を受け取って皆の方へ。
「それじゃ行きましょうか」
「ここで食べていかないの?」
「どうせなら一番景色がいい場所で食べた方がいいでしょう」
そんな感じで山へ向かう。
道はしっかり整備されていて歩きやすい。
太さもそこそこあるので人が多すぎると感じる事も無い。
そして稜線上なので景色がいい。
天気にも恵まれてかなり遠方まで見る事が出来る。
「ガナーヴィンやその先の湖、海まで見えます」
「山というのも来てみると楽しいよね」
「そうですね。意外でした。山なんてそこら中にあって珍しくないと思っていましたから」
のんびり歩いても階段までは楽々。
ただこの階段が結構長くてきつい。
途中の踊り場で休み休み登っている人も結構いる。
それでもまあ、幅が広いから邪魔にはならないけれども。
「疲れそうだから身体強化魔法を起動しますわ」
「私は魔法なしで挑戦してみます」
「なら私もそうしてみますわ。疲れたら魔法を使うという事で」
お嬢様方は身体強化魔法を使えるから問題は無さそうだ。
身体強化は治療・回復系の初歩だから、しっかり教育を受けていれば使えて当然。
貴族なら余程の馬鹿でもない限り使える筈。
だからまあ心配はしていなかったけれど。
僕は自分の体力を試すつもりはないので、最初から身体強化をかけっぱなし。
だからまあ、100段くらいなら問題ない。
「この階段で一気に登りますね」
「後ろの方も良く見えるようになったよ」
「本当です。これは立ち止まって見た方がいいです」
「あ、確かにそうですね。でもここでこれだけ見えるという事は、もっと上なら……」
皆さん元気だな。
昨日海水浴に行ったというのに。
僕は微妙に昨日の疲れが残っている気がするのだけれども。
「上が見えてきましたわ」
もうすぐ山頂だ。
魔力探査で見たところ、既に結構人がいる模様。
8半の鐘からケーブルカーが5回人を運んできているから、定員50人の5回で250人。
概ねそんな感じの人数であっている感じだ。
もちろんケーブルカーを使わないで登って来た人もいるだろう。
それにもう山頂から下に降りた人も、まだ登っていない人もいるだろうし。
ここの山頂は広いから場所は幾らでもある。
だからこれくらいの人数なら問題ない。
「到着です!」
これはハドソン伯爵家のリディア嬢。
階段の一番上まで着いたようだ。
僕の前にはあと10段残っているけれど。
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