わたくしには分かりますわ!

オキニだけど、ピンクバットやヘルメットをぶん投げるか、とりあえずキャッチャーをどつくか、ピッチャーに向かってダッシュするか、はたまた1塁ベンチに特攻していくか。



どの行動を選ぼうかと決断しようとした瞬間だった。



「警告!!」




「警告!!」




そう叫んだ球審の声がグラウンドに響いた。


俺の左太ももにべしっとボールが当たった瞬間に、はいきました! と、ベンチを飛び出そうとした両チームの人間達が思い留まっていたのだ。



どうやら、警告試合というやつになってしまったみたい。



これ以上の揉めタイムや乱闘を防ぐために、これ以降の侮辱、挑発行為は即退場になりますよという審判サイドからの最終警告。


両チームにイエローカードが出されたという状況だ。



しかしおかしくありませんか。こっちは3つ当てられた側やねん。そりゃあシェパードの見事な払い腰が決まってはいましたけれど、痛い思いしたのはこっちだけなのよ。



向こうが2発当ててきて、こっちも向こうの選手に思い切りぶち当てたとかならまだ分かる。




それなのに、俺が怒る時間も与えずに、ソッコーで警告試合を宣言するなんて、おかしくありませんか。



それなら、こっちに有利になるような判定をよろしくお願いしますよと。



俺は打席の中で相手キャッチャーをちと睨み付けながら、アームガードとフットガードを外しつつ、球審にそうクレームをつけ、渋々1塁へとゆっくり歩いた。





ビクトリーズサイドに有利になるようお願いしますよとは言ったものの、そんなものは必一切要ないくらい、試合は一方的な展開になった。




ただでさえもう7点差となっていましたけれど、この後シェパードの代わりに出た川田ちゃんがホームランの次は左中間フェンスダイレクトのツーベース。さらに鶴石さんにもタイムリーが飛び出し9ー0。





終盤には、柴ちゃんと俺の連打でチャンスを作り、阿久津さんと赤ちゃんの連続タイムリー。川田ちゃんに今日2本目となるホームランが飛び出して球団新記録となる14得点を記録した。



守りでは、4投手の継投でハードバンクス打線を封じ無失点リレー。




14ー0というスコアで西日本リーグ首位チームを圧倒した。




さらに次の日になっても勢いは衰え知らず。



初回に先制を許すも、2巡目に入ったところで相手先発がコントロールを乱し始め、4番赤ちゃんが同点タイムリーを放つと、5番シェパードのところでワイルドピッチが発生し、勝ち越し。この試合6番に入った川田ちゃん、7番高田さんの連続タイムリーツーベースで相手先発をマウンドから引きずり下ろした。




中盤に向こうもクリンナップの連続ホームランなどで2点差まで詰め寄るも、直後に俺が放ったライト線へのヒットからの阿久津さんのレフトポール直撃弾が試合を決めた。





西日本リーグ首位チームにまさかの連勝。これで交流戦も6勝5敗と勝ち越し、3戦目は熊本に移動しての地方開催の試合。









そして球界を揺るがしかねない大事件はこの日に起こった。






「新井さーん!もう起きる時間ですよー!新井さーん!ほら、起きて下さい!」




ぺしーん!!




「はうんっ!!」




柴ちゃんにおケツを叩かれて俺はようやく目を覚ました。




いやー、早い時間に寝たつもりだったんですけど、さすがに名古屋から福岡、デイゲームに移行してですからなかなか応えますわ。




しかしその遠征も今日の熊本遠征で終わり。





昨日途中で寝落ちしたみのりんとのメッセージのやりとりを確認して俺もジャージに着替え、顔を洗い、歯を磨いて朝食へと向かった。




レストランのエリアに着くと、チームのみんなは既に揃い始めていて、まだ眠たい目を擦りながらお盆を持って配膳台への列に並ぶ。



「おはよっす、新井さん」



「おや、浜出くん。ずいぶんと寝癖が酷いじゃないか」



「新井さんよりマシですよ」



顔を上げた壁の銀板に写った頭はとんがり散らかしていた。




今日の朝食は、焼シャケにハムエッグに納豆、味噌汁。



しかし、ホテルのスタッフは俺の前の前くらいで味噌汁が入っている鍋を後ろに下げてしまった。



「申し訳ありません。味噌汁がなくなってしまったので、後の方はこちらのコーンスープで………」




そう言って、よく見る小袋の粉末を紙コップに開け、そこに電気ポットでお湯を注ぎ始めた。



絶対従業員の休憩室に置いてあったやっつやん!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る