この見事なまでの新井ショックよ。

そんなお見舞いの最中、ビシッとスーツをきた選手顧問のおじさんがやってきた。役職がついた、選手の管理、指導を担当する50代のおじさん。




溜まりに溜まったメロンを厚めに切り分けて一緒にそれを食べながら今後のスケジュールに関しての話をした。




もう間もなくオールスター休みが終わり、後半戦に突入するプロ野球。


オールスターを辞退したり、欠場した選手には、10試合の間、所属チームの試合には出られませんよという規定がある。




しかし今回は完全にもらい事故であり、オールスターを欠場するのはやむを得ないという判断が下り、その限りではないのだが、もちろん後半戦すぐに試合復帰というわけにもいかない。




それでも、首輪を外すのに1週間、トレーニング復帰まで1週間。1軍復帰まではさらに1週間という見込みだったのだが、数日早く首輪は外れた。




思っていたよりも首の違和感はなく、退院した翌日には2軍の練習場にイカルガの車で乗り付けて、関西弁コーチに見てもらいながらまずはフィジカル中心のトレーニングを開始。



その週末には、2軍の全体練習にも合流して、鎌ヶ谷遠征に行ったりして、代打という形で、試合にも少し出た。




その翌週には、1番レフトでスタメン出場して、2試合続けてマルチ安打。無難に守備機会もこなして、ちょうど2週間で1軍に復帰出来る運びとなった。







その間ビクトリーズの1軍は、2週間11試合を全敗していた。





「よー、柴ちゃん!お疲れー!」



「おー、新井さん! 首の方は大丈夫ですか!?」




「おかげさまでね。お見舞いありがとな。メロン、めちゃくちゃ美味かったぜ」




「ほんとっすか? あのメロン、1万円しましたからね」




「マジ?」




「マジッすよ! それにしても、イカルガの車カッコいいっすね! どうですか、電気自動車ってやつは」



「なかなかいい感じだよ。半月に1回充電しなきゃだけど。静かだし、ガソリン代浮くし、乗り心地もサイコーだね」




「隣にみのりんさんを乗せてデートとか行くんすか?」




「うるちゃい!」




11連敗しているとはいえ、チームの調子自体はそれほど悪くはないように見えた。それでもそれだけ負けているから調子がまずまずとも言えないレベルではあるけど。




でも、11試合あったら、少なくとも、2つ3つくらいは勝ちを拾えなくてはいけない。




しかしビクトリーズは無惨に11連敗を喫した。その負け方はまさに敗者のそれ。



プロ野球で上にいけないチームというのは、やはり接戦を制することが出来ないチームだ。




後半戦のビクトリーズはまさにそれ。



基本的には貧しい打線。




散発的な安打しか出ずに、得点出来るとしたら、もらったチャンスで犠牲フライを打ち上げるか、誰かの出会い頭なホームランのみ。



1ー2、2ー3とかで負ける試合が続いていた。





そういう僅差の試合をものに出来ないチームが勝つ時って………。






「打った!! 右中間、いい当たり!! ……センター飛び付く! 抜けましたー!! さあ、ランナーが何人返ってくるか! 3塁ランナーに続いて、2人目! 打球は右中間の深いところ、ライトがようやく追い付いた!!


新井も3塁を回る、ボールはセカンドからバックホームされますが、間に合いません!!ホームイン!! 走者一掃のタイムリーになりました!! 今日は3番に入っているシェパードの1打!ビクトリーズ、さらにリードを広げます、5ー1になりました!!」




打撃絶好調。前半戦の最後らへんから、振ればヒットになるような状態に入っているシェパードが低めのボールを叩き、ビクトリーズファンは狂喜乱舞。




フォアボールで溜まったランナーが全員ホームインし、シェパードは2塁ベース上でガッツポーズを見せた。







「これもいい当たりになりました! ライト線、フェアです! ラインギリギリ残りました! ランナーはスタートを切っている!シェパード、ホームイン! 1塁ランナーの赤月も3塁を回って突っ込んできます!!ホームイーン!!



今日は5番に入っている桃白にもタイムリーツーベースが飛び出しました!!」




宮森ちゃんとのデートパワーが健在な桃ちゃんも上手いバッティング。




この日は、9ー1というスコア。昨日まではなんだったんだという打線の活気ぶりだった。








そんな感じで開幕以来となる大型連敗を11で止めた翌日。相手の北海道フライヤーズは、高卒ルーキーピッチャーがマウンドに上がっていた。




プロ初マウンド。1軍初出場、初先発という緊張感のあるマウンドで、その高卒ピッチャーは躍動した。140キロ後半の真っ直ぐに、スピード感も切れ味もあるスライダー。そのコンビネーションに加え、緩いチェンジアップも有効だった。





5回までに、7つの三振を奪う力投。被安打2の無失点に抑えるピッチングに、スタンドからの、どよめきと歓声が徐々に大きくなっていった。




しかし、ビクトリーズに全くチャンスがないわけではない。コントロールは結構荒れているところがあるので、ちょこちょことフォアボールをもらえて得点圏にランナーを進めてはいるのだが……。




「さあ、1アウトランナー1、2塁。6回裏、ビクトリーズの攻撃です。バッターは7番鶴石。………セットポジションから第6球! アウトコースいっぱい! ストライクだ!ここは入っていました!! 見逃し三振2アウト!」




「鶴石としましては、ちょっと待ってくれよ!という感じだったんでしょうけど。この回に入っても、ストレートの勢いは抜群でした。ファウルにしていくべきでしたねえ」

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