アニキ、やりますやん!

初球打った! 打球はレフトだ! レフトに上がった! レフトバックする! 打った高田はベンチに向かって手を挙げている! 入ったー! 弾丸ライナー突き刺さりました!


今日スタメン起用に応えました、高田! 初球のストレートをレフトスタンド、ライナーで中段まで持っていきました!!」




打球がスタンド、フライヤーズ応援団の中に着弾した瞬間、ベンチにいた全員がうおおおーっ! と、叫びながらバンザイした。



打った高田さんは、フォロースルーの流れのまま、バットを回転させるようにして放り投げ、グイーンとスタンドに向かって伸びていく打球を見上げながら、2歩ほど歩いたところでベンチに向かって開いた手を挙げていた。



打った瞬間。



俺が言えることではないが、年間5本くらいしか打たない高田さんの打球とは思えないスーパーライナー。



ラインドライブがかかることもなく、そのままスタンドの真ん中に飛んでいった打球に、もう風俗臭さは微塵も感じない。




「高田選手、今シーズン第1号のホームランでございます」



ホームインした高田さんが1塁コーチおじさんとグータッチをし、ホームラン人形をもらってベンチに戻ってくる。



それでも俺は、沸き立つ観客の声援を浴びながらダイヤモンドを回るのと、オキニの泡姫にぬちゅぬちゅしてもらうのとどちらが気持ち良いか聞いてみようと思った。










何を言ってますの?







「8回裏、北関東ビクトリーズの攻撃は……2番、レフト、新井。背番号64」



試合はいよいよ8イニング目に突入し、ビクトリーズは1点リードのまま、順調に行けばファイナルアタックになるところで、先頭打者としての打席が回ってきた。




ここまで2安打を放っている俺は、今日のゲームスポンサーである、松谷食品さんの商品、ご飯のお供6種瓶詰めセットをゲットすべく、猛打賞を目指して、バッターボックスに向かう。



ピッチャーは4人目。サイドスローからシュート、スライダーを投げ分ける右ピッチャーがマウンドに上がっていた。



初球にインコースのシュートが来ることは、打席に入る前から分かっている。





それがまずは厳しいコース。インコースギリギリから体の近いところに曲がるシュートボール。



そう簡単に、流し打ちさせないわよという相手バッテリーの攻め。



2球はだいたい同じボールがアウトコースのボールゾーンから入ってきた。コースギリギリに決まるナイスボール。そして3球目はインコースにそのまま真っ直ぐ。



俺はでかかったバットを止めた。




「ストライーク!」




カウント1ボール2ストライク。追い込まれた俺はまた少し短くバットを持つ。アウトコースに逃げるスライダーを意識しつつ、インコース付近の速いボールもケアする2段構え。



きたのはスライダー。



しかし、コースは真ん中低めのところ。俺は強く踏み込んでそのボールを三遊間に打ち返した。




その打球をショートが横っ飛び。




なにぃ! と声を漏らしながら俺は走り、1塁ベースへ得意のやつをお見舞いした。




「1塁きわどいタイミングだ!………セーフ、セーフです! 判定はセーフ!!」




「………あ、出てきましたですねえ」




「これはいきますね。チェック、チェック!北海道フライヤーズの粟山監督。すぐにベンチを出ましてモニタージェスチャーです。どうですかえ、かなりきわどいタイミングになりましたが。フライヤーズはこの試合初めてのリクエストです」



「また新井君がヘッドスライディングしましたからねえ。これはちょっと………微妙な感じですねえ」





よっしゃあ! と心の中でガッツポーズしながら、いつものヘッドスライディングを終えて立ち上がると、スタジアムはひとしきりに歓声が上がった後に、ちょっとまたざわざわした雰囲気。


観客1人1人の顔を見ると、苦笑いというか嘲笑というか。またですか、という顔をしていた。




「………コーチ、もしかして………」




「…………ああ、リクエストだよ」




「さいですか」




俺絡みのリクエストが今日何回目よ。今日何回、俺のイケメンフェイスがビジョンに写し出されてしまうわけ?



みのりんが昇天してしまいますわ。




当たり前だが、例によって審判おじさんは駆け足でバックネットに消えていき、俺はとりあえずベンチに戻って、水分補給に勤しむことにした。








「ナイスバッティング、新井」




「ナイスヘッドスライディングっす!」、



「おう!」



ベンチに戻ると、とりあえずチームメイトが俺を労い、ヘルメットを被った柴ちゃんがスポーツドリンクの入ったペットボトルを俺に投げ渡した。



ヘルメットを外し、サラサラヘアーを靡かせながら喉を潤す。



チームメイト達のちょっと余裕そうな表情を見る限り、セーフが覆ることはなさそうだ。




バックスクリーンのビジョンにも、先ほどのリプレイが繰り返し流され、ビクトリーズファンのセーフを主張する声が時たま耳に届いた。







「さあ、今ビクトリーズスタジアムのビジョンに1塁でのきわどいプレーが写されていますがどうでしょうか………。こうして改めて見ると、かなり微妙なように見えます」




「確かに最初はまあ、判定通りセーフかなと思ったんですが………スローで見るときわどいですねえ」




「新井が低めの変化球を上手く叩いて、ショートの仲島も無駄がないいいプレーでした。三遊間の深いところからのワンバウンドスローになりましたが………新井の手が先か、送球が先か。本当にきわどいです」




「しかし、1度セーフと言われたものが覆るにははっきりとしたものがないといけませんのでね。完全これはアウトと、4人の審判の意見が一致しなければ、判定は覆りませんからねえ」


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