血が流れちまいますわね。

「これも暴投になってしまいましたー!! レフト線、エキサイティングシート前にボールが転がります!!3塁に向かっていた阿久津がホームに返ってきます! さらに!バッターランナーも赤月も3塁を回りました! レフトからボールは返ってきません!ホームイーン!!


ホームインですが………3塁、ビクトリーズベンチから佐鳥バッティングコーチ! あっ、ピッチャーの原田に飛び掛かっていきました! 両軍、選手達が出てきます! ホームプレートの後ろ!大変です、乱闘になりました! これを待っていました!!」




ホームインした赤ちゃんとやったぁ! と喜んでいたら、すぐ横でおデブな佐鳥さんがお腹をタプンタプンと揺らしまして、相手選手に殴りかかっていた。



佐鳥コーチのお腹で突き飛ばされたピッチャーはその場でもつれて倒れ、今度はキャッチャーが佐鳥コーチを突き飛ばし、佐鳥コーチも負けじとどすこい。



横にいた赤ちゃんが新井さん、加勢だ! というもんですから、2人でツインアタック!と叫んでキャッチャーに体当たりした。




そうこうするうちに両チームの選手入り乱れての取っ組み合い、掴み合いになり、それはそれはひどいもん。




「アー!!」



「アー!!」



と言って、相手選手を次々に投げ飛ばすなど、うちのイタリアマンが大活躍していた。




「えー、皆様にお知らせ致します。ハードバンクスの柳岡コーチ、ビクトリーズのシェパード選手は、暴力行為を働きましたので、退場と致します」




大多数の人間は仲裁に回るような形になったが、ネクストのバッターとして近めの乱闘ポジションにいたシェパードちゃんは、ハードバンクスの選手に見事な投げ落としを決めていたため退場。



そのシェパードに2発の蹴りをかましていたハードバンクスのコーチも退場となり、俺にとっての初めての乱闘は幕を閉じた。




俺と赤ちゃんのツインアタックや最初のどつき合いはセーフだったみたい。





状況としては、赤ちゃんの満塁ダブルエラー打で4点を加えたビクトリーズは6ー0とリードを広げ、ハードバンクスはピッチャーを交代。



ビクトリーズもシェパードがいなくなったので、代打に川田ちゃんが起用された。




相手ピッチャーが投球練習を終える間、俺は汚れた顔や腕を洗いながら、ベンチ裏でアンダーシャツ姿になってロッカールームに行こうとしていたシェパードにナイスファイトとだけ伝えた。






なんやかんやとありましたけれども、両チームともここから仕切り直しとなるその初球。





カキィ!




川田ちゃんが低めのストレートをものの見事に打ち返した。






「川田打ちましたー! 右中間に上がった!大きな当たりー!…………入りましたー! テラス、ホームランテラスに打ち込んでいきましたー!!代打川田の今シーズン第2号のホームランです」




完璧捉えた当たり。中段くらいまで飛んだかなと思ったけど、最後はやや失速。しかしそれでもかつての高いフェンスの上の方に当たった打球がテラス席の中で弾んだ。



ガッチリした下半身をムッチムチとさせながら、川田ちゃんがあっという間にダイヤモンドを1周。


7ー0とさらにリードが広がった。




「見事なホームランでした。川田が3塁ベンチ、チームメイトからの祝福を受けます」




「いやー、この1点というのは両チームにとって大きな1点になりますねー。乱闘終わり、ピッチャーもバッターも互いに代わってからの初球でしたから。ビクトリーズにとっては、2点3点の価値がありますし、ハードバンクスにとっては、序盤から相当なダメージのあるホームランになりますね」





ホームランを放った川田ちゃんが戻ってくると、みんなベンチから身を乗り出しながら彼を出迎える。



鶴石さんが川田ちゃんのヘルメットを奪い取ると、示し合わせたように短く切ったばかりの頭をみんなな執拗に叩く。



差し出した手に誰もハイタッチなどせずに頭をポカポカと叩くもんだから………。



「ちょっと、ちょっと! なんなんすか、痛いっすよー!!」



なんて言う川田ちゃんの白い歯がキラリと光る。



「川田ちゃん、ナイス! アイスあるから食べていいよ」



「新井さんのアイスは食えないっすよ! みのりんさんに怒られちゃうんで!」



なんて言葉が出るくらい川田ちゃんも嬉しそうだ。





シェパードが退場になったと分かった時は、あのイタリアマンなにしてんねん!と思ったが、川田ちゃんのホームランでそんな気持ちはきれいに消し去られました。



それに赤ちゃんの満塁ランニングエラーホームラン分の喜びも川田ちゃんのホームランに加算されている雰囲気になった。



7点リードとなったがまだまだ足りない。西日本リーグ首位のチームへの反逆心みたいなものもありますから、ビクトリーズナインに隙や油断というのもの一切存在しなかった。





という展開になりつつあったのだが………。







「打ちました。アウトコース引っ掛けさせましたセカンドゴロ、1アウト。この回先頭の柴崎はセカンドゴロに倒れまして、打席には新井が入ります」




俺の第3打席。この回からハードバンクスのピッチャーは若い左に代わり、俺は柴ちゃんが打ち取られたボールをイメージしながら打席に入った。



初球はそれと違う低めの落ちるボールだったのだが、問題は2球目。



左ピッチャーが右バッターに放れる、いわゆるクロスファイヤー。それがファイヤー過ぎた。



138キロのストレートが俺の左太ももを直撃したのだ。




おいおいおい。というやつですよ。




昨日の今日どころの話じゃないですかね。さっきよ。



1時間前にも真っ直ぐ当てられとんねん。





あかん。これはいかなあかん。




正真正銘の殺り合いや。



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