助っ人に求めているのはこれなんよ。
「9回表、横浜ベイエトワールズの攻撃でしたが、ビクトリーズのクローザー、岸田が見事にピシャリ!2三振を奪うピッチングで、0に抑えました」
「ここ最近の岸田のピッチングには、目を見張るものがありますね。ストレート、変化球のコントロールもいいですし、テンポもいいですから、本当に攻撃のリズムというものを生み出しますから、チームとしてありがたいですね」
「はい!同点で迎えた9回裏、ビクトリーズの攻撃は5番のシェパードから。前の打席では、同点に追い付く2ランホームランを放っているシェパードですから、期待出来ますね」
「ええ。シェパードも最近は追い込まれた状況などでは、コンパクトなバッティングでヒットを打つことも出来ていますから、ここはじっくりピッチャーのボールを見極めて、出塁して欲しいですね」
「ベイエトワールズのマウンドには、真木が上がりました。今週は2試合に登板して、3イニングを0点に抑えている左のサイドハンドです。大きく曲がるスライダーが持ち味です」
「シェパードとすれば、苦手なタイプのピッチャーですからねえ………」
「さあ、何から入りますか。初球打ったー!! ライトへー!! シェパードー!!2打席! 2打席連発!! ライトスタンドー!! サヨナラ11号だー!!」
すげえっ!!
一瞬で終わっちゃったあ!
守備から帰ってきて、ふうとようやく一息ついた頃合いでしたから、本当にびっくりしましたよ。
カキィ!と聞こえた瞬間には、すごい歓声が上がり、チームメイトが立ち上がっていて、佐鳥打撃コーチもお腹を揺らしながら両手を握ってガッツポーズしていた。
打ったシェパードもベンチに向かって、おい!見たかよ!と言わんばかりに、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでいた。
チームメイト達がグラウンドに飛び出していく中、急いでお水をボトルに注いで、俺も歓声の輪の中に駆け込んでいく。
3塁コーチャーの岩田コーチと両手をバチコンと合わせたシェパードが、チームメイトが囲む栄光のホームベースに向かう。
真っピンクのヘルメットを高く放り投げ、ピザ生地を回すような仕草をしながら、シェパードがこれ以上ない笑顔でホームインした。
囲んだチームメイトからの手荒い祝福。頭や背中をバチバチと叩かれながら、俺や柴ちゃんが、ボトルに入れた冷たい水をぶっかけると、茶色い髪の毛をかきあげるようにしてシェパードは逃げる。
そんな彼をまたみんなで追いかけ回した。
5位横浜に勝利して、これで2ゲーム差。開幕11連敗という屈辱を味わいながらも、去年のほぼ半分程度の借金数でなんとか踏みとどまる形。30勝48敗2引でビクトリーズの前半戦は終了した。
「それじゃあ、行ってくるね!」
「うん、応援には行けないけど、テレビで見てるから。MVP賞目指してしっかりね」
「ははは、そんな無茶な。……行ってきます」
「行ってらっしゃい、新井くん!」
今日はオールスター。午前10時過ぎに俺は自宅を出発した。
10時半の新幹線に乗って、東京駅に着いたらちょっと買い物をして、そこからタクシーに乗ってオールスターの第1戦の会場である東京スカイスターズの本拠地である水道橋ドームに向かう。
有難いことに、東日本リーグの外野手部門で1位になることが出来まして。最終的には52万票くらいが俺に集まりました。
これはプロ野球全体で見ても、スカイスターズの平柳君、ジャガースの前村君に次ぐ3位とのこと。
平柳君はちょっと前半戦は不調があったものの、さすがの人気。恐らくは1番、2番。もしくは2番、3番の並びで打線を組むことになりそう。
外野手部門2位。首位の北海道フライヤーズの藤並君が打率3割4分ですから、彼がオール東日本の1番を打つのか3番を打つのか。
去年の覇者スカイスターズの監督さんがどたう考えているのかは、球場に着いてみないと分からないというお楽しみ。
それに、オール西日本は前村君の第1戦先発が確定していますから、それもまた楽しみな打席になりそうだ。
交流戦は寝違えて登板回避しやがりましたからね。
去年に、彼のノーノーを打ち砕く俺のプロ初ヒット以来の対戦ですから、燃えるものがありますよ。
そんなこんなで東京駅に着きまして、タクシー乗り場に向かった俺。
ちなみに今回俺の他になんと、クローザーのキッシーが監督推薦で選ばれまして、同い年コンビでオールスター出場となったわけですよ。
キッシーも初めてのオールスターということで、一緒に行こうぜと誘ったのだが、彼は都内の友人宅でお泊まりしてから水道橋ドームに向かうということで断られてしまった。
高校時代の球友達に、オールスター前祝いパーティーをしてもらうんだとさ。羨ましいことですわよ。
あれ? そういえば俺にそういう友達がいないような……。
東京駅の中で急にちっぽけな存在になってしまったことをひしひしと感じながら、タクシー乗り場に着きますと、待機していた車から、見たことあるおじさんが現れた。
「新井さん、どうも!ご無沙汰しております!」
「あ、あー! 去年、送って下さった……」
「はいー!」
ピシッとした白シャツに赤いネクタイ。紺色のジャケットを羽織ったそのタクシードライバーは、去年の若手日本代表の時にも出くわしたおじさんであった。
他にどのくらいのタクシードライバーがいるのか分からないが、また同じおじさんの車になるとはすごい確率だ。
「いやー、今回はオールスター選手。しかも、外野手部門で1位だなんてすごいですのえ! さ、お荷物お預かりしますよ」
「いえいえ、まだまだ俺の伝説はこれからですからね!!」
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