みのりんと呼ばないで
「さあ、試合は2対2のまま、終盤7回の攻防。北海道フライヤーズのラッキーセブンの攻撃に入るところであります。ピッチャーは先発の碧山から2番手の奥田にスイッチしました、北関東ビクトリーズです。左から左。ベテランをマウンドに上げてまいりました」
「碧山君はいいピッチングしましたねえ。今日は無駄なランナーを出すことなく、失点したイニングも粘って投げられていましたし、次の登板に繋がるピッチングが出来ましたねえ」
「マウンドに上がった奥田は、今日が4試合目の登板です。去年同様、勝ちパターンの1角というポジションですが、ビクトリーズにまだ開幕から白星がないということで、今日は同点でのマウンド。ここまでピッチングは安定している奥田です」
「ビクトリーズはまあ、勝利の方程式がどうのと言ってられませんのでねえ。とにかく状態のいいピッチャーからどんどん使っていくと。そういうところでしょうね」
「なるほど。打席には、フライヤーズは遠藤が入ります。ここまで打率は4割越え、非常に好調な遠藤。ここは左対左の勝負になります…………。初球打ちました! 打ち上げた打球になりました。高く上がったフライ。レフト線、ファウルゾーンに切れていきますが…………ショート、レフトが追う!………新井が前進して掴みました! レフト線、打球が切れていくところでしたが、ピンク色のグラブで新井がナイスキャッチ! 1アウトです」
「カウント1ボール1ストライク。3球目投げました! 低め変化球掬った! フライヤーズ、縦尾の打球はいい角度で上がりました!
レフト新井がバックする! バックして、ジャンプ!フェンスの手前捕りました!いい当たりでしたが、あと1歩伸びが足りませんでした、レフトフライ! 2アウトです!」
奥田さんが投げている時は非常に守りやすい。
投げる球種によって、バッターがどんなスイングをするかが分かりやすいから、1歩目のスタートが非常にスムーズ。
今日スタメンマスクの北野君がインコースに構える。ショートの赤ちゃんから、ストレートだよというサインが来て、俺は身構える。
奥田さんが投げる。
北野君の構えたところにいく。
バッターがスイングする。
右バッターが引っ張ってレフトに飛んで来るタイミング。
バットにボールが当たる。しかし、詰まっている。打球に勢いがない。定位置に守っていた俺は全速前進。ショートの赤ちゃんが新井さん、新井さん! と叫ぶ中、落ちてくる打球に向かって足から滑り込んだ。
体の左側で出したピンクグラブにボールが収まり、思わずニッコリ。
「ナイスキャッチ! 天才!」
そう煽てる赤ちゃんの手を借りながら、俺は立ち上がりベンチに向かって走り出す。
するとマウンドのところで、奥田さんがそのまま待ってくれていた。
グラブと左手で拍手をしながら俺を待っているのだ。
「奥田さん、ナイスピッチング。ナイステンポ」
ピッチャーマウンドを通り過ぎた辺りで、ピンクグラブと奥田さんの茶色グラブを叩き合わせる。
「わりいな。なんか新井のところばっかり飛んでったよ」
「いやなに。これ以上ない守備練習になりますよ。そういえば、この前酒屋さんで、奥田さんプロデュースのお酒買いましたよ」
「マジ? ありがとう。どのやつ?」
唐突に思い出したそんな話をしながら俺達2人は最後にグラウンドからベンチへ帰還した。すると、帽子を外した奥田さんがすごい嬉しそう。冷蔵ケースを開け、小さいスポーツドリンクを飲むその顔が綻んでいる。
「透明のビンに入った奥田道ですね。700 ミリの」
「おお、あれか! 俺も1番気に入ってるやつなんだよ。ちょっと値段は高めだけど、製造工程にこだわりがあってさ。飲みやすかっただろう?」
「そうなんですよ! その日の晩飯がお刺身だったんですけど。マグロとかサーモンとかタコとか。キンキンに冷やして飲んだらめちゃめちゃ合いまして、普段あんまり日本酒は飲まないんですけど、2人で1本開けちゃいましたね」
「2人って、お相手はみのりんさんかな?」
「どうしてそれを」
「いや、お前といえばみのりんなんだろ? よかったな。新井にもちゃんとそういう相手がいて。ちょっと安心したよ。大事にするんだぞ」
みのりんの存在がブルペン陣にも知られている。
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