第2話
私の前を通り過ぎる人達。
白い息を吐きだし、体を震わせながら。
寒さを感じなくなってから長い時が過ぎた。陽に照らされ、夜の闇に飲まれながらここにいる。
私を閉じ込めた彼との約束の場所。
巡る季節の中、彼は今どんな姿で笑っているだろう。長い時の中……歳を重ねていく彼と若いままの私。
彼と会えた運命の温もり。
彼と別れた運命の残酷さ。
通り過ぎる人達を見ながら思う。
手に入れた幸せは過去という宝物になり、2度とその時には戻れない。だからひとつひとつの
***
校舎を出たふたりを包む夕陽と冷たい風。
足を止め振り向いた綾音は塔矢を前に微笑む。今日も彼のそばにいられた喜びが綾音を包んでいる。
「なんだ? 何が可笑しいんだよ」
塔矢の問いかけに「えっと」と呟きながら綾音は空を見上げた。彼女の顔が赤いのは夕陽に照らされているだけではない。
「ありがとう、今日も一緒にいてくれて」
「は?」
塔矢は首をかしげる。
家が近く同じ学校に通っている。幼馴染みというだけで何故ありがとうと言われるのかわからない。
「一緒にいるって、ガキの頃からずっとだろ」
「それは……そうだけど」
綾音の声に
いつまで一緒にいられるかわからない。塔矢に好きな人が出来れば、一緒に歩くことも笑い合うこともままならなくなる。だから塔矢といられる時を大切にしたいのに。
「思い出になっていくもん。塔矢と一緒にいて話せることが。大事にしたいなって……思うから」
「ふうん? まぁ、いいけど。ほら、立ってたら夜になっちまうぞ」
塔矢に背中を押されるまま歩きだした。彼の手の感触が温もりとなり綾音の体を巡る。
「ねぇ塔矢。聞いてほしいことがあるの。お姉ちゃんから聞いた噂のことだけど」
「噂なんて興味ねぇよ」
「塔矢が好きな、オカルトめいたことでも?」
「オカルトか、ちょっとだけならいいか。話してみろよ」
顔をほころばせ、綾音はうなづいた。
小さな頃から塔矢は変わらない。
そっけなく話しながらも、優しさが隠れ見える男の子。だから綾音は塔矢を好きになった。
「塔矢は覚えてる? 小学校のそばにあった公園」
「あぁ、それがどうしたんだ?」
「幽霊がいるらしいの。若い女の人でね、真っ白なコートとワインカラーのセーターを着てるみたい」
綾音の隣を歩きながら塔矢は頭を掻く。幽霊というあやふやな存在と具体的な服装が頭の中で結びつかない。
「幽霊のくせに、やけにリアルだな」
「ベンチに座ってて、通り過ぎる人達を見てるんだって。もうすぐクリスマスでしょ? 誰かを待ってるのかなって思うんだけど」
「綾音って変な奴」
「え?」
「幽霊がいるってただの噂だろ? クリスマスがどうとか考えすぎ」
「だけど、好きな人に会いたいなら……その」
「なんだよ」
「会わせてあげたいなって思うの」
「だから噂」と呟き、塔矢は黙りこむ。
塔矢が知る綾音の優しさ。それは時に馬鹿げていて塔矢を呆れさせてきた。だけど今、塔矢に見える綾音の真剣な横顔。
「本当に……変な奴」
「何が変なの?」
「自分で考えろ。……で? 会わせたいからなんだよ」
「明後日の日曜日、一緒に行ってみない? 公園に」
「幽霊に会うっていうのか?」
「うん」
コクリとうなづいた綾音を前に足を止めた。
本当かどうかもわからないことに何故真剣になれるのか。危うさすら感じる馬鹿げた優しさを、ほっておけないのは幼馴染みの立場がそうさせるのか。
「宿題を忘れないのが条件な。雷が落ちてくるの懲りただろ?」
「うん、ありがとう塔矢」
嬉しそうに綾音は笑った。
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