実況!4割打者の新井さん 4
ぎん
第4部もまたよろしくですの!
「ただいまの本塁でのプレーに対しまして、ビクトリーズ萩山監督からリクエストがありましたので、ビデオ判定を行います。しばらくお待ち下さい」
責任審判おじさんがマイクでそうアナウンスすると、ちょっとした微笑がスタジアムを包んだ。
なんだよ、早くしろよ!
さっきもやっただろ!
みたいな雰囲気はなく、むしろどちらのファンもちょっと面白がっている感じ。そしてまたさっきと同じように、必死な形相の俺は土埃を巻き上げながらヘッドスライディングするスロー映像でまた変な笑いが起きるのであった。
それでもベンチに帰れば、チームメイト達がちょっとニヤニヤしながらも、俺を温かく出迎える。
今日スタメンを外れてしまった柴ちゃんも笑顔を浮かべながらペットボトルのドリンクを投げ渡してきた。
「おっ、サンキュー柴ちゃん!」
「新井さんにしてはよく走ってましたよ! セーフっすよね! ホームのやつも」
「セーフだと思うよ。ほら、キャッチャーのタッチが俺の肘くらいのところだもん。指先がそれより先にホームベースに触ってるはずだったよ」
「しかもナイスバッティングでしたね。普通の真っ直ぐすか?」
「真っ直ぐだね。すーっと高めにそのまま来たから。俺に左中間方向に持ってかれるんだから、失投だと思うよ」
「あ、審判が出てきましたよ!」
「さあ………審判団が戻って参りまして………ホームを指差し…………セーフです!! セーフ! ビクトリーズの得点が認められます! リクエスト成功!阿久津の内野ゴロの間という形。ビクトリーズが1点を先制します!」
責任審判おじさんがまたしてもセーフのジェスチャーをすると、ビクトリーズベンチがまたよいしょー! と盛り上がり、スコアボードに1が記される。
開幕11試合目にして、ビクトリーズは初の先制である。あまりにもだ。
その後、広報おじさんにメディアと中継向けの談話している間に、ワイルドピッチで阿久津さんが2塁へ進み、4番赤ちゃんはハーフスイングを取られて三振。
そして、5番のシェパード。
低めのボールをゴルフのようなスイングで打ち返すと、打球は飛び付いたセカンドのグラブを弾くようにしてセンター前へ。
阿久津さんがホームにズササーッと滑り込み、この回2点目が入った。
「見逃し三振!! 最後はアウトコースいっぱいのストレート! 今日最速の142キロ。アレード、手が出ません!ビクトリーズ先発の碧山、今日初めての三振を奪いました」
「いいコースに決まりましたねえ。その前が変化球、変化球でしたから、それが効きましたねえ」
「これは変化球! 最後は得意のカーブ。ワンバウンドするボールでしたが、空振りを奪いました! 北野が1塁に送って2アウト。2者連続三振です!」
初回に先制点を挙げたビクトリーズ打線。その援護をもらい、同期入団である碧山君のピッチングが素晴らしいものだった。
ストレートが右バッターのアウトコース低めに決まり、鋭く落ちるドロップカーブとタイミングを外す、スローカーブのコンビネーションもよく、4回まで被安打1のピッチングだった。
しかし、2巡目に入り、5番バッターを迎えるところでフライヤーズ打線が牙を剥く。
現在東日本リーグを首位から0、5ゲーム差の2位に着ける好調な打線。最初の打席はボール球のカーブを振って三振していた左バッターがストレートを狙い打ち。
おっつけた打球がワンバウンドで俺のお腹を襲う。
僕ちんも懸命に前進してダイレクトキャッチを試みたのですが僅かに届かず、碧山君は今日初めてになるノーアウトのランナー。
次のバッターにも、ストレートを弾き返され、センター前ヒット。続くバッターには、粘りに粘られ、フォアボールを許してしまい、満塁となってしまった。
たまらず吉野ピッチングコーチがマウンドに向かい、時間を取る。投げているボールは悪くない。もう1度、コントロールというものをしっかりと念頭に置いて、丁寧に投げていこうと、そんな感じ。
とはいっても、どの打順のバッターもいやらしいフライヤーズ打線。この好機で一気に追い越したれと、再開後の初球を強振。
打球は1、2塁間へ痛烈なゴロのやつ。
しかし、ライト前に抜けようかというこの打球をセカンド守谷がナイス横っ飛びで押さえた。
地面に膝を着いたまま、セカンドに投げて1アウト。さらにショートの赤ちゃんからアホみたいな強い送球が1塁にいき、ダブルプレーが完成した。
1点取られたが2アウトランナー3塁。ここで切ればオッケー、オッケーという場面だったが、バッターボックスには恐怖のネバネバマン。
小柄な体型ながら、フライヤーズのレギュラーショートを張る選手が本領を発揮し始めた。
初球こそ、低めの変化球を引っ張って1塁側へのファウルボールになったか、1ボール2ストライクからの4球目からひたすらにネバネバモード。
ストレートをコーナーに投げようが、カーブで引っ掛けさせようが、チェンジアップで目先を変えようが、スライダーで空振りを誘おうが、ことごとくファウルにされてしまう。
どんなボールが来ても、ギリギリまで引き付けて、ベース板の上でボールに当ててむりぐりファウルにする技術はすごい。
そりゃあ、他のバッターも、2球3球くらいは同じことが出来るだろうが、この左バッターは6球7球と平気でやるからね。
ピッチャーからしたら、たまったもんじゃない。
いっそのこと、真ん中高めにスローボールでも投げてやればいいんじゃないかと思い始めた10球。
真ん中低めギリギリにストレートがいった。
それを打つネバネバ選手。打ち返したボールは高く跳ね上がり、ジャンプする碧山君の頭の上を越える。
ショートの赤ちゃん、セカンドの守谷ちゃんが前進してくるが、打球は最初高く跳ねただけのボテボテ。
バッターは左打ちの俊足選手。
同点を防ぐのは無理だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます