青タンですわ!

3回表、ビクトリーズの攻撃。



この福岡での試合、凱旋試合なのは阿久津さんの他にもう1人いました。




「3回表、ビクトリーズの攻撃は、9番セカンド、並木」




「「ワアァーッ!!」」



阿久津さんには遠く及ばないが、2年前まで福岡ハードバンクスに所属していた並木君にも、福岡のファンから温かい声援が送られる。




初球。






ビシュッ!




ブンッ!




「ストライク!」



2球目。



ビシュッ!





ブンッ!




「ストライク!」





真ん中のストレート2球で追い込まれてしまった。




並木君はちょっとだけ福岡の試合だからと力む様子を伺える感じ。本人もそれを分かっているようで、2回空振りした後に、1度打席を外して素振りをし、右バッターボックスに入り直した。



大丈夫だ。最近こそヒットが出なくて今日は指名打者制の中、9番ということになっているが、バッティング自体は堅実なものを続けていて悪くない。




自信を持てと。俺はベンチでバナナを食べながら見つめていた。




3球目。




またしてもストレートだった。





カンッ!




快音響いた打球がセンター前に弾んだ。






「「よっしゃああっ!!」」




3塁側のビクトリーズベンチが一気に盛り上がる。




それとは対照的にキャッチャーがちょっとピッチャーに対して怒っている感じ。




投げ終わったピッチャーに声を張り上げ、それを気付いてもらえなくてマウンドに少し歩み寄って、コントロールしっかり! と、険しい顔をしていた。





「1番、センター、柴崎」





「さあ、9番並木がセンターへヒットを放ちました。2年前まで育成選手として入団し所属していましたから、並木にとっては非常に嬉しい1本になりました」



「結果的にはストレートをストライクゾーンに3つ続けた形ですけど。バッテリーはちょっと並木のことを甘く見ていたなという印象でしたね。


最後のボールは1番難しかったので、それをヒットにした並木を褒めるべきですが、初球2球目とど真ん中のボールを空振りして。あっ、これならもう1球真っ直ぐで大丈夫だなという考えがありましたよね。



確かに甘いボールを2つ空振りしましたが、どちらかといえば多少力みのようなものがあって並木君が自分のスイングを出来ていないだけでしたから。その後1度打席を外して並木君は開き直ってきましたから、バッテリーはそのまま簡単に勝負にいったのは軽率でしたね」




「なるほど……。空振り1つとっても空振りの仕方を考えていかないといけないということですね。…………柴崎はバントしました。自らも生きようというバント! ピッチャーが出る! 1塁送球! ………間に合いました、アウトです。送りバント成功、1アウト2塁となります」







よしっ!柴ちゃんナイスバント。ピッチャーは不安定ですから、ここはさらなる追加点を狙っていきますわよ!




「2番、レフト、新井」






よーし! 甘いボールを狙っていくぞ!



そう気合いを入れて臨んだ打席。




その初球はインハイのストレート。胸元の高さからさらにシュート回転して体の近い方へと食い込んでくるボールだった。



しっかり踏み込んだ分、そのボールへの反応がいっぱいいっぱいになり、後ろによろけるようになりながらなんとか避けた。




あわやデッドボールになりそうなコースを攻められ球場内がどよめく。




まあ、1打席目にやられていますから、このくらい厳しくは攻めてきてもおかしくはないですよ。



俺はそんな風に解釈しながらヘルメットを被り直してまたバッターボックスに入ったのだが、腹の底辺りではメラメラとした感情がくすぶっている。




そして2球目。



またインコース。先ほどよりも高さはないボールだったが、さらに体に近いゾーンにボールがきた。



まさかとは思ったが、俺はピッチャーに背中を向ける形を取るだけで、そのボールに対して避けることはしなかった。



ドゴッ!




俺の背中に、ボールがぶち当たる。





その瞬間……。



「「ああぁー………!」」



というハードバンクスファンの声と……。




「「おいおいおい!」」



というビクトリーズファンの声が交錯した。




俺は背中の痛みを堪えながら、ゆっくりと振り返るようにして、帽子を取る気配のないピッチャーを睨み付けてから1塁に歩き出した。

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