第84話 他社製鉄道車両

 翌朝。

 ジャックサンドを朝食として食べた後、着替えて宿を出る。

 目的地は勿論旧港地区の鉄道だ。


 昨日の攻撃は特に気にしていない。

 日中に行くなら問題はないだろう。


 勿論昨日と同様、全周囲を警戒してはいる。

 服装もごく普通の、街中によくいそうな感じ。

 その辺はまあ単独行動をする貴族の嗜みみたいなものだ。

 

 昨日と同様市場を通り抜け、少しばかり海鮮類を買いあさりつつ旧港地区へ。

 昨日と違い今日は工事をやっている。

 今日は古い建物の解体工事が主体の模様だ。

 ただその解体工事の仕方が少し気になった。 


 シックルード領等では解体工事は概ね、

  ① 内部の調度品や窓ガラス等を外す

  ② 土属性魔法使いが成分調整魔法を起動し、建物を崩す

  ③ 廃材や残土等を運び出す

といった手順で行われる。


 ②で魔法により建物を崩す事で人手と解体時間を節約できるだけでなく、解体中の人身事故を防ぐ事も出来る。


 しかしここはどうやら手作業、あるいは身体強化による作業のみで建物を壊しているようだ。

 あえて人手と手間と労賃をかけて作業をする事によって雇用を増やしているのだろうか。


 あとで調べようかと思いつつ昨日確認した駅舎らしい建物の方へ。

 駅員も乗客らしい人も見当たらない。

 ただ駅舎に時刻表と乗車方法、料金が記載された紙が貼られていた。

 それらの紙を見て概要を確認。


 列車は1日3往復でこの駅の発車は9の鐘、12の鐘、3の鐘の時刻。

 途中駅は無しで乗降場はエルダスとザクレスの2箇所のみ。

 定員は12名で先着順。

 料金は乗車の際にゴーレム操縦者が徴収するとの事。


 つまりは乗合ゴーレムと同じ方式だなと理解した。

 定員も同じくらいだ。

 ひょっとしたら車体も乗合ゴーレム車を改造したものかもしれない。

 開発期間的にもその可能性は高いだろう。


 此処へ来る途中、8半の鐘の音を聞いた。

 だから9の鐘まではあと半時間ない。

 ならこの辺を離れない方がいいだろう。

 そう思った時だった。


 僕の耳が何処か聞きなれた音を感知した。

 レールを伝う低い振動、継ぎ目を超えるカッタンカッタンという音、レールと車輪が擦れ合う音……

 カポカポという牽引ゴーレムの足音も聞こえてきた。


 列車が近づいてくるようだ。

 僕は駅舎からホームに出る。


 牽引ゴーレムが見えてきた。

 市販のゴーレム車用牽引ゴーレムを2頭使っている。

 鉄道用に改造してあるかは不明だ。


 1両目は客車と思われる車両で、市販の乗合ゴーレム車を改造したもの。

 2両目以降は無蓋貨車で、石や砂をそのまま載せている。

 更にそれらの無蓋貨車には作業員らしい者が何人か乗っていた。


 僕の目の前で列車は停止する。

 客車内の気配は1人だけだ。


 その1人はよいしょと車両から降りてきて僕の方を見た。

 中年くらいの男性だ。


「おっと、お客さんかい」


「はい、そうです」


「これはザクレスの街中ではなくリウォーク川の橋手前までしか行かないけれどいいのかい。街中へ行くなら新港側で乗合ゴーレム車に乗った方が便利だぞ」


 なかなか親切だな。

 そう思いつつ返答する。


「いえ、今日は話の種にこの新しい交通機関を試してみようと思って来たものですから」


「なるほど、わかった。9の鐘が鳴ったら発車だ。それまでに客車に乗って待っていてくれ。料金は発車直前に徴収する」


「わかりました」


 男はそう言うと牽引用ゴーレムと車両の間で作業を始めた。

 牽引ゴーレムと車両を繋ぐ連結部分を外しているようだ。


 この部分も簡単な改造だ。

 本来車両と牽引ゴーレムを接続している轅部分を途中で切断し、左右の轅を接続、接続部分の間にリンク式連結器と緩衝器をつけただけ。


 客車もやはり簡単な構造だ

 車輪と車軸、連結器や緩衝器がついた台枠の上に乗合ゴーレム車の客室を載せただけに見える。


 そしてこの台枠は後ろの無蓋車と共通の模様。

 上に貨物用の箱を載せるか客室を載せるかの違いのようだ。


 なお台枠の長さは4腕8m、幅は12m程度。

 うちの森林鉄道の規格よりやや長く幅は狭い。

 おそらくゴーレム車を製造する工房で作ったせいだろう。

 ゴーレム車の幅は通常12mまでだから。

 

 どれも設備の無い場所で急いで製造されたという雰囲気だ。

 技術的に難しい事は避けてわかりやすく簡素な方法論で


 技術的には勿論うちの鉄道の方がはるかに進んでいる。

 しかし急造するならこの方針は正しい。

 故障が少ないし万が一の際にも原因究明や対策が容易だから。


 無蓋車の方では乗っていた作業員が積み荷を降ろしている。

 木材や岩は身体強化魔法を使って腕力で降ろしている形だ。

 降ろした資材はすぐ近くの空き地に積んでいる。


 砂はやはり身体強化した作業員が荷台から大型のスコップでリアカーのような人力台車へと積み替えている。

 ホッパ車みたいなものを開発すれば楽なのにと思うが仕方ない。

 そんな物はうちの鉄道にしか存在しないのだから。


 無蓋車は全部で7両連結されていた。

 強化型の牽引用ゴーレム2頭でも、ゴーレム車ならこの無蓋車1両分程度の荷物しか運べない。

 そういう意味ではやはり鉄道の効果は大きい。

 勿論この路線が比較的平坦だというのもあるのだろうけれども。


 さて、発車準備は荷物を降ろしてゴーレムを反対側に付け替えるだけのようだ。

 ならばそろそろ乗車しておくか。


 ただこの客車、車輪と台枠分高さが高くなって乗降しにくい。

 一応足をかけるハシゴのようなものがあるので、そこと扉部分にある持ち手を使って登るようにして客車内へ。


 客室は基本的に木製だ。

 座席配置は鉄道風に言えば進行方向左右ともにロングシート。

 座席は座面部分だけ若干の綿が入った革張り。

 つまりは普通の乗り合いゴーレム車そのものだ。


 乗客は僕1人なので座る場所は選び放題。

 なので後方が見える一番端の席に陣取らせて貰う。


 さて、乗り心地はどうなのだろうか。

 一応車軸と台車枠の間には板バネがあった。

 ただうちの台車に比べるとかなり固そうだ。


 もっとも速度がそれほど出ないから問題はないのかもしれない。

 そんな感じであちこちを見ながら発車時間を待つ。


 ※ 轅

   馬車から前に向かって伸びている、馬の金具と接続する棒のような部分のこと。


 ※ リンク式連結器 緩衝器

   連結にリンク(鎖)機構を使用する連結器をリンク式連結器と呼ぶ。ただ鎖では引っ張る力は伝達出来るが押す方向の力は伝達できない。

   故にリンク式連結器を使用する場合は押す方向に力を伝える緩衝器を必要とする。緩衝器は双方の車体が一定の距離より近づいた場合、バネ等の力で押し戻す事によって双方に押す方向の力を伝える。


 ※ 台枠

   鉄道車両の底部にある、上部の車体を支えたり車両の牽引力を伝えたりする構造物。自動車で言うところのフレーム。

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