呪われているようですわ!

「おっと!審判団が出て参りました。1塁ベースを指差して…………セーフ! セーフです! 判定は覆らず! フライヤーズはリクエストが残り1回! ノーアウトランナー1塁となります!」




責任審判おじさんが口を真一文字にしたまま、シュバッと両手を広げると、ビクトリーズ側の皆さんがよっしゃあ!と喜んだ。


セーフとやった審判おじさんが、フライヤーズの粟山監督に向かって、失敗したから残り1回だよと通達し、試合は開始されようとする。



その直前、今度は1塁側ベンチから萩山監督が現れ、球審に向かって腕を振りながら、同じくベンチからヘルメットを被って飛び出してきた柴ちゃんを指差した。




新井選手。交代である。




「新井さん! お疲れ様でした! アイス食べて休んでて下さい」



「おう! 後はよろしく頼むぜ。牽制でアウトになるなよ」



ようやく出番が来たかと、柴ちゃんは意気揚々と1塁ベースまでやってきて俺とハイタッチ。



逆に1塁ベースからベンチに戻る俺に、ビクトリーズファンから惜しみない拍手が送られる。



リクエストで若干水を差されたとはいえ、猛打賞を記録する活躍がありましたから、俺はこれ以上ない喜びを肌で感じた。



ですから、代表戦で活躍したサッカーのスター選手ばりに、顔の横辺りでスマートに小さく拍手をしながら、近くのスタンドのファンに手を振りつつ、チームメイトが待つベンチへと下がる。



野球選手でこうやる人見たことないんでね。




新井時人のやってみたかったシリーズでした。







柴ちゃんからお許しも貰えましたし、萩山監督やコーチの皆さんもいいんじゃねって顔をしていましたから、俺はチームメイトの祝福をある程度頂いたところで、すっと静かにベンチ裏に下がる。



ランナーを残して交代を告げられたピッチャーは、その回が終わるまでベンチに残って試合の行方を見届けるルールというか、マナーみたいなものがありますけれども。



こちとらはやれるだけの仕事はやりましたのでね。何ならドヤ顔でベンチ裏に下がっていきますよ。



するとそこには、トレーナーなトレーニングコーチ、別室で他球団の試合をチェックするスコアラーおじさんなどがいまして、そのおじさん達からも、ナイスヘッドスライディングを誉められながら俺はソーダ味のアイスを1本貪る。




そんなことをしながら、群がってきたおじさん達とわいわい話したり、宮森ちゃんに談話を取られている間に2アウト3塁までいったが得点には至らず。




逆に、9回表。11試合目にしてのチーム初勝利を賭けてクローザーキッシーがマウンドに上がった最後の守り。



先頭打者を完全に打ち取りながらのサード前内野安打。続くバッターも完全に打ち取りながらのショート前ボテボテで1アウト2塁。



3人目には普通のセカンドゴロで2アウト。



そして代打で出てきたバッターに……。




「打ち取った! 詰まった当たり! レフト杉井突っ込む! 捕れない!!フライヤーズ同点!9回2アウト! 代打杉屋のタイムリーで、土壇場! 同点に追い付きました!」







「9回表、2アウトランナー2塁。同点に追い付いたフライヤーズ、同点打を放ちました杉屋が2塁ベース上。


マウンド上ピッチャー岸田投げました!アウトコース、スライダーだ! 泳いだバッティングになりました! ファースト後方だ!長身シェパードが後ろ向きでジャンプ!!



捕れません!! コーチャー回す!コーチャー回す!ランナー杉屋が3塁を回る!! セカンドの守谷が回り込んで………バックホームだ!! ……間に合わないー!!杉屋ヘッドスライディングでホームイン! フライヤーズ勝ち越し、フライヤーズ勝ち越しです!」




嘘だろ………。全部打ち取った当たりやん。





そんな気持ちで唖然としているのは俺だけはない。



なんなんだ、これは。どうなっているんだ。



そんなざわめきがスタンド中に蔓延する。それはもう喜ぶフライヤーズさんサイドと同じくらいの。



その後、キッシーがなんとか三振に仕留めて9回表の攻撃を終わらせるも、強力な相手クローザーの前に、うちの下位打線がワン、ツー、スリー。つまり3者凡退。逆転負け。



11連敗。






そして、次の日も負けた。





2日連続でソーダアイスの当たり棒は引いたんですがねえ。




ええ、スタメン復帰から、2日連続の猛打賞でありました。







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