あと10年はいけますわね!

開幕12連敗。これはあかん。どう考えてもあかん。



ちなみに開幕12連敗というのは、プロ野球ワースト記録タイ。


つまり次も負けたら新記録というわけである。



いくら自分は2軍から上がってから、2試合連続の猛打賞でスポンサー景品をたんまりもらったとはいえ、今年は98敗した去年よりも良い成績をと、新規参入2年目のビクトリーズとしては最悪もスタートである。




そんなわけでちょっと落ち込み気味に、試合後のみのりん飯にありついていたわけなのだが………。




「山吹さんもご存知の通り、ビクトリーズさんはやばくてですね。さっきもまた、試合後に緊急ミーティングですよ」



「どうしてビクトリーズ勝てないの? オープン戦は結構いい調子だったのに」



「まあ、オープン戦はあくまでオープン戦でありまして、やっぱり公式戦とは違うからね。弱いチーム相手には餌巻きをしたり、若手のお試し起用とかするわけですから、そりゃあ勝ちを拾えることもありますよ」



「こんなこと言っちゃいけないかもだけど、私はとりあえず新井くんが1軍でヒット打ってくれて安心した。新井くんが2軍にいるときは心配で、7時間しか眠れなかったから」




「めっちゃぐっすり眠ってるやん」




「おかげさまでお肌の調子がよくてですね。触ってみます?」




「どないやねん」




確かに触らずとも、みのり様のお肌がツヤツヤのぷるんぷるんなのはよく分かる。




「まさか開幕からこんなことになるなんて思わなくてね。試合前にはベンチに盛り塩したり、ベンチ裏にデカイお守りがぶら下がっていたりしてさ。………もう藁にもすがる思いだよ」




「そう。………萩山監督さん大丈夫かな?」




「いやー、なかなか参った顔してるよ。あと3回負けたらいよいよってくらいに………」




「それはなんとかしなくちゃいけないね」




「そうそう。でも改めて開幕からの試合を振り返ってみたんだけど、どうもビクトリーズには運がないような気がしてね。ほら、昨日とかさ………」



「最終回? 岸田くんが打たれちゃった場面?」




「そう。ことごとく打ち取った当たりが誰もいないところに落ちちゃったりしてさ。キッシーのピッチングは全然悪くなかったのに。あれはもはや呪われてるとさえ思ったね。


だから今のビクトリーズに必要なのは、練習とか意識を変えることとかじゃなくて、お祓いなんじゃないかと悟ったよ」




「あ、そういえば!」



オイスターソースで炒めたブロッコリーを頬張ったみのりんが何かを思い出した様子。俺に向かってモグモグする口を当ててしばらく隠すようにしていた。



「宇都宮駅の裏手に、最近よく当たるって評判の占い師がいるんだって」



「占い師?」




「そう。私と同じ製造ラインにいるおばさんが言ってたんだけど、行方知れずだった夫の居場所を特定したり、学園のマドンナとの恋を成就させたり凄いんだって! 試しに占ってもらうものありなんじゃないかな?」





「占いねえ。そんなもの当たれば苦労しないっての」










俺はそんな占いなんてと思ったのだが、他ならぬみのりんが提案してくれたことですから、2、3000円募金するつもりで、移動日となっていた翌日。



自宅近くから、宇都宮駅に向かうバスに俺は乗り込んだ。




平日のお昼前ですから、バスの乗客は少なくて、優雅にダンスを躍る余裕もあったりしまして。



バスが俺を乗せて再び走り始め、5分6分経った頃ですかね。なんとかクリニック。


なんとか歯科などの建物が側にあるバス停に停車しますと、杖をついたおばあ様がえっちらおっちらとバス乗ってきまして、ちゃんと交通電子カードをピッとやると、通路を挟んで俺の隣の座席にその曲がった腰を下ろした。



そしてガッツリ俺の方を見てきて、その老婆は言う。



「あなた、冬にこのバスで会った野球選手のお兄さんだねえ? キッヒッヒッヒッ!」






ぎぃややああぁぁぁっ!!!









「何て反応をするんだい!? 失礼な野球選手だね!」



俺の悲鳴を聞いたおばあ様は、そう言って怒りをあらわにした。



「おばあ様、まだ生きてらっしゃいましたの?あの冬を乗り越えるなんて、なかなかおやりになりますわね!」




「フン! あと10年は生きるつもりだよ!その、ふざけた喋り方は止めな!」



「ギャハハハハ!」



「何笑ってんだい! バチが当たって、ヒット打てなくなるよ!」




うちのおばあちゃんもそうだが、今の80代はまだまだ若い。杖をついているわりにはエネルギッシュで、口調もしっかりしている印象だ。



ちゃんとツッコミ入れてくれるしね。



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