ビクトリーズに来てからようやっとる。

1塁ランナーとして見る阿久津さんのホームランは素晴らしいね。



グラウンドレベルでそのバッティングを拝見して、レフトスタンドにグイーンと伸びていく打球を2塁に向かいながら追いかけるようにして、着弾する瞬間も拝めるのだから。



ホームランが出た時の1塁ランナーは最高の特等席であると俺は言いたい。





ホームインした俺は1塁コーチおじさんと並ぶようにして阿久津さんを待つ。





「完璧な当たりでしたな、キャプテン」




「なに、君のしぶといヒットがあってこそさ。次期キャプテン」




阿久津さんはそう言って俺のおケツを触った手で、丸山コーチとハイタッチをする。



俺も負けじとキャプテンのおケツを叩きながら一緒にベンチへ戻った。







その後、4番の赤ちゃんは気持ちのよい空振りの三振となった後。



カキィ!!


阿久津さんがかましたそれを上回る打球が今度はライトスタンドに向かって上がった。






「打ったー!! シェパードー!! これは文句なし!! 本人は確信しましたー! ライトスタンド! どこまでいくか!? 上段に突き刺さりましたー!!絶好調シェパードも第9号のホームランです!!リードをさらに広げます!」




すっかり暗くなった夜空のお星様になったようなどでかい当たり。



シェパードの手の長さ、腕のしなり、遠心力が存分に活きる低めを掬い上げる会心のバッティングがビクトリーズの勝利をたしかなものにした。






翌日。





「さあ、試合は2アウトランナーなし、1点ビハインドという状況で、バッターボックスにはシェパードが入っています。マウンド上はこの回から登板している、野仲。3番阿久津、4番赤月から連続三振を奪っています」




「非常に低めのストレートとスライダーのコンビネーションがいいですねえ。右バッターの阿久津、左バッターの赤月、共に低めのボールゾーンに曲がるスライダーで三振ですから。かなりキレはありそうですよ」





「そうですね。横浜はこのところ、7回、8回辺りで、リリーフ陣が点を取られてしまうパターンが続いています。


先月2軍から上がってきたこの野仲にこのところは任せている形になっています…………その野仲から!?




シェパードの打球はライト後方へ上がっている!? 深めの守備位置だったライトからさらにバックしてバックして………オーバーフェンスでしたー!!2試合連発!! シェパードの10号ソロは、同点のホームランということになりました!!」





「いやー、ちょっと打球が上がりすぎたかなと思ったんですが、多少風に押されましたかね」





「ええ! 上空はホームからライト方向へまさに追い風。緩やかな風が吹いていましたが、低めの真っ直ぐを見事に捉えていきました!!」







長い足をゆったゆったと大股にしつつ、ゆっくりとした歩調でシェパードがダイヤモンドを1周する。




3塁コーチおじさんとハイタッチをしてホームインしたシェパードは、桃ちゃんと曲げた腕をガチッとぶつけ合い、ニコニコと笑いながら萩山監督らに出迎えられた。




選手達のお出迎えも終わり、ヘルメットを外したシェパードが少しウェーブのかかった短めブロンドをかきあげる。




「すごいね、シェパード。どうしちゃったの?」




「アラサンマデハ、マダマダデスヨ」



シェパードはそう言って笑いながらドリンクを飲み干し、通訳おじさんともグータッチをしながら、モモ、モモ! と打席に立つ桃ちゃんに向かって声を張り上げた。




来日1年目だった去年の前半戦はイマイチな感じだったが、秋に入った頃からバッティングの状態が上がったシェパード。



今年はその去年の経験と対策が上手くいっている感じで、開幕から一定の調子を保っている印象だったが、本格的な夏に差し掛かりいよいよその打棒が本領発揮と言ったところか。






そして試合は同点となり、9回の攻防へ。




打のお調子マンがシェパードなら、投のお調子マンはキッシー。



彼も去年の前半戦はストレートもフォークボールも見切られまくり、打たれまくりだったが、今年はちょっと一味違っていた。








スポーツ新聞の記事などで、キッシーのトレーニング関連のことはたまに目にしていた。


どうやら自主トレの頃から、どっかの大学の研究機関にお願いして、自身の投球フォームと球質の関係を調べてもらっていたそう。




その研究結果に基づいて、俺がアドバイスした右バッターにはスライダーを生かすためのサイドスロー、左バッターには本来のオーバースローからのフォークボールを生かすピッチングスタイルがさらに進化。



サイドスローからシンカーを投げたり、フォークボールだけではなくて、ツーシームやカットボールを左バッターにも投げ込むなど、投球の幅が広がってきた印象だ。




今まではストレートとフォークだけで三振を取らなければと深みにはまっているように見えたからね。




そんな中で生まれた余計な力みが、球離れを早くさせてバッターにボールを見切られていた部分もあるでしょうから。




今年はコントロールもよくて、ストレートも150キロ、151キロくらいがバンバン出ていますから、調子は本当にいいんでしょうね。




この9回を無失点で投げきることが出来れば、防御率が1点台に突入するレベルのピッチングを続けていますよ。






「ストライク、バッターアウト!!」




すごい!あっという間に9回の守りを凌いでしまった。

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