アイスは私を冷静にさせるから。

一体何が起きたんだ?



俺は目の前の光景を見て、汗だくのままその場に立ち尽くしていたのだが、ちょうど通りかかった柴ちゃんが壁にもたれるようにしてよろよろと歩いていたのだ。



「柴ちゃん、大丈夫か!? どうしたの!?」


「あ、あらいさん…………なんか、きゅうにきもちわるくなって………ウウゥエッ!」



「マジかよ。とりあえず、トイレで吐いちまえ、ほら肩貸すから」




「すみません………」





足元も覚束ない柴ちゃんをなんとかトイレまで連れていったのだが………そこも………。




「ウオオウゥ………オエッ」




「オエッ………オオオエッ………ウーエッ」





「オエッエエー…………オエッ!」



もう個室の便器に空きはないくらいピンク色のユニフォームを着た男達がオエッオエッと大合唱。



「あらい……さん……やばいっ……す………ウゥ、ウゥ、オエッ………」


そして抱えていた柴ちゃんも、いよいよ込み上げるものが限界まできた時………。




「これ使って下さい!!」




宮森ちゃんが猛ダッシュでやってきて、牛丼屋のマークが入った大きなビニール袋を広げて、柴ちゃんはそこに吐いた。




そして、力尽きたように、トイレのタイルにそのままへたりこんだ。




「宮森ちゃん、一体どうなっているんだ、これは。なんなんだ、この阿鼻叫喚具合は」



「私にも何が何だか………。バッティング練習の終わり頃から、急に皆さんが体調不良を訴え出しまして……」




「まさか、食中毒とか………? 病院に連絡は?」




「もうしてます!今、救急車で向かっているそうです」





「そうか、とりあえず萩山監督に報告しないと。萩山監督は!?」




宮森ちゃんがゆっくりと指差したのは、1番奥の個室だった。




「オエッ、オエッ、オーエッ!」




軽く覗くと、グラコン姿の白髪混じりのおじさんが便器とタイマン張ってました。




あかんやつや。




「ヘッドコーチは!? グラサンの滝原ヘッドは!? 」




「その隣にいます」





萩山監督と同じポーズ。




「オエッ、オエッ、オーエッ!」




「嘘だろ…………それじゃ、阿久津さんだ。キャプテンの阿久津さんと副キャプテンの鶴石さんは!?」




「ヘッドコーチの隣とさらにその隣です」





「オエッ、オエッ、オーエッ!」



「オエッ、オエッ、オーエッ!」







どうすんだよ、これから試合なんだぜ。





「とりあえずあれだ。無事なやつはとりあえずベンチに集合。ピッチャーも野手も一旦全員集合だ」




「分かりました! 皆さんに声掛けてきます」





「頼んだ!」




宮森ちゃんが廊下を走り出し、俺はとりあえず冷静になるためアイスを求めて外の屋台に向かった。




「えーっと………無事だったメンバーは……ひい、ふう、みい、まいん………ちょうど半分くらいか」





オエオエモードなならなかったメンバー。試合に参加出来るメンバーは、ピッチャーを含めても14人。しかも、先発登板を終えたばかりの連城君、碧山君を入れて14人だ。




「萩山監督も滝原ヘッドコーチも病院送り。主だったコーチ陣は、佐鳥バッティングコーチと岩田コーチ。………ということは、監督代行は佐鳥コーチということになりますね」




「え? マジで言ってんの?」




佐鳥コーチは大きなお腹をボリボリとかきながら困惑した表情を見せた。



「しょうがないですよ。岩田さんは3塁コーチですし。まあ、ほら、戦略コーチはいますから、相談しながらなんとかやって下さい。今日のサインはビジターのCモードですから、お間違いなく」




「おう、分かった」




急に監督とヘッドコーチがいなくなって不安かもしれないけど、佐鳥コーチにはしっかりしてもらわないといけないからね。




「まあしかし、問題は選手の方だ。こりゃあ、野手だけじゃスタメン組めないぞ」




オエオエモードにならなかった選手は……キャッチャーの北野君、内野手は守谷ちゃんと浜出君、外野は俺とロマーノだけ。


ピッチャーは今日先発の小野里君に、2軍から上がってきた高久。セットアッパーのロンパオ、そしてクローザーのキッシー。そして今日は登板予定のない、連城君と碧山君。







楽しくなってきましたわね!

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