俺もトイレでオエオエしてきていいかしらん?

今日のビクトリーズはピッチャーが4人もスタメンにいるおかしなやつ。それなのに、4番に座った俺の1打が見事な先制パンチ。盛り上がるビクトリーズベンチに、どよめく熊本のお客さん達。




その対比はこれ以上なく気持ち良く俺はアームガードを外しながらベンチに向かってガッツポーズをし、レフトスタンドの応援団にも右手を上げた。





「新井の放った打球はライト前に弾みました。いかがでしょうか、このバッティングは」




「狙っていましたかね、アウトコースのボールを。決して悪いボールではありませんでしたが、きれいに打ち返しましたよね。ビクトリーズ全体を勇気づけるタイムリーになりますよ。ハードバンクスは浮き足立たないことですね」





「ええ。今のヒットで新井は…………交流戦の打率がちょうど5割となりました。交流戦が行われるようになって10数年というプロ野球ですが、まだ交流戦の打率が5割という選手はいませんので、その辺りも含めて、新井は交流戦MVP獲得のためのインパクトをどれだけ残せるかというところですが…………追い込んでいます。



空振り三振!5番の北野は低めの変化球に空振り三振に倒れまして3アウトチェンジ。しかしビクトリーズは4番新井にタイムリー、1点を先制しています」




チェンジになってベンチに戻ると、守備に向かう選手達が俺のおケツを汚い手で触っていく。



「新井さん、ナイッスー!」




「ウィ!」




「新井さん、ナイス右打ち!」




「ウィ!」





「さすが4番!」



「ウィー!」




ベンチに戻って、佐鳥コーチともハイタッチをして、ヘルメットを外しながらドリンクを飲んで、なんだか痛くなってきたお腹を擦りにながら、阿久津さんのグラブをはめつつグラウンドに飛び出す。





サードの守備位置に向かいながら………。



「ヘーイ、ロンパオ、ロンパオ!」




声出ししてボールを転がしてもらう。




そのボールを引き付けるようにして待ちながら、三遊間のところまできて捕りにいき、軽くワンステップしながら1塁へ投げる。



ビューンと真っ直ぐいった送球がややスライスしながらいい感じのノーバンでロンパオが持つ、今は亡きシェパードのファーストミットに収まった。




「ボールバークッ!!」




キャッチャーの北野君がそう宣言して、小野里君がセットポジションで投球練習最後の1球を投じる。


北野君はさすがの肩。低く鋭い送球がベースカバーに入った浜出君のところへ。



浜出がポイッとトスしたボールをセカンドの守谷ちゃんがもらい俺に投げ、それを俺が浜出君に返す。




バッターボックスに向かうハードバンクスの左バッターを眺めながら1つゆっくりと息を吐いた。






「1回裏、ハードバンクスの攻撃は、1番セカンド、本野」




向こうの1番バッターは足の速い左バッター。



とりあえずサードベースの真横くらいにポジションを取ると、ショートの浜出君がこっそりともう1歩前に出ましょうと進言した。




確かにセーフティバントを警戒するのは分かるけど、飛車角どころじゃない落ち方をしている弱小チーム相手にいきなりセーフティバントしてきますかいなと。




俺はそう思ったのだが、本職の内野手である浜出君がそう言うのだから、俺は渋々少し前に出た。






カキィ!!




初球。低めのストレートを打ち返した痛烈な打球が俺の右、3塁線を襲う。



長打コース。







バシッ!!




ダイビングして伸ばした阿久津さんグラブにボールが収まっていた。




俺は素早く立ち上がりながらボールを右手に持ち替える。その右手にしっかりボールの感触があるのを確かめながら左足だけを踏み出す。



無理はしない。バッターランナーは俊足だが、いい当たりの打球だった。少し顎を引くようにしながら小さなテイクバックでボールを素早く手放す。



3塁線、深いところからのワンバウンドスロー。




マウンドの傾斜の向こう側で土を弾きながら跳ねたボールが、体と腕と足を伸ばすロンパオの少し左へ。




もちゃ男が上手く伸ばした体の角度を変えるようにしながら、俺からの送球を両手で大事に捕球した。

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