みのりんに病室で言われた通りですわね!
ベンチに帰ってきた鶴石さんは、首を左右に振るようにしながら、あれはストライクじゃないよと不満顔。
同点に追い付く1本を期待したベンチの意気も萎む雰囲気の中、椅子に座る鶴石さんのどっしりとしたおケツを叩きながら、打席に入る並木君に、俺は声を張り上げた。
「ナミキ、かませよ、ナミキー! 狙えよ、狙えよー!初球あるぞ、ショキュー!」
俺の大声を皮切り、他の選手やコーチからも、並木君に向かって声援を送られる。
その並木君が初球のストレートを打ち返した。打球はいい当たりで左中間へと飛ぶ。
よし! と声が出たところで、センターからやってきたのは藤並君。オールスターでも披露した、俊足を生かした守備範囲の広さ。
左中間の真ん中深いところ。最後はフェンスの方を向きながら、ジャンピングキャッチでグラブにボールを納めた。
抜けていれば同点、逆転。という未来が頭をよぎった瞬間のスーパープレイ。これが東日本リーグの首位を走るチームの守備力。流れを相手に渡さない強さ。
その次のイニング。同じように2アウト1、2塁で、打席には藤並君。その打球が今度は俺の頭上へ。
同じくジャンピングキャッチを試みたが、全然届かず。これが東日本リーグの最下位を行くチームのレフトを守ってるやつの守備力だった。
1勝1敗で迎えた北海道フライヤーズとの3連戦。
5回までビクトリーズは10本のヒットを放つ攻撃を見せていた。
しかし………。
「さあ、1アウト満塁です。カウント1ボール2ストライク。セットポジションから、投げました!! 低め打った! ショートの正面に転がってしまった!!
6ー4ー3と渡ってダブルプレー! ビクトリーズ、今日4つ目の併殺打! この回も満塁のチャンスを作りましたが、得点ありません!!」
夏の頃になって、ホームランが飛び交うような試合展開になると、花火大会なんて比喩したりするが、ゲッツーが多く飛び交う時はなんて言えばいいんですかね。
北海道フライヤーズのマウンド。昨日は18歳の高卒ピッチャーだったけど、今日は41歳の超ベテラン左腕。
プロ19年目。通算120勝の技巧派。しかも最近はケガやら、投げても普段の少ない中継ぎのポジションだったりで、先発登板は実に3年ぶりだという。
ストレートの最速は134キロほど。そこにツーシーム、スライダー、カーブを織り混ぜる打たせて取るピッチングスタイル。
ビクトリーズ打線も、そのピッチャーからスコンスコンとヒットは出て、十分なチャンスも作れているのだが、あと1本が出ない。
逆に言えば、ここぞという場面で繰り出される精度の高いピッチングに打たされている形になっていた。
とはいえ、10安打を放ちながら、無得点はいただけない。
そんなことをやっていると……。
カキッ!
「打ち取った打球。フラフラっと上がった打球になりましたが、レフト線に上がっている! レフトの新井が突っ込む!ショートの赤月も下がる! 赤月か!? 赤月が飛び込むー、落ちましたー!」
打球が上がった瞬間から、落下点に向かって猛ダッシュを決め込んだ。途中、赤ちゃんのオライ、オライ! というのが聞こえて、足を緩めたのだが、打球は無情にも赤ちゃんのグラブの先っちょにかするようにしてファウルグラウンドへと弾んだ。
急いで方向転換をして、追いかける打球は3塁側のエキサイティングシートの前をコロコロ。
足から滑り込むようにしてそのボールを拾ったが、バッターランナーは余裕で2塁に到着していた。
次のバッター。
ガキッ!
「詰まった打球になりましたが、サードの前、ボテボテだ。阿久津が突っ込んで、ランニングスローで1塁に投げますが、セーフだ!! これも打ち取った当たりですが、サードへの内野安打! ノーアウト1、3塁。フライヤーズが追加点のチャンスを迎えます」
ヤバい。これ以上点を取られるのはまずいという状況なのに、アンラッキーで1、3塁とは。しかも向こうは勝負強い代打を用意している。
ビクトリーズはタイムを取り、吉野ピッチングコーチがマウンドに向かって間を取っている。
マウンド上にいるのは竹倉君。1軍と2軍をいいように行ったり来たりさせられている格好だが、今日はこの6回途中までで2失点に抑えるなかなかのピッチングを見せている。
しかもその2失点は、ゲッツー間に仕方なく与えたものであり、味方のエラーがいずれも3塁までランナーを進めてしまうことになってしまっているので、先発ピッチャーとしてはよく投げている。
それでも、ピッチャーの台所事情が苦しいうちからしてみれば、なんとか竹倉君にこの回までは投げきってもらいたいところ。
球数はもう少しで90球というところだし、ここは自慢の投げっぷりを発揮して抑えて欲しい。
「フライヤーズ、選手の交代をお知らせします。バッター、伊藤に代わりまして、岩岡。背番号43」
勝利投手の権利をもらって、10安打されながら5回を投げ終えたベテランのところに代打1番手。
先週は代打で登場してからの猛打賞をかますなど打撃絶好調の選手が現れた。
そしてプレーが再開されたその初球を捉えられた。
三遊間に飛んだ当たり。痛烈なゴロ。ショートの赤ちゃんが飛び付き、ワンバウンドでこれを押さえた。
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