第36話 領主館での話し合い
仕方ないので領主館のウィリアムに一筆書いて状況を報告。
その後お手紙も到着したので領主館でウィリアムと話し合って受け入れ体制を決定。
「この申し出は受けるしかないね。書状にある希望通り、前回ローラ嬢に対して行ったのと同じ内容でやればいい。
ただ今回は相手が領主代行だからね。僕も見学会には同行しよう。それでいいかな」
正直なところほっとした。
僕メインで受け入れるとなるとそれこそ『次回予告 城之内死す』だ。
ウィリアム、性格はともかく頭は切れる。
シックルード領の為にも問題がないよう動いてくれるだろう。
「父の方には僕から報告を入れておこう。だからリチャードは心配する事はない。受け入れ準備、宜しく頼むよ」
これもまた有り難い台詞だ。
父は4月終わりまでは戻ってこない。
おかげで僕が報告に悩む必要もなくなる。
お兄様々といった気分だ。
「さて、ここに来たついでだから別の話もしておこうか。マンブルズ鉄鉱山の件だ」
嫌な予感がする。
しかし領主代行がわざわざ話すのだ。
それに今は離れているとは言え僕は元鉱山長。
興味がない訳でもない、というか凄く気になっていたりする。
「何か変化がありましたか」
「予想以上に酷い事にね」
ウィリアムが資料を3枚、アイテムボックスから出して僕に渡し、更に続ける。
「どうやらジェフリー、ゴーレムが動かなくなった分、鉱夫を使って掘ろうという方針にしたようだね。つまりリーランド大叔父以前の状態に戻すつもりだよ。
『この方がゴーレム修理等の費用もかからないし魔法使いに高給を与える事も無い。他の鉱山でも使用している合理的な方法だ』。そんな方針が下りてきたそうだ。
勿論本人は鉱山に顔を出していない。手紙でそう指示してきたという事だけれどね。
その結果、ゴーレム操縦者がごそっと希望退職しようとしている。勿論こっちでも面倒は見る。けれど
話を聞きつつざっと読んで、そして僕はため息をつく。
とりあえずは今の話の感想から言うとしよう。
「今の鉄鉱山、ゴーレム用に整備してありますからね。人が採掘するのはかえって手間がかかりますよ」
「幹部の皆さんもそう報告しているようだけれどね。『他の鉱山で出来る事が此処で出来ない筈は無い。俺は指示した。あとはそっちがやるだけだ』なんて感じのようだね。
そもそも出てこないから話し合いにもならない。鉱山からの連絡もどれだけ読んで理解しているかわかったものじゃない。
その割には『今期の剰余金を報告して送金せよ』とか『無駄な勤務員は解雇して予算を圧縮せよ』とか、見えているお金には煩いみたいだね」
何と言うか、最悪だ。
話で知った内容も、書類の示す鉱山の現状も。
たとえば採掘量、資料によると今期3月は僕が辞める寸前の11月と比べ5割までダウン。
ゴーレム稼働率は5割を切った。
わずか4ヶ月でここまで酷くなるのかという状態だ。
こんな内容で剰余金が出ると思う方がおかしい。
もし出せるとすれば、本来ありえない事をして無理矢理金を作るしかない。
必要な設備の一部を解体して売り払うとか。
必要以上にリストラするとか。
「幹部連中が可哀想ですね」
「仕方ないから僕の方で面談やケアをしているよ。立場上リチャードに頼むわけにはいかないからね。もう少しだけ辛抱してくれって何とか頼み込んでいる状態さ」
ダルトンの髪はもう全滅しただろうか。
ふとそんな事を思ってしまう。
「とりあえず退職したゴーレム操縦者は全員
「ゴーレムをはじめとした資材類もいくらか買い取ってくれないかな。不良状態のものも多いけれど、そっちなら直して使えるだろう。価格は公平公正を確保するために外部の業者に見積もらせたから」
ウィリアムがもう1枚書類を出してきた。
見て何だかなと思う。
「僕が鉱山で改革してきた事って何なんですかね。半年も経たずにここまで駄目になるって」
書類は販売する事になった資材のリストだ。
この書類にあるうち、搬送用ゴーレム12頭は作ったばかりの新型。
それが不動という事で原材料費並みの値段になっている。
リストにある採掘用ゴーレムは旧型がメイン。
しかし旧型といっても度重なる改良で市販の一般型ゴーレムより遙かに高性能。
それらも元の価値を知っている僕から見れば二束三文と言っていい値がついている。
更に予備レールと思われる鉄材、ワイヤー類も。
「今の幹部がこれを承認したとしたら、今後操業する気が無いってことですかね」
「全て鉱山長の指示だそうだ。現在使用していない予備資材は全て売り払え。動かなくなったゴーレムも。今後は鉱夫を使用した採掘に切り替えるから必要ないってさ」
「それなら有能な鉱夫を大量に雇うあてがあるんですかね」
鉱夫は過酷かつ危険な勤務だ。
募集をしてそうそう集まるとは思えない。
「採用に関する指示は無いそうだ。いや、給与の制限だけはあったかな。一般事務員の最低賃金の5割増しまでという」
集める気がないのか、現実が見えていないのか。
多分何も考えていないだけなのだろう、そう僕は判断する。
自分の金に関する事以外は興味がない。
やるべき事は指示した。
あとは幹部が頭を捻ってやるべきだ。
ジェフリーの考えはそんなところだろう。
「森林公社としては石灰石鉱山の採掘体制拡大にも必要ですし、この値段はどう考えてもバーゲンですから全量購入しますけれどね。2月と3月の増益で十分賄えますし」
「森林公社の元の惨状を知っていると奇跡だね」
確かに川の水位低下で森林公社は瀕死状態だった。
しかし劇的に回復できたのは僕の実力ではない。
「領主家予算で運輸手段の整備が出来たからですよ」
鉄道を敷設した事で安定した運送が行えるようになった。
更に水運部を廃止したことで余分な河川工事も減った。
洪水で運送する方法を廃止した事で、洪水毎に必要となる土木工事や原状回復措置の費用も浮いた。
河川の工事をする部署が単一になったので無駄もなくなった。
森林公社が一気に業績拡大したのはこれらの結果。
つまりは領主家の資金力と鉄道の有用性のおかげだ。
「それもリチャードの実力だよ。リチャード以前に森林公社が出していたような運輸改善案なら領主家としても金を出さないしね」
ハルゼイらが出していた河川改修案か。
確かにあれには金は出せないだろう。
「なら退職するゴーレム操縦者も、販売する資材も森林公社の方で一括して受けるという事でいいね。
領主代行としては大変助かるよ」
最初からその気だった癖に、とは言わない。
しかし
実はジェフリーは領主代行の一存で解雇できる。
3月初めに状況が変わったのだ。
しかしウィリアムはまだその手を使わない模様。
今回その方法論について一言も触れなかったところを見るに。
曲者の兄が何を考えているのか、僕にはわからない。
わからないうちは不用意な言動は避けておこう。
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