実況！４割打者の新井さん ４

とりあえず、隠れて胃腸薬を飲んだ。

ランナーが駆け抜けた後、１塁の審判おじさんがアウトと宣告すると、どういうわけかスタンドからは大拍手。もちろんアウトになったことを悔しがるハードバンクスファンの声も混ざっているが拍手の方が明らかに大きかった。

俺は回ってきたボールをニコニコで返した後、胸と膝に着いた土を落とし、照れながらベルトの金具も緩めた。

いやー、上手くいっちゃいましたわねえ。

「３塁線、いい当たりでしたが、新井が見事なファインプレー。横っ飛び１番、この打球を掴みましてアウトにしています」

「いい反応でしたね。打球がクラブ際で跳ねたのでかなり難しい打球だったんですが、ダイビングしながらも、最後までしっかりボールを見ていましたね。

打球が飛び付いた目線の高さなら捕りやすいですが、今みたいに跳ねてしまうと、グラブが弾かれやすくなってしまうんですよ。…………小野里投手を助けましたね」

ショート浜出君が余計なこと言ってすみませんとばかりに脱帽して謝り、小野里君に向かってびっくりした表情で拍手をしていた。

ベンチの中もガランとした中にいる、佐鳥コーチやトレーナー、チームスタッフのメンバーなんかも、まさかみたいな顔をしている。

俺はどんだけ下手くそと思われていたのかしら。

カキィ！！

２ボール１ストライクからの４球目。ほぼ真ん中のストレートを叩かれ、打球が青空にグイーンと上がる、

「センターバック、センターバック！ こちらを向いて捕りました！ ここまででした。センター後方襲った打球ですが、ルーキーの露摩野が掴んでいます。２アウトです」

ガキッ！

「これも詰まった打球になりました。ファウルグラウンド１塁側のフライ。キャッチャーか？ キャッチャー北野が追いかけますが………李です！ ファーストの李が声を出して掴みました！ ３アウトチェンジ！ ビクトリーズ小野里３者凡退の立ち上がりです」

よしよしよし。

いけるやん、いけるやん。

１回の表裏が終わって１ー０とリード。

今のうちにセーブしておきたい気分だね。

２回表、うちの攻撃は６番連城君ショートゴロ、７番ロンパオ、８番碧山君共に三振であっさりチェンジ。

その裏は、４番バッター相手にフルカウントからフォアボールを与えてしまい先頭打者が塁に出てしまった。

そして５番バッター。インコースよりの変化球を叩いた。

「変化球打ちました！ 三遊間！ 新井が……上手く押さえた！ ２塁へ送球フォースアウト、セカンド守谷１塁へー！ ………アウトになりました！ ダブルプレー！ サード新井、セカンド守谷、ファーストロンパオと渡りました！ハードバンクスは痛い併殺打になりました！」

三遊間のサードからすれば真横のボールで打球に合わせづらく手元にきたところで対応しなきゃいけない打球。ハーフバウンド気味のいやらしい打球だったが、まるで吸い付くようにキャッチ出来たような、魔法のグラブ。

後はしっかり２塁ベースに向かって足を踏み出して送球した。ベースに入った守谷ちゃんとのタイミングもグンバツで、まさかのゲッツー獲得にまたしてもスタンドはどよめいた。

「ハードバンクスは併殺打！ 先頭打者が出塁しまして、チャンスを広げてまずは同点といきたいところだったんですが、今日は急遽サードに入っている新井に救われました」

「今のもねえ、サードとしては泣き所と言いますか、難しいところなんですよね。しかし新井が上手く捌きましたよ。まるでグラブに吸い付かせるような捕り方をしましたから。新井は本当にサード守ったことはないんですよね？」

「そう………ですねー。手元の資料だけですど、プロに入ってからは全てレフトでの出場と。試合前の練習などで、ライトのポジションにいるのを何度かは私も見たことがあるんですが」

「動きだったり、グラブ捌きだったり、足の動かし方だったりを見ますと結構センスはありそうですよ。集中してサードの練習をさせたら面白いかもしれませんね」

この展開ならい思ったよりもいけるかも！と思っていたその次のイニングだった。

「これもいい当たりだ！ 右中間！ ライトの碧山が追いかけますが…………その頭の上、越えていきましたー！１塁をランナーは抜けたの見てからスタート。

クッションボール、碧山からセカンド守谷に返ってきました！ ２ベースヒットになりました！ノーアウト２、３塁！ハードバンクスが一気にチャンスを広げていきます！」

インコース低めのなかなかいいボールだったように見えたが上手く打たれて右中間を破られてしまった。

１点リードというところではあるが、内野はとりあえず１アウトを取らないていけない通常守備体系。その定位置シフトのショート正面にゴロが飛ぶ。

浜出がバウンドを合わせながら捕球して、２塁ランナーを目で牽制しながら１塁へ送球。その間に３塁ランナーが返り、同点に追い付かれてしまった。

さらに続くバッターの打球はレフトへ。フルスイングしながらも、どん詰まったような嫌な感じの打球を振り返ると、レフトの連城君が１歩後ろに下がりかけてから前に出てくる格好になった。

打球はその前に落ち、慌てた連城君はそれを横に大きく弾いてしまい、逆転を許してしまった。

さらに続くバッターにはファーストに痛烈な打球。ロンパオがこれをトンネルしてしまってハードバンクスに３点目が入った。

しかも、俺のお腹の痛みはさらに増すばかりだ。